2018年2月23日と24日に明星大学 日野キャンパスで開催された「オープンソースカンファレンス 2018 Tokyo/Spring」では、特別トラックとして「こどものプログラミング教育」トラックが設けられた。
2020年度から小学校でプログラミング教育が必修になることを受けて、子供にプログラミングを学ばせようと考える保護者が増えている。その一方で、「小学生にプログラミングを教えてどうするのか?」「何のプログラミング言語を教えるのか?」といった疑問の声も多い。GMOメディアが2018年1月に小学生の保護者を対象に実施した調査によれば、「プログラミング教育の必要性」について「わからない」との回答が半数を占めた。
「こどものプログラミング教育」トラックのセッションに登壇したCoderDojo Japan 理事の宮島衣瑛氏は、小学校で始まる「プログラミング教育」の概要と目的を解説し、学校のプログラミング教育に対して「学校外のオープンソースコミュニティも重要な役割を担う」と述べた。
「プログラミング的思考」とは何か
CoderDojoは、アイルランドから始まったオープンソースの子供向けプログラミング道場だ。世界1600カ所以上、国内では119カ所のDojo(道場)があり、すべての子供・保護者が無料で参加できる。Dojoは、学校や塾のように先生が子供にプログラミングを教えるのではなく、子供がやりたいことをメンターが支援する場だ。運営、メンターはすべてボランティアが担っている。宮島氏が理事を務める団体CoderDojo Japanは、国内のCoderDojoの運営を支援している。
宮島氏は、iOSアプリ開発やWeb制作などを手掛けるIT企業Innovation PowerのCEOでもあり、さらには学習院大学の教育学科に所属する20歳の現役大学生でもある。コードを書くエンジニア 兼 初等教育を専門に学ぶ学生の宮島氏は、「小学校で必修化されるプログラミング教育はエンジニア教育を目的としたものではありません。ここの区別の認知が進んでいないために、必修化を疑問視する人が多いのではないでしょうか」と説明する。
小学校のプログラミング教育では、「プログラミングの授業」を設けるのではなく、算数、国語、理科、社会、体育、音楽、図工など既存の教科の授業にプログラミングを取り入れる。その目的は、「子供たちに、コンピュータに意図した処理を行うよう指示することができるということを体験させながら、将来どのような職業に就くとしても、時代を超えて普遍的に求められる力としての『プログラミング的思考』などをはぐくむことであり、コーディングを覚えることが目的ではない」(文部科学省「小学校段階におけるプログラミング教育の在り方について」(議論の取りまとめ)より)とされる。
宮島氏は、このプログラミング的思考とは、「情報を捉えて細分化し、再構築する力」と定義した。「例えば、“カレーが食べたい”とします。カレー(情報を捉える)の材料をそろえて(細分化)、カレーを作り上げる(再構築)。これがプログラミング的思考です」(宮島氏)。
2020年度に向けて、各教科でどのようにプログラミングを導入するかの検討が行われている。例えば、算数の正多角形の作図の授業で、「作図では正確な繰り返し作業を行う必要がある、一部を変えることで色々な正多角形を同様に考えることができる」という性質の理解を深めるために、プログラミングを取り入れることが考えられる。
高度にプログラミングを学びたい子供に場を提供
公教育でのプログラミング教育必修化にあたっては、CoderDojoなど、学校外のコミュニティも重要な役割を担うと宮島氏は考える。
必修化によって、全国の子供たち全員にプログラミングに触れる機会が提供される。学校でプログラミングに触れて興味を持ち、さらに深く学びたい、知識が欲しいと思った子供を受け入れる場を全国に用意してあげたいと宮島氏は言う。誰でも無料でプログラミングを学べるCoderDojoはそのような場の1つだ。すでに一部の学校では先行してプログラミング教育の実践が始まっているが、宮島氏によれば、実際、一度学校でプログラミングを体験した後にDojoを訪れる子供が多いのだという。
それだけではない。授業にプログラミング教育を取り入れる新しい試みに試行錯誤する学校現場に対しても、ITエンジニアから成るコミュニティは貢献できる。千葉県柏市で3カ所のDojoを展開するCoderDojo Kashiwaは、柏市教育委員会の外部組織「柏メディア教育研究科」と協力してプログラミングの授業の支援を行っている。
柏市では、2020年度に先駆けて、2017年度から市内42校の公立小学校の4年生にScratchを使ったプログラミング教育を実施している。授業は、市教育委員会が作成したカリキュラムで、担任教師とICTアドバイザーによるチームティーチングで行っている。このカリキュラムの策定や指導の支援にCoderDojo Kashiwaが全面協力しているという。
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CoderDojoはオープンソースコニュニティであり、誰でもDojoを開くことができ、運営や教材の知見はすべてのDojoでオープンに共有される。また柏市の事例のように、学校のプログラミング教育については、教育委員会も外部のITエンジニアコニュニティの協力を歓迎している。
プログラミング教育必修化にあたって、ITエンジニアが地域に貢献できる領域は大きい。