業務ハッカーの条件とは?
大谷:さて、先ほどの話とややかぶるのですが、業務ハッカーの条件ってなんだと思いますか?
藤原:業務知識と業務改善、そしてITの3つのスキルを持っているというのが条件だと捉えています。業務知識はお客様に聞けばいいので多少薄くてもよいですが、業務改善とITのスキルはやはり必要ですね。でも、バックヤードの業務を淡々とやっているだけでは、業務改善とITのスキルを伸ばす機会がないんです。
大谷:業務知識を持っている人は普通の会社員ですが、業務改善意欲を持っている人が沢渡さんが冒頭に話していたある意味奇特な人(笑)。気合いと根性とボランティア精神で成り立っていた業務改善の領域に、手段としてのITを加えたのが業務ハッカーなのかなと捉えてます。
沢渡:私も3つあって、1つはシステムでやること、人でやることを設計できる人。やっぱりシステムだけでやろうとすると、ハードコーディングと数多くの例外対応が必要な火吹きプロジェクトになりがち。でも、日本の会社だとシステム屋と業務屋で壁ができて、両者で押しつけ合うことになります。だから、システムでやること、人でやることをさばける、設計できて時に「大岡裁き」ができるのが重要なスキルかなと。
2つ目はサービスマネジメントできること。業務をサービスとして捉えれば、問題を「定義」して、「測定」して、「改善」するサービスマネジメントが必要になります。働き方改革の文脈で「こんな会議、必要なのか?」というモヤッとした不満が出てきたら、まずは測定しようと言います。会議の無駄な時間が測定できたら、これを使ってほんとうに無駄か?解決した方が良い問題か? 組織内での合意形成ができますよね。これで個人の不満は組織の問題へ昇華させることが可能になり、初めて改善につながるんです。
大谷:測ることで、初めて改善効果もわかるというわけですね。週に「50愚痴」だったのが、「25愚痴」に減ったので、50%解消したみたいな。
沢渡:定義して、測定して、改善する。これってメモリやCPUの使用率が高いから増強しようとか、ITエンジニアは日常的にやっていることなんですよね。エンジニアの素養が生きる分野だと思います。
3つ目はライフサイクルマネジメントできることですね。たとえば、新しい制度やシステムを立ち上げたけど、誰も利用できませんってことよくありますよね。マイナンバー自体も素晴らしい仕組みなんですけど、立ち上げた後の運用がいかんせんイケていない。マイナンバーカードのデリバリーしかり。毎度、身分証明書のコピーを紙で提出させる運用しかり。いわば、国を挙げての「運用でカバーしろ」状態です(苦笑)。
業務に関しても、始めたときのデリバリーや担当の役割、利用イメージ、変更のフロー、サービス終了までの一連のライフサイクル発想が重要になってくると思います。役所だけではなく、もちろん民間のサービスでも「とりあえず立ち上げれば、あとは現場でなんとかやってくれるだろう」というのがよくあります。現場の気合、根性、創意、工夫だけに依存してきた状態が続いていると思います。
大谷:そう言えば、藤原さんとのディスカッションでも、業務改善って一過性ではなくライフサイクルを考えなければという話も出てきましたよね。
藤原:業務改善ってやっぱりやってみないとわからないことっていっぱいあります。やってみて出てきた問題をフィードバックして、システムに反映させるというサイクルが前提になってきますよね。
沢渡:その意味で、オペレーションで失敗した経験とか、プロジェクトで火を噴いた経験とか、酒飲んで忘れたらなにも残らないので、それをきちんと学んでノウハウ化するとか、共有することは重要。業務ハッカーのライフサイクルを充実させられる仕組みだと思うんです。
今、企業に業務ハッカーが必要になる理由とは?
大谷:働き方改革やコンプライアンス、人手不足で現場が疲弊しているとか、AIやRPA、ロボットの導入でそもそも業務がなくなってくるとか、いろいろな動向があると思うのですが、いま業務ハッカーが必要になる理由ってなんでしょうか?
高木:実家の例をとってみると、クラウドによって業務を楽にできる仕組みが導入しやすくなり、業務改善の課題って解決に一歩近づいている感じはあるんです。ただ、現場の人たちが使いこなせるのかという疑問はあります。単純に忙しいので、ITの勉強をする時間がないと思うんです。そういうときに専門の業務ハッカーにお願いして、アイデアやスキルを借りれば、より高いレベルの業務改善を進めて行けるのではないかと思っています。
藤原:マクロな視点では、やはり人手不足。まわりを見たら、共働きできないと、仕事は続けられないし、子育ても難しくなっています。これを実現するのが、子育てして、家事をして、仕事するみたいな柔軟な働き方。オフィスに行かないと働けないという状態をなくす必要がある。もちろん、仕事はオフィスでやった方がいいけど、メール出す、請求書出すくらいは、社外でもできた方がよい。
たとえば、うちの奥さんも営業事務みたいなことをやっていますが、毎日夕方5時は社内が戦争だと言ってました。これを送信すれば仕事終わるのに、担当に確認しないと送れないということで、モヤモヤしながら帰ってきて、次の日の朝早くに会社に行くんです。でも、これってクラウドにあれば、ご飯食べたあとに確認して、ボタンを押せば送れます。家事、子育て、仕事をミックスしていかないと、無理が出てきます。ITやクラウド前提のワークフローにして行かないと、まずは家庭不和とか起こります(笑)。
大谷:うちも奥さんが不動産会社の事務職で、かなりレガシーなオフィスなのですが、ITでなんとかすればいいじゃんとか言うと、けっこうもめません?
藤原:一度、奥さんに仕事の内容を話してもらって、業務ハックしたことあります。ボトルネックがあったので、上申書書いて改善提案してもらったのですが、結局組織の問題になって、進まなくなってしまいました。
沢渡:そう考えると業務ハッカーって深いですよね。どうやって相手を巻き込むか、成功や失敗の体験をしてもらうか、それこそ心理学とか、組織論まで必要になってくる。
大谷:社内調整とか、同僚の巻き込みを上司がリードしてくれて、業務ハッカーは役割としてきちんと認めてもらって、作業に専念できるのが理想ですね。
沢渡:最近、エンジニアは35歳定年説とか言われてるし、業務部門の人もAIに仕事奪われるとか脅されてます。結局、将来が見えないんですよね。でも、業務ハッカーがきちんと職業として確立できれば、未来のキャリアが見えてくるはず。業務側からシステムに近づいてもいいし、システムから業務に行ってもよい。「単純作業でいいから給料半分」というシニア人材ではなく、「業務とシステムの間で新しい価値を生み出していく」ような付加価値人材になっていけると思います。
大谷:エンジニア側や業務側も、新しい仕事の受け皿を作っていく話としても捉えられるわけですね。
沢渡:やっぱり技術だけにこだわるエンジニアって、なかなか付加価値出しにくいのかなと。SEだけど、むしろシステム使わない方法を提案したほうがこれからは付加価値出しやすい。業務側も同じで、私が要件定義しておいたので、クラウドに移行しましょうの方が付加価値高い。究極に言えば、「経理担当だけど、経理の仕事を全部自動化しました」の方が強いですよね。
藤原:業務ハッカーはシステムに詳しいからこそ、システムに向かないことも理解しています。ここはITを使うなという提案は、それだけでお客様にとって価値が出ます。