顧客対応の精度と速度を向上させ、労働時間を短縮しつつ単価アップを実現した事例を紹介
kintoneの導入が、実際にどれほどの効果をもたらすのか。それを語ってもらうために、kintoneの導入で大きな成果を挙げたという堀下社会保険労務士事務所の代表、堀下 和紀氏に登壇してもらった。
堀下社会保険労務士事務所は2005年にスタートした沖縄の事務所だ。kintone導入前は紙ベースの書類に囲まれ、深夜残業は当たり前、業務が明け方に及ぶこともあったという。しかも顧客ごとに1人の担当者をつけていたので、その担当者がいなくては顧客とのそれまでのやりとりがわからない。職員が休暇を取りにくい環境になっていた。また、対応履歴などが残っていないので退職者からの引き継ぎがスムーズにいかず、クレームに発展したこともあったとか。
「こうした労働環境を改善しよう、まずは過重労働をなくそうというのが、kintone導入のきっかけでした。kintoneになじんでもらうため、すべての職員にアプリを1人1個以上つくるようにお願いしました。kintoneの作法になじんでもらうことが目的なので、内容は簡単なものでいいんです。たとえば何年はどこからお歳暮をもらったとか、そんな情報を貯めるだけのアプリもありました」(堀下氏)
もちろん、業務環境を改善するために必要なアプリは、しっかりと作り込まれた。ペーパーレスを目指し、情報はすべてクラウド上に保存することにした。個別の担当者が顧客を担当する制度も見直され、kintone上で共有される対応履歴にもとづいて事務所全体で顧客に対応することにした。電話対応や面談対応の履歴をアプリに登録することで、誰が対応しても過去の履歴を把握できるようになり、引き継ぎもスムーズになった。
「顧客情報を管理するアプリでは、既存のアプリでは管理できないような細かい情報を登録できるようにしました。たとえば肩書きは社長と専務だけど、夫婦で経営していたりします。そういう場合、専務は社長の奥さんという情報は私たちにとっては重要な情報となるのですが、出来合のシステムでは該当する項目さえありません」(堀下氏)
ほかにも、自分でアプリを作れるkintoneならではの工夫がこらされている。企業名など検索キーワードとして使われる文字列に全角半角が入り交じらないよう、入力フォームに「全角カタカナ」などと入力文字を指定する但し書きをつけた。顧客企業単体ではなく、グループ全体での顧問料を記入する欄が設けられているというのも、現場ならではの工夫だ。同じ顧問料の顧客であっても、グループ全体が顧客になってくれている場合は、やはり扱いも変える必要があると堀下氏は言う。
「現場で欲しい情報をどんどんkintoneアプリ化してクラウド化を進めた結果、壁を埋め尽くしていたファイル書棚がなくなりました。平均的な帰宅時刻は22時から19時になり、従業員には家族と過ごす時間を持ってもらえるようになりました。労働時間を削減した一方で、顧問料の単価は上がっています。クラウド化により外出先でもすぐに対応できるようになったので、仕事が早く、正確になったことを評価してもらえた結果です」(堀下氏)
労働時間を削減して、顧客単価はアップ。まさにいいことずくめだ。また、新しい働き方ができる、労働環境がいいということで採用応募者も増えたとのこと。この後、別府氏が再び壇上に現れ、士業におけるkintone活用の秘訣をまとめた。
「社員同士の仕事を可視化できるので、属人化していた知識が会社の資産になり、顧客への対応スピードも早くなります。クラウド化が進むことで残業が減ったり、テレワークに対応できたりと、働きやすい環境も実現できます。そして次の一歩として、kintoneによる業務効率化で生まれた時間を使い、付加価値の高い提案をしていって欲しいと思います」(別府氏)
ITでできることはITで効率化し、付加価値の高い仕事に人間の時間を使おう。そういったメッセージは中小企業全般に通じるものだ。しかしその実現方法を、業種別のノウハウとして持っている点に、サイボウズの強みを感じたセッションだった。