今回紹介するのはVRステルスアクションゲーム「Budget Cuts」。数々の名作を輩出した「メタルギア」シリーズのように、厳重な警戒をかいくぐって先へと進む。2016年に発表され、今年ようやく2年越しのリリースを果たしている。当時公開されたデモ版の時点でプレイヤーからの評価は高く、期待されていたタイトルだ。
舞台は多数のロボットが働く大企業・TransCorpのオフィス。ゲームを開始するとプレイヤーの手元にあるポケベルが鳴り、表示された番号に電話をかけると謎の女性からの指示が届く。プレイヤーには身の危険が迫っており、危機から脱するためにこの女性の指示に従って行動することとなる。音声は現在英語のみとなっているため、多少は英語が読める/聞けることが前提でのプレイとなるのだが、ファックスで図のついた指示が届くので安心。「細かいニュアンスは拾えないが、なんとなく分かる」程度には親切だ。
両手のコントローラーのメニューボタンを押すことで装備するアームを切り替える。これにより移動のためのワープガンを使ったり、ものをつかんだり、ヒントの書かれた書類の文字表示をきれいにする虫眼鏡などを使ったりできる。また、トラックパッドを押すとアイテムボックスになる。6つまで収納できるので、ストーリーを進めるうえで重要なポケベル、消耗品になりがちな武器、そしてロックを解除するカードキーなどを入れておける。
本作「Budget Cuts」の移動はワープ式。ワープガンでバウンドする弾を発射し、コントローラーのサイドボタンを押すと着弾した地点にワープする。この時、ワームホールのようなものができて着弾地点の周囲を見渡すことができる。名作「Portal」に多少似ていると言えなくもない。ただし一方的に着弾点の状況を知れるわけではなく、実際に空間がつながっている状態になるため、施設を徘徊する警備ロボットと目を合わせると追跡されてしまう。相手からは見えないがこちらからは見える状態にするか、ワームホールから少しずれた位置を取ろう。
また、「Budget Cuts」はステルスアクション系ゲームの例に漏れず、緩急のついたメリハリのあるゲームプレイになる。場所によっては隠れて移動するだけではなく、警備ロボットを攻撃・機能停止させる必要が出てくる。
攻撃は施設内で拾ったハサミや投げナイフ、ダーツなどの即席武器で行う。給湯室にあるハサミで警備ロボットを背後からズドン!と一突きする瞬間は、さながらスパイアクション映画の主人公になったような気分だ。手にもって突き刺すだけではなく投げつけることもできるが、制御はなかなか難しい。正確に当てるには多少練習が必要になるだろう。警備ロボットの頭部にダメージを与えた場合は瞬時に機能停止するが、足や腕、胴体などに攻撃した場合は多少の時間がかかる。他の警備ロボットに見つかると面倒なことになるので、なるべく一撃で破壊していきたい。倒したロボットの身体から武器を抜き取って再利用することもできる。本数は限られているため有効利用しよう。うまく背後を取れた瞬間はかなり楽しい。
施設は入り組んでおり、他のビルにワープガンで飛び移るシーンもある。通風孔やメンテナンス用の薄暗いスペースの間にワープガンの弾を通して移動することも。なかなか複雑で、安全な部屋に出るつもりが警備ロボットの前に……なんてことも。これをワープガンと武器でうまく潜り抜けるのが本作の醍醐味であるとも言える。なるべく見つかりたくないものだが……。先に進めば進むほど警備も厳重になっていく。
ゲーム自体の難易度は2017年にデモ版をレビューした時と変わらず、なかなか高め。特に最初は「自分が警備ロボットから見える位置にいるのかどうか、いまいち分からない」ということになりがち。多少の慣れは必要かもしれない。不当に難しいというわけでもないが、一筋縄ではいかない難易度だ。
本作「Budget Cuts」はかなり歯ごたえのあるタイトルで難易度は高め、クリアするまでには数時間を要するだけのボリュームもある。ステルスアクションとしての爽快感やメリハリはしっかり備えており、冗長なシーンはあまりない。敵に見つかった時のBGM切り替えによる緊張感や、それと隣り合わせの一撃必殺のアクションの爽快感など、リスキーなプレイにはそれに見合うだけの報酬もある。デモ版で評判が高かっただけあり、完成版もしっかりとした作りだ。即席の武器で戦うというのもプレイヤー心をくすぐる。
難点は上述の通り、最初に慣れがいくらか必要なこと。すぐに一流のスパイになれるわけではない。そして、何よりも「プレイ中に壁にぶつかってしまうことが割とある」ことだ。ワープ移動なのになぜ? と思う読者もいるかもしれないが、プレイヤーが一切歩かず、ワープ移動だけでこのゲームをプレイするのは少々難しい。アイテムを探す時や警備ロボットから見つからないように隠れる時、細かい位置調整がどうしても必要になるからだ。結果的に細かい位置のズレが積み重なってしまい、壁やモノにぶつかるケースが出てくる。筆者は広い部屋でプレイしたのだが、それでも近くの机にコントローラーをぶつけてしまった。こればかりはメーカーにも、もう少し安全に遊ぶ方法を見つけてほしいところだ。
総評としては「歯ごたえがある程度には難易度が高く、頭も使う」「警備ロボットのパターンの裏をかいて一撃で倒す瞬間の爽快感は抜群」「しかし、少々別のところ(壁にぶつかる等)の難はある」と言ったところだろうか。歯ごたえのあるVRアクションを求めている人にはかなりオススメのタイトルだ。VRで手に汗握るスパイアクションを楽しもう。ただし、プレイする時はぜひ周囲のモノや壁に気をつけてほしい。