Amazon EC2が「SLA 99.99%」に向上、AWSインフラのアップデートを一挙解説
なぜ利用に審査を?AWSJが「大阪ローカルリージョン」の位置づけを説明
2018年03月16日 12時00分更新
アマゾン ウェブ サービス ジャパン(AWSJ)は2018年3月15日、AWSのクラウドインフラに関する記者説明会を開催。2月13日から利用可能になった「大阪ローカルリージョン」の位置づけや、東京リージョンに新たに追加された4番目のAZ(アベイラビリティゾーン)、EC2基盤やネットワーク機能のアップデートについて解説した。
大阪ローカルリージョンは「法令で地理冗長が必要な顧客向け」
AWSは、グローバルで18カ所のリージョンと、1つのローカルリージョンを展開している。この唯一のローカルリージョンが、2月13日に提供を開始した「大阪ローカルリージョン」だ。AWSの通常のリージョンは複数のAZで構成されているが、大阪ローカルリージョンは単一のAZで構成され、提供するサービスは限定的になる。また、利用には事前申し込みとAWSによる審査が必要になる。
AWSJ 技術本部長の岡嵜禎氏の説明によれば、「大阪ローカルリージョンは、金融、通信、公共など、法令で国内での地理冗長が規定されているユーザー向けに提供するもの」だという。「東京リージョンには4つのAZがあり、DR(ディザスタリカバリー)や信頼性を高めるための設計は東京リージョンだけでもできる。そういったベターな方法を提案するために、大阪ローカルリージョンの利用には事前審査を行っている。」(岡嵜氏)。
日本で特に、コンプライアンス要件を満たすための国内地理冗長への要望が強かったため、今回世界で1番目のローカルリージョンが誕生したという。大阪ローカルリージョンでは、東京リージョンと同じ料金でリザーブドインスタンスおよびスポットインスタンスを提供する。提供サービスは、ユーザーの要望に応じて随時拡大していく予定だ。
東京リージョンに4つ目のAZを追加
前述のように、大阪以外のAWSリージョンは複数のAZで構成される。さらに、「1つのAZは複数のデータセンターで構成されており、高い耐障害性を提供できる設計になっている」(岡嵜氏)。これまで、東京リージョンには3つのAZがあったが、1月25日に東京リージョンに4つ目のAZが追加された。現在、グローバルでは合計54のAZが展開されている。
1つのリージョン内のAZは、電源、冷却機材、ネットワークなどが分離されており、1つのリージョン内でマルチAZ構成をとることで可用性を高めることができる。
東京に2つ目のDXロケーションを開設
AWSのリージョン間は、中国リージョンを除き、AWSの専用線で接続されている。また、AZ間、AZ内は複数回線に冗長化されたネットワークで接続されている。
AWSのネットワークとユーザーの設備内ネットワーク(社内ネットワークやデータセンター)を専用線接続する「AWS Direct Connect」において、東京に2カ所目のDXロケーション(接続ポイント)が開設された。これまで、国内ではエクイニクスが唯一のDXロケーションを提供してきたが、今回、アット東京がDXロケーション提供事業者に加わった。
AWS Direct Connectについては、AWS Direct Connectでの接続時に、1つのDXロケーションから複数リージョンのAWS VPC(ユーザーごとに論理的に分離された仮想ネットワーク領域)へ接続可能にする新機能「Direct Connect Gateway」が最近発表されている。
また、異なるリージョンのVPCを接続する「インターリージョンVPCピアリング」機能が発表された。リージョン間の通信にはAWSの専用回線を使用し、通信路はデフォルトで暗号化される。この機能は、2月20日から東京リージョンを含む14リージョンで利用可能になっている。
VPCエンドポイントサービス「AWS PrivateLink」が拡張され、AWSにホストされたサードパーティーのSaaSなどに、エンドユーザーが自分のVPCからプライベート接続できるようになった。エンドユーザーはAWS PrivateLinkで利用可能なSaaSアプリケーションをAWS Marketplaceから直接購入できる。
