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VOXのポータブルラジオは細部に楽器の神が宿る変態仕様だった

2017年10月14日 12時00分更新

文● 四本淑三

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スピーカー2発のステレオ仕様

 なんと、このラジオはステレオ仕様なのだ。つまりスピーカーとアンプが2セット付いている。しかも片chの出力が1Wだから、総合出力は2W。このサイズのポータブルラジオで、こんな高出力のステレオスピーカーを内蔵するものは、あまり聞いたことがない。無駄に電池をいっぱい使う仕様は、こんなところでも効いてくるのだ。

 なぜスピーカーが2発かと言えば、AC30が2発だから。AC30以前にAC15という15Wのモデルがあり、それを2台分まとめて音量を稼いだのがAC30の成り立ちだ。結果として30Wのコンボアンプとは思えない、馬鹿でかい音の出るアンプになった。

 そこでAC30にならって2発付けるなら「ついでにステレオにしてしまえ!」という勢いでこうなった感じも想像できなくはない。だからと言って「無駄なところに余計な部品を使うな」とは誰も言わなかったのである。素晴らしい。

 で、先程のAUX INの信号もちゃんとステレオで出力されるわけだが、スピーカーが左右近接しているのでステレオ感なんか全然ない。それでも2発のスピーカーを独立したアンプで鳴らしているわけだから、結構いい感じで鳴るのだ。レンジはラジオそのもの。そこがまたいい。

スピーカーの口径表示がインチ

 ちなみに内蔵スピーカーの口径は、スペック表を見ると「3インチ」になっていた。単位がインチ。ギターアンプのスピーカーはメートル法の日本国内でもなぜかインチ表記なのだが、その流儀をこんなところでも発揮しているのだ。素晴らしい。

VOLUMEのカーブがピーキー

 このラジオのVOLUMEカーブは笑うしかない。右に回し始めててっぺんの12時を過ぎ、おおむね2時位までは、本当に緩やかにしか音量は変化しないが、3時以降からいきなり爆音で鳴り始め、ついにはギンギンと歪んでしまう。

 あのね、ギターアンプじゃないんだから、こんなピーキーなボリュームカーブにしなくたっていいじゃないですか。そう思わないでもないが、こんなところにもギターアンプ癖が出てしまったのだとすれば最高だ。

「OFF」ではなくて「STANDBY」

 多くの真空管ギターアンプには、電源のほかに「STANDBY」というスイッチがある。これは電源を入れていきなり音を出すと、真空管の寿命が縮んでしまうので、いい感じに温まるまで音を出さないためにある。

 で、AC30 Radioの電源スイッチには「ON」とOFFの代わりに「STANDBY」表記になっている。おお、ここも真空管アンプっぽさにこだわるのか。素晴らしい!

 と、ここまでの流れから素直にそう思いがちだが、AC30 Radioには設定した時刻になるとラジオが鳴り始めるアラーム機能がある。その設定のために使うポジションなのだ。でも、どう見たって真空管アンプ風の小ネタにしか見えないから素晴らしい。

できれば普通のラジオとして使いたくない

 さて、もちろん欠点もある。まず電池の入れ替えや、ACアダプターを抜くたびに設定がリセットされ、時刻の設定から始めなければならない。バックアップ用のバッテリーがないのだ。

 これはACアダプターを常用することにして、バックアップ用に電池を入れておけば問題ないし、そもそもステーションメモリー機能がないので、設定がリセットされたところで大した被害にはならない。とはいえ、一般の家電メーカーが、この仕様で売ることはないだろう。アナログチューナーならともかく、デジタル式でステーションメモリーがないのは厳しい。

 だが、ここまで述べてきたように、AC30 Radioには細部に楽器の神が宿っている。ラジオ「も」聴ける製品なのだと私は理解している。

 たとえばAUX INを利用して、AmPlugのパワードスピーカーとして使うのも良い。FMラジオの局間ノイズもちゃんと出るから、モジュラーシンセのノイズ音源にもなる。ノイズ系の音楽を演る人なら、そのまま使ってもいいだろう。その際はエフェクターと一緒に使えるセンターマイナス9V仕様が意味を持つようになる。長いロッドアンテナを利用してテルミンに改造するのもおもしろい。あ、もちろん改造は自己責任で。

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著者紹介――四本 淑三(よつもと としみ)

 1963年生れ。フリーライター。武蔵野美術大学デザイン情報学科特別講師。新しい音楽は新しい技術が連れてくるという信条のもと、テクノロジーと音楽の関係をフォロー。趣味は自転車とウクレレとエスプレッソ

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