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スタートアップが知るべき、知財法務戦略でのトラブル・失敗事例

「会社を守るためのリーガルテック活用と知財戦略セミナー」レポート

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トラブル・失敗事例から学ぶ、知財・法務で気を付けたいこと

 トークセッションでは、特許庁の網谷 拓氏、ドローンを開発するベンチャー企業、株式会社エアロネクストの取締役CIPO 中畑 稔氏が登壇。モデレーターは、株式会社角川アスキー総合研究所の北島幹雄が務めた。

テーマ1.「起業時に気を付けること」

中畑氏(以下、敬称略):「一番気にしたのは商標。後々使えなくなると、それまで投資したブランディング、マーケティングコストが台無しになる。社名のエアロネクストは、空を飛ぶドローンだけではなく、ドローンを使った点検などのサービス、ドローンのレンタル、ドローンパイロットの派遣など、いろいろな分野を網羅的にカバーするような出し方をした。会社設立の定款を作る前に、商標を出願しました」

網谷氏(以下、敬称略):「会社名やプロダクトの商標を取っていないスタートアップもたくさんいる。今、中国からの商標の出願がすごく増えている。この状況では、いつ誰に押さえられるかわからない。商標出願の手続きは難しくないので、自分でもできる。会社名の商標は、まず押さえておいていただきたい」

中畑:「既存のドローンメーカーは、制御技術が優れているが、姿勢の維持はソフトウェアで制御している。つまり、ソフトウェアが異常を起こした時に飛ばなくなってしまう。日本の上空を飛ばすための基準では、おそらくハードウェアレベルでの安全性の確保が求められると予測される。エアロネクストでは、ハードウェアで解決する技術を一番のコア・コンピタンスとし、知財で固めていった」

山本氏(以下、敬称略):「私が気を付けたのは株まわり。資本関係と特許、商標は鉄板。契約書でも知財の条項は細かくチェックされる。AIの契約は、知財の情報が複雑で説明するのはかなり骨が折れた」

中畑:「協業する相手が増えるほど、契約書のひな形を客観的に判定する目線が必要。不利な契約を交わされる危険があるので、すぐにチェックできるAI-CONの自動リスク判定機能は便利」

山本:「NDAに知財の条項が入ってしまい、トラブルになった事例が実際にある。NDAの契約内容が自社に不利な内容になっていないか気を付けたほうがいい」

テーマ2.「いい弁理士の見つけ方」

網谷:「特許庁では、スタートアップと弁理士が出会える場をつくろうと動いている。たとえば、特許庁のウェブサイトにコミュニティー機能を設けて、オンラインのやりとりの中で相性の良い弁理士さんを見つけてもらうことも考えている」

山本:「自社のビジネスを理解してくれるかどうかが大事。中長期的にどう展開したいのかをしっかり理解していないと、権利関係、法務、知財の戦略が外れてしまう。法律家としての実力も大事だが、ビジネスの話を聞いてくれているかどうかを重視したほうがいい」

中畑:「当事者意識、オーナーシップを持ってくれる弁理士さんとはやりやすい。スタートアップは人もお金も時間もなく、忙しい。スタートアップの状況を理解して、親身になってくれる先生となら、信頼関係が築ける」

株式会社エアロネクスト 取締役CIPO 中畑 稔氏(左)、モデレーターの株式会社角川アスキー総合研究所 北島幹雄(右)

テーマ3.「資本戦略と知財戦略」

中畑:「いつまでに、どれだけの特許をとればいいのか、という質問をよく受けるが、それに対する正解はない。知財は、保険的なイメージで捉えるといい。競合の数、規模によっても変わる。経験的には、資金調達をしたうちの3~5%くらいを知財予算に充てている企業が多い」

網谷:「権利範囲が広すぎても意味がない。コア技術をきちっと押さえて、そのうえで増やしていくのが望ましい。また、特許を取得すると、世界に公開されてしまう。日本だけ取ればいいのか、世界にも出すべきかも踏まえて、戦略を立てる必要がある」

山本:「プロダクトはすぐに進化するので、あっという間に新規性はなくなってしまう。すぐにキャッチアップして弁理士に伝えられる関係をつくっていかないとうまくいかないだろう」

山本:「また社外に知財があると事業が成り立たない。外部に委託する場合も、知財がどちらにあるのかを契約を締結しておくこと。資本関係では、共同創業者が途中でやめた場合、元創業者が株式をもったままだと、後々トラブルになることがある」

中畑:「大学発のベンチャーなど、先にアイデアや技術がありきで始まったベンチャーの場合、知財が会社名義になっておらず、発明者がやめた場合に知財の権利も失ってしまう可能性がある。複数で創業するときは気を付けたほうがいい」

テーマ4.「法務・知財関連の失敗談」

網谷:「新しいアイデアを論文で発表される、ネットで公開してしまうといった事例は多数散見される。アライアンスを組んでいる協業先へ先に開示をしたため、協業先のほうが権利を主張してしまう等の事例は多い」

中畑:「悪意をもって商標を取られてしまった場合でも立証するのは難しい。買取に数百万円かかった例もある。よくあるのはお金のトラブル。弁理士に依頼するときは、最初に支払う費用の総額を聞いて、納得したうえで依頼するといいだろう」

山本:「商標を自分で手続きをしたら、実はコアになる部分が取れていなかったというケースも。結果、競合に商標が取られてしまい、名前を変える羽目に。商標の取得は比較的簡単そうだが、専門家に相談したほうがよかった」

中畑:「これまでにない新しい事業、さまざまな分野に関わる複雑なサービスは、区分がわかりづらいので気を付けなくちゃいけない。もれがないように、専門家に依頼したほうが安心」

 知財や法務は、経営技術のひとつ。特許庁などのスタートアップの支援施策やAI-CONなどのリーガルテックをうまく活用して、知財・法務の戦略を立てていくことが大事だろう。

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