会社経営をWatson Sr.氏から
息子のWatson Jr.氏にバトンタッチ
さて、1952年にWatson Sr.氏はまずCOOから退任、1956年にCEOからも退任して会社の経営はWatson Jr.氏にバトンタッチされると言う話は連載477回で解説したが、まずWatson Jr.氏が最初に行なったのがWilliamsburg conferenceである。
これはバージニア州のWilliamsburgにIBMの上級幹部100名あまりを集めて3日間ぶっ通しで行なった経営会議である。ここでWatson Jr.氏の下に6人からなる経営委員会を設け、その下にそれぞれのビジネスユニットがぶら下がる形となり、さらに各ビジネスユニットに大幅な権限移譲がなされた。
この仕組みは、おそらくはWaton Jr.氏が陸軍航空隊において、Follett Bradley大将の下で働いていた時の経験が生かされたのだろう。
また、Watson Jr.氏は1958年にOpen Door Programを開始する。従業員はだれでも、直属上司を飛び越えてより上級管理職に直接話をできるというもので、実はWatson Sr.氏もこれに近いものを非公式に行なっていたが、これをきちんとプログラムにしたのがWatson Jr.氏である。
翌1959年には、従業員あるいは元従業員が、会社に臨むことを公に公開できるSpeak Up!というプログラムも開始されている(現在はこれがInclusionという形で継続されている模様)。
強いて言うならばWatson Sr.氏は厳格だが公平な家長主義、Watson Jr.氏はもっとフランクな民主主義的な運営をそれぞれ実施したという感じか。ただWatson Sr.氏が打ち立てたさまざまなイノベーション(時期を考えればイノベーションとしても差し支えないだろう)は、Watson Jr.氏の下でも維持され、より発展していく。
いわゆるIBMのCorporate Cultureと言われる中でも良いことの大部分は、この2人のWatson氏が運営した60年の間に培われてきた、と言っても間違いではない。
では悪い部分とはなにか? その代表的なものが官僚主義だ。もっともこれも無理もない話ではある。グラフは1915年以降の従業員数を5年ごとにまとめてみたものだが、1950年あたりから急速に従業員が増えているのがわかる。
要するに家長主義的に経営するには1950年台あたりがすでに限界であり、その後はもう中央で管理するのは不可能になってしまったので、細かくビジネスユニットに分けて権限移譲をするとともに、Open Door ProgramやSpeak Up!を通じて問題点を収集してフィードバックを早期にかける形で維持していくしかない大きさの企業体になってしまった。
こうなると当然官僚主義がはびこるのは致し方ない。実際のところ官僚主義というのは巨大なシステムを動かすためには最適、というと語弊があるが、今のところ数十万人が働く会社を運営するにあたって、官僚主義より優れた運用体制は存在しない。
ただ当然官僚主義になじまない人間もいる。その代表例が(連載439回で紹介したGene Amdahl博士だ。そのAmdahl博士は、官僚主義が生み出すSystem/370に対抗すべくAmdahl 470Vを世に送り出した。次回はそのSystem/370の話を解説したい。
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