アスキーキッズは2019年1月から2月にかけて、テクノロジーを活用したゆとりある育児スタイルを提唱する業界団体「子育Tech委員会」と共同で、家庭で実践している子育て×ITのアイデアを募集する『子育Techアイデアコンテスト』を実施しました。
このコンテストは、各家庭に蓄積された子育て×ITのナレッジを広く子育て層に共有し、心身ともにゆとりある育児スタイルを社会全体に浸透させることを目的に開催したものです。初開催にも関わらず、全国から約50件の応募がありました。アスキーキッズと子育Tech委員会メンバー企業4社(カラダノート、cosoral、ファーストアセント、ピクスタ)で、応募アイデアを1件ずつ審査し、大賞1名、協賛企業賞4名を選出。2月24日に表彰式を行いました。
カラダノート賞:妊婦ママの胎動をパパのお腹に届ける装置「ぽこったー」
「カラダノート賞」に選ばれたのは、滋賀県の坂口智典さんのアイデア、妊娠中のママのお腹の胎動をリアルタイムでパパのお腹に届ける装置「ぽこったー」。ママのお腹の振動を検出する装置とパパのお腹を振動させる装置で構成され、それぞれをネットワークで接続した状態で使用します。
ママ側装置は聴診器で音をひろってFFTでフィルタリングし、胎動を検出したことをサーバーにWebRTC送信。パパ側の装置は胎動の通知を受け取るとソレノイドでお腹を振動させます。スマホアプリとマイコン(Arduino)を使って実装しました。
「妊娠中のママが胎動を感じて『今動いたから触ってみて!』と言われても、パパがお腹に触れると静かになってしまうこと、よくありますよね。胎動を一緒に感じることで、『今日もいっぱい動いていたね』と夫婦でそんな会話ができたら素敵だと思い、この装置を作りました。父親は妊娠中の妻の体調をなかなかわかってあげられませんが、本当はとても心配しているし、少しでも共有したいと思っているんです」」(坂口さん)。
カラダノートは、妊娠・出産・育児の悩みや不安を解消して家族の健康を支える情報&コミュニティサイト。「ぽこったー」は、その実装レベルの高さと、妊娠中の体調に関する夫婦間のコミュニケーションが増える効果を評価して、カラダノート賞に選出しました。
ポスリー賞:子供の発疹や炎症の経過写真を記録するアプリ
cosoralは、子供が小学校や保育園でもらってきたプリントを管理するアプリ「ポスリー」を提供しています。今回、プリント整理のような「名前のない家事が楽になるようなアイデア」を審査基準に「ポスリー賞」を選出しました。
ポスリー賞を受賞したのは、北海道の伊藤理子さんのアイデア「炎症等の経過写真メモ」です。子供の皮膚の発疹、炎症、腫れ、傷、便などを時間・写真・メモで記録するアプリで、その時の子供の様子や熱なども同時に記録できるようにするものです。伊藤さんの生後3カ月のお子さんが原因不明の皮膚疾患にかかった際、朝昼晩と時間おきに皮膚や便をスマホで撮って残していたのが、小児科を受診した際とても役に立ったことをきっかけに、このアイデアを思いついたといいます。「スマホのカメラロールに発疹や便の写真が残ってしまうので、パッと写真を見せて人に我が子を自慢するとき危ない思いもしました。そこで、病気の記録専用に写真を整理できたらいいなと考えました」(伊藤さん)。
遠方で0歳児育児中の伊藤さんは、授賞式は欠席されましたが、審査員のcosoral 代表取締役 齋藤明日香さんから、家事の宅配カジタク『らくらくお掃除セレクトパック』1万2000円相当が贈呈されました。
ファーストアセント賞:産後うつの気づきにつながる「Happy Mam」アプリ
ファーストアセントは、育児、医療、データサイエンス領域でサービス開発を行うテクノロジー企業。「ファーストアセント賞」は、医療領域で子育てをハックするアイデア、実装レベルを基準に選出しました。
ファーストアセント賞に選ばれたのは、千葉県の田端彩花さんのアイデア、ママの産後うつの気づきにつながるサービス「Happy Mam」。毎日の赤ちゃんの成長記録と一緒にママの気持ちや体調をスタンプで入力し、その情報をパートナーや実家の両親、自治体の保健師や病院と共有するアプリです。
田端さん自身、お子さんを出産したあとに産後うつを経験したそうです。毎月のように流れるママと赤ちゃんが命を絶つニュースに、経験者として胸を痛めていたといいます。テクノロジーを使って、周囲がママの“小さなSOS”に気付ける社会を実現したいと願い、このアイデアを思いついたそうです。治療をうけて今は産後うつから回復している田端さん、授賞式は欠席でしたが、「誰一人自ら命を絶つママがいなくなるように、テクノロジーが使われていってほしいです」と受賞コメントを寄せていただきました。田端さんには、ファーストアセント 代表取締役 服部伴之さんから、Amazonギフト券1万円分が贈呈されました。
fotowa賞:イヤイヤ期の子供と写真でコミュニケーション
