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大手企業によるスタートアップ、ベンチャー投資の心得

連載
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 はじめまして、株式会社アドライトの木村忠昭です。私たちはオープンイノベーションのマッチングから事業化まで一気通貫で支援のほか、新規事業の開発支援、国内外スタートアップの育成支援などを手がけています。
今回は、2018年3月12日に開催した「Mirai Salon 7 - 大手企業のスタートアップ企業M&Aによるオープンイノベーション戦略」の内容を一部ご紹介いたします。

経済産業省主催「日本ベンチャー大賞」授賞式のもよう

 アメリカではスタートアップEXITの9割がM&Aと言われています。日本では2017年、KDDIによるソラコムの大型M&Aが話題となりました。

 2018年2月22日、日本ベンチャー大賞授賞式で経済産業大臣賞(ベンチャー企業・大企業等連携賞)を受賞したKDDIは、「『まずは投資して自分たちのアセットを最大限注入し、大きくなるようハンズオンしていくのが大事だ』とシリコンバレーで教えてもらった。日本の大手企業からもこうした投資が続くように」と述べたように、スタートアップのM&Aがトレンドになりつつあります。

 こうした動きを受け、アドライトでは3月12日、「Mirai Salon 7 - 大手企業のスタートアップ企業M&Aによるオープンイノベーション戦略」をEGG JAPAN(東京・大手町)にて開催。政府から大手企業、ベンチャーにいたるゲストをお招きし、さまざまな視点でM&Aを取り巻く状況について語っていただきました。ここではその一部をお届けしたいと思います。

イノベーションを興すには理解と挑戦が必要

 経済産業省 新規事業調整官・石井芳明氏(以下、石井氏)によると、日本のベンチャー環境は改善しており、23年ぶりに開業率が5%超。大手企業のCVCが活発化しており、ベンチャーの調達金額も低迷期の4倍増(2010年689億円→2017年2717億円)。新興市場へのIPO数も低迷期の5倍増、上場ベンチャー企業の時価総額も拡大していると、「日本は起業しやすい環境になっている」と石井氏。

経済産業省 新規事業調整官・石井芳明氏

 さらに盛り上げるにはヒーローをつくる土壌が必要と、経済産業省は冒頭でも紹介した「日本ベンチャー大賞」を4年前から実施。わたくし木村もIPOを支援し、社外取締役を務めているユーグレナ。そのほかペプチドリームやサイバーダイン、そして直近はメルカリと、いずれも創業10年以内で1000億円を超える企業価値に成長したベンチャーが大賞を受賞しています。

 これら状況を加速させるには、大手企業とスタートアップが共存するエコシステムの形成が重要で、なかでもオープンイノベーションの推進は大きな政策課題と捉えているといいます。とはいうものの、日本国民の7割はスタートアップに興味がないというアンケート結果が出ており、「意識改革」が課題とする石井氏。「これはオープンイノベーションやM&Aでも同じこと。新事業開発の人が頑張っていても、大手企業で働く人の7割は興味がないかもしれない。そこを変えないといけないと思う」

 オープンイノベーションを促進するため、そのキープレーヤーとなるベンチャーには「始動Next Innovator」などの人材育成、事業化のタイミングでは補助金やリスクマネーのファイナンス支援を提供。成長を加速させる段階になったら大手企業との連携促進のイベントなどを推進しているといいます。

 一方、企業側にはベンチャー投資促進税制による優遇措置や、経営者会議「イノベーション100委員会」にてイノベーションを阻む課題やイノベーションを興すための経営陣の行動指針を取りまとめ。各経営者にビジョンの変革を宣言してもらい、メディアと連携して掲載しているそう。「それを見た若手、中堅クラスの方が『我が社もやろう』と運動が広がれば」

 最後に、石井氏は「社会として理解すべきこと」として3つ挙げました。

1.画期的なイノベーションは新プレーヤーから出てくる
(上記写真参照)Aは既存の大手企業、Bは新プレーヤー。AからBを見ると常に下に見える。Bは生産管理もマネジメントも不十分と見られ、法務や財務、経営会議で引っかかりやすい。しかし、それを承知で新しいプレーヤーを引き上げる、連携する姿勢が重要。

2.イノベーションは成功確率は低いがインパクトは大きい
ベンチャーキャピタルが投資する先(スタートアップ、ベンチャー)は1割がホームラン、2割はヒットの世界。ホームランの大きさによって勝負が決まる。既存事業とゲームが違うことを理解するべき。

3.成功には時間がかかる
新規事業はJカーブで成長していくため、どうしても悪い結果から先に見える。本当に成果が出るには5~10年かかる。マイルストーンを管理しながら継続をすることが大事。

 「イノベーション・エコシステムの形成のため、社会として新しいプレーヤーを応援し、チャレンジを奨励すべき。皆さんも新たなチャレンジを」

受託型からの脱却―凸版印刷が年間ベンチャー投資 約20社を実現するまで

 では、大手企業は実際どのように投資を進めているのでしょうか。

 2020年に設立120周年を迎える凸版印刷株式会社。商業・出版印刷からマーケティング、セキュリティー関連まで幅広く展開する情報コミュニケーション事業、ディスプレーや半導体向けの部材を手掛けるエレクトロニクス事業、生活消費財に関するパッケージや壁紙、床材といった機能部材を手掛ける生活産業事業などにおいて顧客企業に対する課題解決、いわゆる受託型で事業拡大と多角化を進めてきました。