そのほか、AWSのグローバルネットワークを使ったコンテンツ配信ネットワーク(CDN)サービス「Amazon CloudFront」において、東京に5つ目(国内で6つ目)の接続ポイント(エッジロケーション)が追加された。Amazon CloudFrontのエッジロケーションは、世界23カ国50都市に100カ所展開されている。
EC2のSLAを99.95%から「99.99%」へ引き上げ
Amazon EC2で、複数インスタンスを作成する際にそれぞれを別の物理サーバーに配置する機能「Spread Placement Group」が全リージョンで利用可能になった。これに伴い、EC2およびEBSのSLAが99.95%から「99.99%」へ4年ぶりに引き上げられた。
Spread Placement Groupは、物理サーバー障害時に複数インスタンスが同時に影響を受ける確率を軽減するもので、特に同一AZにクラスタを展開しているシステムで有益な機能だ。AZをまたいで定義することが可能で、1つのAZあたり最大7つの実行中インスタンスをグループにできる。
CPU処理量を増加させる「NITROアーキテクチャ」
Amazon EC2のインスタンスは年々増えており、直近では、ビッグデータ処理向けのストレージ最適化インスタンス「H1インスタンス」、SkylakeコアのXeon Platinum 8000シリーズプロセッサを搭載し最大25Gbpsの通信帯域をサポートする「C5インスタンス」、同じくSkylakeプロセッサ搭載の汎用インスタンス最新版「M5インスタンス」を新たにリリースした。
C5インスタンスとM5インスタンスでは、新しいハイパーバイザー構成「NITRO System Architecture」を採用している。NITRO System Architectureは、ネットワークやストレージの処理をハードウェア側にオフロードすることでハイパーバイザー側の負荷を低減し、ユーザーアプリケーションに割り当てるCPUリソースを増加させるアーキテクチャだ。
そのほか、NVIDIA Tesla V100を最大8個搭載するGPUインスタンス「P3インスタンス」を2017年10月26日に発表したほか、ベアメタルインスタンス「Amazon EC2 Bare Metal(i3.metalインスタンス)のプレビュー提供を開始した。「ベアメタルインスタンスは、仮想化されていないワークロードや、特定のハイパーバイザーを必要とするワ―クロード、ライセンスの問題でVMに移行できないワークロードに対応できる」(岡嵜氏)。
スポットインスタンスの料金設定方式を改善
Amazon EC2のスポットインスタンスの料金設定方式が改善された。より長期的な需要バランスに基づいて料金設定をするアルゴリズムに変更したことにより、価格変動が緩やかになった。改善により、「スポットインスタンスの利用が大幅に増えている」(岡嵜氏)という。
AWS FargateとAmazon EKS
最後に岡嵜氏は、AWSのコンテナー関連機能をまとめて紹介した。「CNCFの調査では、世界のkubernetesワークロードの63%はAWS上にある」(岡嵜氏)という。
AWSでは、コンテナーオーケストレーターとして、Dockerコンテナーオーケストレーター「Amazon ECS」、kubernetesのマネージドサービス「Amazon EKS」を用意している。また、コンテナープラットフォームとして、クラスタ管理不要でコンテナーを実行・スケールできる「AWS Fargate」を提供している。
ECSは2015年にGAした古くからあるサービスで、毎週数億コンテナを起動し、年間アクティブユーザー数が年率450%以上増加している。EKSとFargateは2017年11月開催のRe:Invent 2017で発表されたばかりの新サービスだ。
ECS/EKSは、EC2やAWS Fargateと統合されており、ECS/EKSから「Fargate起動タイプ」と「EC2起動タイプ」を選んでコンテナーを作成することができる。Fargate起動タイプで必要な操作はコンテナーのパッケージ化、CPUやメモリ要件の指定、ネットワーキングポリシーの定義、アプリの起動のみ。一方、EC2起動タイプでは、コンテナーをホストするサーバーを詳細にコントロールできる。「FargateはEC2を置き換えるものではなく、組み合わせて使うもの」(岡嵜氏)。