生活シーンを見直し、必要な機能を改めて検討する
人生100年時代を捉える上で、日立製作所では、「生活シーン」に着目した。
「これまでの家電は製品機能の提供が中心であり、機能を通じて貢献してきた。だが、これからは高い技術を搭載した家電製品によって、高機能を提供するたけでなく、生活シーンに向き合い、新たな価値を提供することが必要である。家のなかだけでなく、街とつないで、すべての生活シーンにまるごと向き合うことで、ひとりひとりのQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を高めることができる」とする。
「生活シーン」にフォーカスした途端に、家電事業の考え方は大きく変化する。中村統括本部長は、それによって実現する近未来の具体的な姿を、「洗う」、「冷やす」、「料理する」、「安心して使う」、「見守る」という5つの観点から示してみせる。
たとえば、「洗う」という観点では、これまでの家電事業の考え方では、洗濯機によって、洗濯物を洗うということが前提となっていた。だが、生活シーンにフォーカスした場合に前提となるのは、「着たいものが、着たいときにあればいい」ということだ。洗うのは、着たいものを着るため手段であり、目的ではなくなるのだ。
そうなると家電の考え方も変わってくる。引っ越しをして新居に移った際に、洗濯機を移動させたり、新たに購入するのではなく、電気や水道のように、据え付けられている洗濯機を使って、使用した分だけ支払ったり、洗濯をしたくない日は、洗濯代行サービスを利用したり、あるいは大物洗いはコインランドリーを使用するといった使い分けもできる。洗濯機に搭載しているセンサーが生地が痛んでいることを判断して、新たな洋服が自動的に配達されるといった仕組みも考えられる。
このように、「洗う」ということを生活シーンを中心に捉えると、家電とサービスが結びついた提案が必要になってくる。ハードウェアだけを作っていれば価値を提供できた時代とは大きく異なるのだ。
同様に、「冷やす」、「料理する」では、冷蔵庫が庫内画像をもとに必要な食材を自動で発注したり、電子レンジに調理方法を話しかけると、レシピをスマホにダウンロードし、料理に必要な食材が配送されたりといったことが可能になる。食材を提供する事業者や宅配事業者などとの連動のほか、生鮮食料品を新鮮なままに届けるためには、冷蔵庫で利用している真空チルドを活用した宅配ボックスの開発など、家電で培った技術を生かすことができ、新たなビジネスチャンスも生まれることになる。
さらに、「安心して使う」では、家電製品の稼働状況を遠隔でモニタリングして異常なデータが見つかれば、故障する前に点検、修理を実施。「見守る」では、家電に搭載れさたセンサーが、遠くに離れて暮らす両親をプライバシーに配慮しながら見守るといったことが可能になるという。コミュニケーションロボットを活用して、会話をする声のトーンから様子を察するといったことも可能になるという。そして、ここでは、デジタル技術を活用した見守りだけでなく、全国4000店の日立チェーンストールと連携して、体調などに変化の兆しが見られたときには、様子見サポートをリアルに行うといったサービスを用意することも可能だ。
これらのサービスを具現化するスマートライフ事業推進本部を統括する日立製作所 生活・エコシステム事業統括本部スマートライフ事業推進本部長兼日立アプライアンス執行役員の中野洋樹氏は、「日立が実現する新たなスマートライフは、デジタルで人と人が結びつくだけでなく、リアルとも連動した『デジタル町内会』といえるものを構築することになる。家電とサービスが連携して、新たな結びつきを生み、新たなビジネスモデルが誕生することになる」とする。
このように家電製品が様々な事業者と結びついたり、サービスと連携したりといった仕組みの構築は、社会イノベーション事業で実績を持つ日立製作所にとっては、いわば得意分野である。これまで、社会イノベーション事業とは少し距離感があった家電事業であるが、新たなスマートライフの実現においては緊密な連携が前提となるのは明らかだ。