熱電変換式の自動巻時計のようなもの?
が、おかげで画面は暗い。コントラストは低く、光が当たらないところでは、かなり見づらい。ただ、ムラのある薄暗いバックライトは付いているから、真っ暗闇でも大丈夫。
使える電力に限界があるので、Apple Watchのようなミニスマートフォン的機能を期待してはいけない。あくまで熱源式の自動巻時計のようなものと考え、そのほかは今のところオマケと考えたほうが良さそうだ。
提供されている機能は、歩数計、消費カロリー計、睡眠量計。ストップウォッチと歩数計を掛け合わせたランニングモードもある。機能的にはスマートウォッチというより活動量計と言った方が正確だが、Fitbitあたりの最近の製品と比べると、いくつかの点で見劣りがする。
まず、入眠の捕捉は自動ではなく、手動で「スリープモード」に切り替えなければならない。スマートフォンへのデータ同期も手動。同期のためのスマートフォンアプリ「PowerWatch App」と連携できる他社のアプリやサービスはまだない。
既存の活動量計に比べて有利なのは、発電量で体温の推移を計測できるため、カロリー消費量より緻密に推計できる可能性だろう。
だが、活動量計としては大き過ぎる。直径46mm、厚さ12.5mm、重さはストラップ込みの実測で84.5g。普通の時計と比べても厚みがあるせいで、寝返りを打つたびに異物感があった。
体温で発電する満足感
そして使っているうちに、製品のメリットがどこにあるのか、だんだんわからなくなっていく。
体温で発電するという技術は確かにすごい。時計としてのルックスもいい。しかし、充電がなくてもワンシーズン乗り切れると言うなら、わざわざ発電機能など付けずに、シーズンごとに充電すればいいのではないか。省エネのために絞られた機能は、半額以下で買える活動量計にも劣る。一体何のための製品なのか。
それは「この時計は自分の体温で発電している」という満足感を得るためである。それしかないと言ってもいい。決して揶揄して言っているのではない。
たとえば時計の好きな人は、機械式時計がいいと言う人が多い。それも自動巻きの。時刻を知るだけなら、百均で売っている液晶時計で十分間に合う。時刻も正確だ。でも、精密な機械が自律的に動いて、時を刻み続ける仕組みのカッコよさには敵わないらしい。
MATRIX PowerWatchの良さも、それに近いのではないか。活動量計として使いたければ、ボタン電池で1年以上持つ製品はあるし、多機能なスマートウォッチなら同じ値段でApple Watchが買えてしまう。
自分の体温をエネルギーに変換して動くという仕組みのために、注ぎ込まれたテクノロジーの数々を想像するとワクワクしてしまう。もしスマートウォッチが旧来の時計と同様、文化として受け入れられるスキがあるのだとすれば、意外とこういうところにあるような気さえしている。
ただし、これをスマートウォッチと呼ぶのは抵抗がある。あまりに出来ることが少なすぎるし、活動量計と呼ぶにも、ゴツいものを巻いて寝るのはつらい。「熱電変換時計」とか「サーモエレクトリックパワードウォッチ」とか、ふさわしい呼び名を考えて売った方が、いらぬ誤解を受けずに済むように思えた。
■Amazon.co.jpで購入
四本 淑三(よつもと としみ)
北海道の建設会社で働く兼業テキストファイル製造業者。