ピクスタは、お宮参りや七五三などを出張撮影するサービス「fotowa」を提供している企業です。「fotowa賞」は、家族写真で日常的に家族の会話が豊かになるようなアイデアを基準に選出しました。
fotowa賞に選ばれたのは、東京都の板垣亜都子さんのアイデア「子供のコミュニケーション用画像アルバム」。まだ言葉がつたなく、自分の主張がうまく伝えられない幼児とママが、写真を使ってコミュニケーションをするためのアプリです。身の回りの物や、動作が伝わるイラストを保存してコミュニケーション専用のアルバムを作成し、子供が言いたいことがありそうなときにそのアルバムを見せて自分の主張に近い画像を選んでもらいます。
自己主張したい1歳半~2歳くらいのイヤイヤ期の子供と、イヤイヤにつきあう親の双方のストレスを軽減したいと考え、このアイデアを思いついたそうです。板垣さんには、審査員のピクスタ fotowa事業部部長 李せいさんから『fotowaギフト券』2万5000円相当が贈呈されました。
アスキーキッズ賞:保育園の送迎完了を夫婦間で通知しあうLINE Bot
アスキーキッズ賞は、福岡県の松村優大さんが開発したLINE Bot「保育園の送迎にコミュニケーションを!LINEを使った送迎通知」が受賞しました。
このシステムは、お子さんの保育園の送り迎えが完了したことを夫婦間で共有できるようにするもの。スマホからサイトへアクセスすると、LINE botから夫婦のLINEグループに送り迎えのメッセージが送信される仕組みです。保育園荷物で手がふさがっている状態でLINEにメッセージを入力するのは大変ですが、このシステムであれば、スマホのホーム画面にあらかじめ登録しておいたサイトにワンクリックでアクセスするだけで連絡が完了します。
松村さんは、お子さんが保育園に入園したのを機に、毎日の送迎を分担する夫婦間で手軽に連絡を取り合えるようにしたいと思い、このシステムを作ったといいます。クラウドインテグレーション企業でエンジニアとして働く松村さん、「ちょうど、仕事でC#を使ったLINE bot開発について調査する必要があったので、勉強もかねてC#で作ってみました」とのこと。専門であるAzureのWeb Apps上に、スマホからWebサイトへアクセスするとWebアプリケーションからLINE Messaging APIへリクエストが送信される仕組みを構築しています。
アスキーキッズ賞審査員の角川アスキー総合研究所 アスキーブランドマネージャー 稲葉一郎は、「仕事で培った技術力と、エンジニアとしてのスキルアップのための時間を、家庭の子育てに生かしているのがすばらしい」と評価。松村さんに賞品としてAmazonギフト券1万円分を贈呈しました。
大賞:紙オムツの在庫切れをLINE通知する「スマートオムツストッカー」
子育Techアイデアコンテストの大賞に選ばれたのは、東京都の阪田裕里子さんが応募したアイデア「スマートオムツストッカー」でした。スマートオムツストッカーは、ストッカーに収納した紙オムツをモーターで引き上げる装置で、オムツの減りをセンサーで感知し、一定まで減るとLINEにアラートが届くというものです。阪田さんが所属する企業の研究活動「ニンゲンラボ」で企画し、チームでプロトタイプ化したそうです。
「紙オムツそのものの性能は進化しているのに、オムツを買ってきて、取り換えて、捨てるという一連の体験は進化していません。その体験をアップデートできないかと考え、このアイデアを企画しました」と阪田さん。2人のお子さんの育児で抱いていた個人的な課題意識を、所属企業の研究開発テーマに提案し、形にしました。
阪田さんには、審査員のカラダノート 代表取締役 佐藤竜也さんから大賞賞金5万円が贈呈されました。
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今回の子育Techアイデアコンテストでは、家庭に蓄積された子育て×ITのナレッジを広く子育て層に共有するために、ギークなアイデアの発掘をはかりました。せっかくのアイデアが家庭内にとどまって共有されないのはもったいないことです。テクノロジーを取り入れたゆとりのある子育てが社会全体に浸透するために、ギーク親の皆さんにはぜひ今後も情報発信をしていってほしいと思います。
ギーク親の皆さんが家庭で実装しているテクノロジーを披露する場の1つに、国内最大級のIoTコミュニティ「IoT LT」があります。
毎月開催されるIoT LTコミュニティのイベントでは、色々な人が自分の作ったものを5分程度の時間で発表します。コミュニティを主催する菅原のびすけさんによれば、最近、IoT LTのスピンオフ企画として、育児向けIoTや家族向けIoTに特化したLT会「ファミリーテック IoT LT」ができました。「IoTやデバイスが気になっているギーク親の皆さんは、とりあえずイベントを探して顔を出してみてください」(菅原さん)とのことです。