ひとつの事業だけでは、次の100年を生き残れない
では100周年を迎えたいまのパナソニックは、なんの会社なのか。
津賀社長に直接聞いてみた。
津賀社長は「それは正直言って、私も自問自答をしている」と前置きしながら「創業者がはじめた家電事業の存在感が大きいために、家電が中核ではないと言った途端に社内に喪失感が広がり、それが拭い去れていないというのも事実だ。だが、世の中の変化をみると、なにかひとつの事業だけで次の100年を生き残れるわけではない。いや、10年、20年すらも生き残れないだろう。つまり、パナソニックはなにかひとつの会社というよりも、さまざまな強みを持ち、それを事業部制という形で磨き上げながら、それらを有効活用し、社会に対するお役立ちをいつでも提供できる会社」と語る。
そして「変化に対して、いち早く柔軟に対応することができる会社というのは、世の中にそれほど多くない。持っているものを生かしながら、クロスバリューでシナジーを作り出し、新たなお役立ちを生み続ける会社でありたいと考えている。イノベーションが得意な会社だと言われるようになりたい」とも語る。
家電の領域だけでなくBtoBの領域からも社会に貢献し、それをいくつもの「矢」として持っているのが、いまのパナソニックの姿だといっていい。
津賀社長は最近になって「チャンピオン」事業と「挑戦者」事業という表現を使い始めている。
チャンピオン事業とは収益を稼ぐ事業のことであり、挑戦者事業はいまは投資段階にあるが、将来は他社がチャンピオンとなっている事業に挑戦していく事業を指す。そして、挑戦者事業のなかには、いまパナソニックがチャンピオンになっている事業を、自ら潰していくといったマインドを持った事業も含まれるという。
「業界を牽引するチャンピオン事業には現在の力を軸としながら、その周辺に新たな強みの領域を作ることで変革に挑戦してほしい。また、チャンピオンを目指す挑戦者事業には、チャンピオンにできないような『業界の構造を変える』、『新たな領域を作る』ことに果敢に挑戦してほしい」と社内に呼びかける。
だが津賀社長は、パナソニックのすべての事業が、チャンピオン事業になることをゴールにはしていない。むしろ、「挑戦者」としての事業の存在を重視しているようにもみえる。
「他社のチャンピオン事業をイノベーションによって倒していくといった挑戦を、ある一定の事業比率のなかでやる必要がある。もし、チャンピオン事業ばかりを持った企業になったら、ある日突然、大きな恐竜が転けてしまうのと同じようなことが起こるだろう。大きな会社ほど、チャンピオン事業と挑戦者事業のバランスをうまく取らなくてはいけない。そうでなければこれだけの大きな所帯をまわしていくことができない。チャンピオンと挑戦者の2つのマインドを持たなくては、パナソニックが生き続けることは難しくなるという認識を持っている」とする。
そして「社内には、自分の事業をチャンピオン事業と思っている人が多いかもしれないが、実際にはチャンピオンといえる事業は少数だと考えている。そのチャンピオン事業についても、いままでの成功以上にチャレンジをしないとチャンピオンであり続けられないと考えている」とも語る。
100年目の節目を迎えたパナソニックは、家電メーカーに留まらない姿へと変貌した。そして、成長軌道にはありながらも、挑戦することの大切さと危機感も忘れてはいない。それが100年目のパナソニックの姿だといえる。
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