ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第369回
業界に痕跡を残して消えたメーカー フロッピーディスクを業界標準化したShugart Associates
2016年08月15日 11時00分更新
ここまではシステムメーカーを中心に紹介してきた「業界に痕跡を残して消えたメーカー」だが、インパクトの大きな会社は大体一巡した。このあたりでシステムメーカーは一旦お休みして、ここからはコンポーネント編をお届けしよう。またいずれシステムメーカーを取り上げることもあるだろう。
ということで、コンポーネントメーカーの最初はShugart Associatesを紹介したい。Shugart AssociatesはAlan Shugartが1973年に設立した会社である。実はこのShugart氏の経歴が非常に重要なので詳しく解説しよう。
世界初のHDDの開発に携わる
Alan Shugart氏
Shugart氏は米Redlands大を卒業後、IBMのフィールドエンジニアとして1951年にIBMに入社、その後1955年にIBMのSan Jose Laboratoryに配置転換される。このSan Jose Laboratoryは、IBM 350 RAMACの開発に携わっていた部門であり、1956年に発表、1957年に初号機が顧客に納入されている。
RAMACは“Random Access Method of Accounting and Control”の略で、「世界最初のHDD」としても有名であるが、その構成は凄まじいものである。
画像の出典は、“Computer History Museum”
システム全体の設置面積は50ft×30ft(およそ15m×9m)で、ここに直径24インチのストレージディスクが50枚格納される。
画像の出典は、“The History of Storage(Michael E. Friske, Claus Mikkelsen)”
ちなみにこのシステムの総容量は5MB、つまりストレージディスク1枚あたりの容量はわずかに100KBでしかない。ディスクの回転速度は1200rpmだそうで、平均アクセス時間は600msであるが、それでも当時としては画期的な容量と速度であった。
YouTubeに当時のコマーシャルが上がっているが、パンチカードと比較したら桁違いに高速なのは間違いない。おまけにパンチカードも消費しないから低コストになる。
ちなみにRAMACは単体で納入されたわけではなく、IBM 305というシステムと組み合わせる形で提供された。IBM 350は真空管式のプロセッシングユニットに、350枚のストレージディスク(おそらくこれは「RAMACが7台」と思われる)、パンチカードユニット(これはプログラムやデータの入出力用)、オペレーターコンソールなどから構成され、当時のリース価格が月額3200ドルであった。
1956~57年といえば、まだ戦後の固定相場が適用されていた頃で、1ドルが360円なので、月間115万2000円という計算だが、1956年といえばサラリーマンの平均月収が3万円程度だった時代だから、今の感覚で言えば月間リース額は1千万円を軽く超えていると思われる。
IBMはこれに続き、IBM 350/355/1405/7300/1301/1302/1311/...と次々に性能と容量で上回り、かつ小型化を実現したHDDを提供していくが、Shugart氏はこうしたHDDの開発にずっと携わることになった。
Shugart氏がIBMを辞任するのは1969年のことなので、おそらくはIBM 360/370に利用されたIBM 2302/2311や、その次のIBM 2314/2319あたりにも携わったと思われる。
この中で比較的重要と思われるのはIBM 1300/2300系統だろう。IBM 1301はRAMACを思わせる巨大さであるが、容量は25MBになり、転送速度も90KB/秒まで向上している。
画像の出典は、“The History of Storage(Michael E. Friske, Claus Mikkelsen)”
一方のIBM 1311は、容量こそ2MBと少ないが、リムーバブル式のディスクパックが採用された。
画像の出典は、“The History of Storage(Michael E. Friske, Claus Mikkelsen)”
このパックの中には4枚の14インチのディスクが入っており、重さは10ポンド(約4.5Kg)とされる。
画像の出典は、“IBM”
ディスクパックを交換すればデータを次々に入れられるわけで、気分的にはフロッピーディスクを抜き差ししていた昔のゲームやMS-DOSと同じように、柔軟な使い方が可能になる(*1)。
(*1)そもそもHDD搭載のゲーム機やPCしか触ったことがない若い方にはイメージできないかもしれません。すいません。
この方式はやはり便利だったようで、容量を増やしたIBM 2311や、これを8つ並べたIBM 2314などもリリースされている。
画像の出典は、“The History of Storage(Michael E. Friske, Claus Mikkelsen)”
この連載の記事
-
第800回
PC
プロセッサーから直接イーサネット信号を出せるBroadcomのCPO Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第799回
PC
世界最速に躍り出たスパコンEl Capitanはどうやって性能を改善したのか? 周波数は変えずにあるものを落とす -
第798回
PC
日本が開発したAIプロセッサーMN-Core 2 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第797回
PC
わずか2年で完成させた韓国FuriosaAIのAIアクセラレーターRNGD Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第796回
PC
Metaが自社開発したAI推論用アクセラレーターMTIA v2 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第795回
デジタル
AI性能を引き上げるInstinct MI325XとPensando Salina 400/Pollara 400がサーバーにインパクトをもたらす AMD CPUロードマップ -
第794回
デジタル
第5世代EPYCはMRDIMMをサポートしている? AMD CPUロードマップ -
第793回
PC
5nmの限界に早くもたどり着いてしまったWSE-3 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第792回
PC
大型言語モデルに全振りしたSambaNovaのAIプロセッサーSC40L Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第791回
PC
妙に性能のバランスが悪いマイクロソフトのAI特化型チップMaia 100 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第790回
PC
AI推論用アクセラレーターを搭載するIBMのTelum II Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU - この連載の一覧へ