多くの学校で情報端末やデジタル教材を使った授業が行われるようになり、2020年度には全国の小学校でプログラミング教育が開始される。2018年、教育ITはどのような段階にあり、どのようなトピックに注目するべきなのか。5人の識者の視点を紹介する。
「学習ログの分析」に期待:堀田龍也氏(教育工学者)
2018年は学習ログの分析の研究や実践に注目しています。1人1台の情報端末の活用が多くの自治体で現実的なものとなってきました。情報端末ではさまざまなコンテンツやツールが活用されます。
情報端末で活用されるコンテンツには、学習者用デジタル教科書やデジタル教材があります。これらは内容によって単元や小単元に分割されており、その中に関連する問題等が構造化されて格納されています。したがって,学習者がどのページのどの問題にどれだけの時間をかけ、どのような解答をし、正誤はどうだったかという学習ログの収集と分析が期待されます。これらの学習ログの分析は,1990年代に学校現場でのCAIの実践研究の学習履歴分析の研究成果が援用されることでしょう。
情報端末で活用されるツール類には、学習者がどの機能をどの順番でどのように活用したかの学習ログの収集と分析が期待されます。これらの分析により、学習者の思考が可視化され、思考パターンの類型化や多様性の研究が進むでしょう。これらをリアルタイムで学習者間のグルーピングに適用したり、教師にフィードバックすることによって授業中の教師による学習支援をより確かなものにする実践研究が行われることでしょう。
「JAPAN e-Portfolio」の可能性:永野直氏(千葉県立袖ヶ浦高校 教諭)
JAPAN e-Portfolioは、学校の授業や行事、部活動、ボランティア活動など学校内外での活動成果を「マイストーリー」として生徒自身が蓄積していくというe-ポートフォリオのサービスです。文部科学省の大学入学者選抜改革推進委託事業として運営されており、将来的に入試出願システムと連携して大学へデータを提出することができるようになります。
テストの点数だけでなく、点数化しにくい生徒の様々な個性あふれる学びや活動を対外的にも評価・活用できる可能性に期待しています。学びの履歴、様々な経験は自分自身の財産といえるものです。生徒が学習、活動履歴をいつでも自分で記録、閲覧でき、それを自らの進路選択に結びつけていけるというのは素晴らしいことだと感じています。
五感を活かした「プログラミング教育」へ:西端律子氏(畿央大学 教育学部 教授)
2020年から初等教育でプログラミング教育が始まるにあたり、さまざまな教材が開発され、先生方も授業実践に取り組まれています。
特別支援学校初等部においては、障がい支援や個別の指導のためにもともとタブレット端末や無線LAN等が整備されている背景もあり、プログラミング教育が始まりやすい環境です。また、自立や社会参加に向けた取り組みを行う「自立活動の時間」では、時間や順序の把握、分類や条件分岐の学習などが行われており、これらはプログラミング的思考の一つでもある「論理的思考」の基礎ということができるでしょう。
これからは、見る、聞く、話す、触る、動かす、味わうなど、身体や五感を活かした、誰もが楽しめる「プログラミング教育」に期待しています。
AIスピーカーの教育活用に注目:利根川裕太氏(NPO法人みんなのコード 代表理事)
私が専門としている小学校でのプログラミング教育において、2018年は「地方も含めた普及期へ入る1年」になると思っています。加えて、個人的に注目をしているのは、「AIスピーカーの教育への活用」です。
2017年、Google、Amazon、LINEなど各社が相次いて、人工知能(AI)を活用したスマートスピーカーを発売しました。既に先進的な事例として、埼玉県戸田市の公立小中学校において、AIロボットを使った英語の授業も試験的に実施されています。今後、各社のプラットフォームにさまざまなアプリが搭載されることが予想される中、教育系のアプリについても先進的かつユニークなものがどんどん登場し、「学校の先生とAIが共存する姿」が少しずつでも見えてくると面白いなと思っています。
日本のEdTechが動く1年になる:神谷加代氏(教育ライター)
2018年は、国内のEdTech(エドテック)の動向に注目しています。というのも、いよいよ経済産業省が教育の分野に出てきたからです。「第4次産業革命」「人生100年時代」「少子高齢化」など時代の変革期を迎えた今、安倍政権は「人づくり革命」を看板政策に掲げています。そのため同省においても、一人ひとりの生産性向上を重要視し、学校教育や企業研修などの場において新たな学びを創出するEdTechを支援するというのです。
すでに平成29年度補正予算において、「学びと社会の連携促進事業」として25億円が計上されました。また平成30年度の概算要求でも新規で5億円が盛り込まれています。昨年12月にはEdTech推進議員連盟が設立されたり、経済産業省に教育サービス産業室が設置されるなど、新たな動きがありました。日本のEdTechが動く年になると思います。