 「昨今の事業環境の劇的な変化に対して、自ら事業を創りだすための大きな転換が必要になってきている」と語るのは、経営企画本部 フロンティアビジネスセンター 戦略投資推進室長・朝田大氏(以下、朝田氏)。

 「直近は、『顧客企業のデジタルシフト』が当社にとって最もインパクトの大きいものになっているが、今後は特に、『ライフスタイルの変化』『テクノロジーの変化』が様々な形で当社事業へ大きなインパクトを与えると想定され、その時々の変化、事象に追随するということももちろん重要だが、それ以上に将来の新たな事業領域の策定が急務であった」

 まずは、2015年4月から2年くらいかけグループドメインプロジェクトを実施。若手中心にグループ企業からメンバーを選定し、2025年~2030年にかけてトッパングループとして成長市場へ向けた新たな事業領域を策定。これらを実現するためのひとつの施策としてオープンイノベーションへの取り組みに着手。

 そのための足がかりとして、さまざまな会社へヒアリングをおこない、オープンイノベーションへの取り組みの事例集めに奔走。さらに実行部門の人財に関しては、特にベンチャー投資経験者を中途採用するなどして強化したといいます。

 組織体制も見直し。本社経営企画本部内にフロンティアビジネスセンターを設立して4つの部門を設置。うち、朝田氏の在籍する戦略投資推進室はベンチャー投資によるオープンイノベーション推進を掲げ、年間投資予算及び、1件あたりの投資金額を定め活動を推進しています。

 加えて、従来の経営判断(経営会議、取締役会議)とは独立した仕組みとして、少額出資検討委員会をつくり、アーリー、ミドルステージのスタートアップを中心にマイノリティ出資の投資判断を実施しているのも特徴的といえます。

 投資先を決めるにあたってのさらなる工夫として2つ挙げてくれました。1つは、社内で協業仮説を投資担当者と事業推進部門が協力して設計した内容の評価に力点を置いていること。

 もうひとつは、投資先候補の代表の方に少額出資検討会の中で審査メンバーに対して直接プレゼンしていただくことで経営者の人物像含めて審査側の理解度を上げていくという点。

 その結果、件数や時間短縮がKPIというわけではないとしつつも、それまで3、4ヵ月かかっていた決議が最短1ヵ月まで短縮。ベンチャー投資は、あくまでもオープンイノベーションによる事業開発のための手段であるものの、1年で約20社へのベンチャー投資を果たすという驚異的なスピードを実現。

凸版印刷株式会社経営企画本部 フロンティアビジネスセンター 戦略投資推進室長・朝田大氏

 加えて、「凸版印刷は『無色』が特徴。業界内で特定の色がついてしまわないところがベンチャーにとってもメリットなのかもしれない」と、朝田氏。まだまだ課題も多いと話しながらも自社とのシナジーがすぐに見込めずとも、対象企業の価値を高めるためにさまざまな経営支援活動まで進める同社。まさに、冒頭KDDIが語った「まずは投資して自分たちのアセットを最大限注入し、大きくなるようハンズオンしていくのが大事だ」に通じるものがあります。

 ほかの登壇者のお話やパネルディスカッション、オーディエンスからの質疑応答などについては、弊社運営メディア「addlight journal」にてお届けしております。併せてお楽しみいただけますと幸いでございます。

木村忠昭(アドライト)

著者近影 木村忠昭

株式会社アドライト 代表取締役CEO。
大学院卒業後、大手監査法人に入社し、株式公開支援業務に従事。2008年、イノベーション共創を手掛ける株式会社アドライトを創業。合わせて国内スタートアップ企業へ社外役員就任によるハンズオン支援を行い、うち5社(ユーグレナ、じげん、クラウドワークス、エスエルディー、マネーフォワード)が上場を果たす。
アジアやアメリカの海外スタートアップ企業の支援にも積極的で、これまでに20社以上の投資育成を行いうち3社が買収される。これら国内外スタートアップの知見やネットワークを活かし、大手企業のオープンイノベーションにおける一気通貫での事業化支援を得意とする。
主要な国立/私立大学との産学連携プロジェクトの支援実績も豊富。東京大学経済学部経済学科、東京大学大学院経済学研究科修士課程卒業。
株式会社アドライト(addlight Inc.)は、イノベーション創造支援会社としてオープンイノベーションのマッチングから事業化まで一気通貫でご支援のほか、新規事業開発支援、国内外のスタートアップの育成等支援。

■お知らせ
 ほぼ毎月、アドライトはオープンイノベーションや新規事業、国内外のイノベーションにまつわる最新トレンドのイベントを開催しております。詳細はアドライトのコーポレートサイト「イベント情報」よりご覧ください。

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