オープンイノベーションが声高に議論され、企業同士のコラボレーション事例を耳にすることも増えた昨今。その本質をどこに見出すべきか、成功のカギを握るのはバジェットを持つ大企業かスタートアップか。イノベーションの最前線に立つ今野 穣氏、麻生要一氏、加藤由将氏の3名を招いての座談会が行なわれた。会場となったのは「JAPAN INNOVATION FES 2018」。モデレーターを務めたのはビジネスマッチングを手がけるeiiconの代表、中村亜由子氏だ。
オープンイノベーションである必要性、日本の大企業文化との親和性は?
eiicon代表 中村亜由子氏(以下、中村):最初のお題は、「スタートアップと大企業の共生において、オープンイノベーションは必要か否か」といったところから切り込んでいきたいと思います。オープン・イノベーションを話題にすると必ず出る課題ですね。
グロービス・キャピタル・パートナーズCOO 今野 穣氏(以下、今野):まず、私はオープンイノベーションが5つの要素によって構成されると考えています。1つめは研究開発のアウトソース、2つめはアントレプレナーシップの獲得、あるいは接点の獲得。3つ目はアセットの開放、4つ目は社内ではできないイノベーションのジレンマの解消、5つ目は事業そのものを買って新しい事業を作ることです。
これらのいくつかはクローズドにしなければならないでしょうし、オープンにしないと意味を成さないものもありますね。東急電鉄さんはこの区別がうまいなと感じていますが、オープンイノベーションについて独自の定義などをお持ちですか?
東京急行電鉄株式会社 都市創造本部 戦略事業部事業統括部 企画担当課長補佐 加藤由将氏(以下、加藤):オープンにするか否かの定義は、特にしていませんね。鉄道会社として「安心」と「安全」は絶対なので、そこに不安要素が残るものは社内でやるようにしています。社外に出しても問題ない交通データなどは、オープンにしていますね。
あと、プラットフォームをいかに使いやすくするかというところが重要で、使いやすいほどいいサービスが乗って来ると考えています。そういう点は、かつて人気を集めたNTTドコモのiモードにコンセプトが似ているかもしれませんね。
株式会社アルファドライブ 代表取締役社長兼CEO 麻生要一氏(以下、麻生):オープンイノベーションのうち「オープン」はあくまで要素なので、「イノベーションのためのオープンであること」を忘れてはいけません。また、企業として新規事業を生み出し続けるということをきちんと定義しているかどうかも重要です。新規事業に対して投資をし続けるのか、そういう取り組みをする人を評価しているのかが重要で、これは組織文化レベルの問題ですね。
加藤:組織文化という観点では、日本企業の研究開発予算に関する認識にも問題があると思います。研究開発にはお金を出すけど、スタートアップなど社外への出資に関しては慎重な風潮があるんですよね。
中村:スタートアップへの出資金額自体も少ないんですよね。盛り上がった年でもアメリカの5%くらい。
加藤:しかも、研究開発で失敗してもあまり問題視されないのに、社外への出資でリターンがマイナスになるのは許されないみたいな考え方があるように感じます。でも研究開発で失敗したら損失出して終わりですけど、出資の損失は、その後挽回できる可能性がありますよね。こっちの方が本当は得なんじゃないの? って思うんですけど。
麻生:大企業はIRを意識して経常利益などを指標に経営しているというのが、背景にあると思いますね。株式市場でも経常利益や利益率の高い企業に人気が集まり、投資で損失を出す企業は嫌割れますし。アメリカの株式市場だと利益とかあまり見なくて、売上を伸ばしていくと時価総額が上がるので、正反対と言ってもいいと思います。
中村:結論としては、スタートアップと大企業の共生においてイノベーションがオープンであるべきかどうかというと、目的次第であると。目的によってはオープンにした方がいいものもあるし、そうじゃないものはクローズドで慎重に進めていくべきということですね。
日本の大企業の多くは、インフラを持っています。東急さんの例が出ましたが、インフラを開放してスタートアップに乗ってもらうというやり方は、やりやすい国なのではないでしょうか。新規事業に対して門戸を開いている大企業もあるという話なので、オープンでまずはスタートしていく土壌はあるのではないかと思います。