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ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第504回

業界に多大な影響を与えた現存メーカー AIなどの新サービスにビジネスを転換中のIBM

2019年04月01日 12時00分更新

文● 大原雄介(http://www.yusuke-ohara.com/) 編集●北村/ASCII.jp

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Watsonの源流となるチェス専用コンピューター
「Deep Thought」

 Watsonの源流は1985年まで遡る。カーネギーメロン大でコンピューターチェスを研究していたFeng-hsiung Hsu博士らのチームは、ChipTestと呼ばれるコンピューターチェス専用のチップを開発していた。

 このChipTestや、その後継のチップ(なんでも60種類以上のチップを開発したらしい)を利用したチェス専用コンピューター(のちにDeep Thought(*1)と名付けられた)は、1988年の北米コンピュータチェス選手権と、1989年の世界コンピュータチェス選手権の両方で優勝するものの、1985年から2001年までチェスの世界チャンピオンだったGarry Kasparov氏には敗れることになった。

 Hsu博士は卒業後に、彼のチェス仲間であったMurray Campbell博士と一緒にIBM Researchに雇われ、ここでコンピューターチェスの研究を続けることになる。1994年にはDeep Thoughtを改良したDeep Thought 2をリリースし、5度目の北米コンピューターチェス選手権タイトルを獲得するが、まだKasparov氏には及ばなかった。

(*1) この名前は、ダグラス・アダムスのSF作品「銀河ヒッチハイクガイド」に出てくる、「生命、宇宙、そして万物についての究極の疑問の答え」に「42」と答えたスーパーコンピューターから取っている。

チェス専用コンピューターが
ついに世界王者を打ち破る

 そこでKasparov氏を打ち破るべく開発されたのがDeep Blueである。もっとも1995年に公開されたDeep Blueのプロトタイプ(Deep Blue I)の中身は単にDeep Thought 2であって、36ノードのRS/6000 SPマシンに、1ノードあたり6個のサーチエンジンチップをアクセラレーターの形で搭載した構成となっている。

Deep Blueはすでに解体されているが、Deep Blueに使われたラックの一部がComputer History Museumに保存されている

 ただこのままではKasparov氏を打ち破るのは難しいと判断され、最終的なDeep Blue(Deep Blue II)では大幅にアクセラレーターが強化された。

 135MHz駆動のP2SCを搭載したWide Node×2と120MHz駆動のP2SCを搭載したNarrow Node×28の合計30ノードのクラスタ構成で、各々のノードには16チップのサーチエンジンが搭載される。合計では480チップであり、各々のチップは毎秒200万~250万手を検索できる。

 Deep Blue全体では最低でも1億手/秒、終盤の駒が少なくなった状態では2億手/秒の速度で盤面の検討が可能であり、1997年にKasparov氏と対戦した時には平均1億2600万手/秒で盤面を検討していたという。

 「数は力」の極北とでも言うべき力業ではあるが、逆に言えば力業によって、チェスのような高度な判断力が必要とされるゲームで人間を打ち破れることを示した、というのは間違いなく偉業ではある。

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