■世界に取り残されないためのプログラミング教育を
なぜプログラミング教育なのか。理由として、宮元市長はもうひとつの危機感を挙げた。
「2016年頃に、『世の中が、ものすごい勢いで劇的に変わる』と感じました。急いで子ども達の教育に取り入れていかないとまずい。先進国はもっと先に取り組んでおり、日本が取り残されていることも、その時に知りました。否応なく変わっていく中で、取り残される可能性があると感じたのです」
世界の中、さらに日本の中でも、急速に変わる世界の中で二重に取り残されてしまうかもしれない──危機感をおぼえた宮元市長の行動は早かった。
「その時から、もう一気に進めました。2日後には、東京の『みんなのコード』の事務所に行き、加賀市をお願いしますと話に行ったのです」
それが2016年5月のことだ。みんなのコード代表の利根川裕太氏は当時をこう振り返る。
「突然、秘書の方からメールが来ましたが、市長自らが来るとは想定していませんでした。お会いしたら、『ぜひ加賀市でプログラミング教育をやりたい。関係者全員に会わせたいから来てほしい』ということで、その月に加賀市へ行きました」
同月の5月、利根川氏は、教育委員会をはじめとした加賀市の教育関係者が集う場で、みんなのコードが展開を推進しているプログラミング教育「アワー・オブ・コード(Hour of Code)」の教材を解説し、体験会を実施した。宮元市長も、その時に初めてプログラミングに触れたという。
「プログラミング自体はさっぱりわかりませんが、体験した『Hour of Code』はブロックを組み立てていくようなもの(ビジュアルプログラミング)だったので、なんとなく理解できました。これなら学校の先生も子ども達も楽しみながら取り組めるだろうということがあらためてわかったのです」(宮元市長)
2016年5月の体験会を経て、総務省の「若年層に対するプログラミング教育の普及推進」事業プロジェクトの採択が同年7月にあり、先生向けの研修会が行われたのが8月。宮元市長がプログラミング教育を始めようと決意してから、わずか3カ月足らずのことだった。こうして、宮元市長の危機感のもと、加賀市の自治体をあげてのプログラミング教育は始まった。
最初は、市内の小学校5校の高学年児童に向けての授業だ。当時ICT環境が特別整っていたわけではなかったため、パソコン教室で有線のインターネットにつなぎ、アワー・オブ・コードによるビジュアルプログラミングを体験した。普通教室でもコンピュータを使わないプログラミング関連の授業をした。
2017年度からは、加賀市立のすべての小学校19校と中学校6校で、総合的な学習や技術の時間に、年間5時間のプログラミングの授業を実施している。