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京都発”Shisaku”ファンドの狙い モノづくりを変えるMakers Boot Campの挑戦

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「連携するだけでは、ビジネスにならない」

京都試作ネット

 一方、もう一人の創業者である竹田氏は、京都の中小の製造業同士のネットワークを作り、試作を行う「京都試作ネット」の代表理事を務めていた。中小の製造業者は大企業が製品を量産化する際の下請けを行なう企業が多いが、工場を中国など海外に移転し事業が頭打ちとなっているケースもあった。下請け依存のビジネスを打破する目的で誕生したのが京都試作ネットだった。

 「2001年、京都試作ネット設立時から『京都を試作の一大拠点に』という目標を掲げ活動をしてきた。昨年、設立15周年をむかえ、現在は年間1000件の試作の問い合わせがくるネットワークに成長した。一方で試作と言っても『パーツを研磨してほしい』といった単純作業の下請け案件を増やすだけでは、今後の京都試作ネットの成長にも限界があり、試作の拠点にするためには、単純作業の件数を増やすのではなく、開発段階から関わっていくより複雑な試作に取り組みをするべきではないかという意見もあった」(牧野氏)

 そこで、量産化で悩む国内外のハードウェアスタートアップ企業を支援するビジネスができないのかというアイデアを持っていた牧野氏は、「それなら京都試作ネットと連携してはどうか?」というアドバイスを受け、京都試作ネット側にプレゼンを行なった。

 「スタートアップ企業と連携することは、これまでの下請けではない、まさに開発業務に関わることになるのでその点は評価された。しかし、ハードウェアスタートアップ企業と、京都試作ネットが単に連携するだけでは、ビジネスとしてやっていくのは難しい。スタートアップ企業は資金が潤沢ではない。ビジネスとしての永続性を考えた場合には京都試作ネットのメンバーがコミットするのは難しいということだった」(牧野氏)

 そこでこのアイデアに、牧野氏が培ってきたベンチャーキャピタリストとしての経験をプラスし、ファンドを起ち上げることを加えて、2015年にMakers Boot Campが設立された。

 2015年8月、Makers Boot Campの名称のアクセラレーションプログラムを実施。これには国内8社のスタートアップ企業が参加した「3ヵ月間、もの作りに関する指導や京都試作ネットの参加企業とのマッチングを行なって、スタートアップ企業は製品の量産化を進められるプログラムとしてスタートした」(牧野氏)

 プログラムを実施することで、いくつかの課題が明らかになった。当初は、スタートアップ企業と京都試作ネットに参加する企業をマッチングしさえすれば、量産化に向けて動き出すものと想定していたのだが、マッチングだけではうまくいかなかった。

 「京都試作ネットのメンバーがこれまで関わってきたのは大企業ばかり。そのため仕事の進め方やスピード感に戸惑いがあった。一方、スタートアップ企業側は、量産化に取り組むのは初めてとなるだけに、アドバイスやサポートがほしい。このミスマッチを埋めるためには、両者の間に入ってプロジェクトマネージメントを行なっていく必要がある事がわかった」(牧野氏)

 また3ヵ月という期間を区切ったプログラムであることも、現実に即していない事が明らかになった。3ヵ月という短期間ではスタートアップ企業が目標を達成するような成果を出すことは難しかったのだ。

 「3ヵ月という期間を限定するのではなく、カスタムメイド型でそれぞれに適した期間を決めて進めていった方が当然よい。ただし、個々にスタートアップ企業を支援するというスタイルにしてしまうと、アクセラレーションプログラムのメリットである、起業家同士の横の連携、競い合うことでのモチベーションアップといった要素が失われることになる。そこでイベントを開催し、複数の企業を集めるものの、MBC側はカスタムメイドの支援を行なうこととなった」(牧野氏)

量産試作と投資でハードウェアスタートアップを支援する課題

設立されたファンドの仕組み

 マッチングでの調整を行なったものの、それでも解決できない課題が残った。資金を提供するファンド事業の収益をどう獲得するのかという課題だ。

 「ベンチャーファンドの出資者に対してきちんとペイバックしたいと考えたが、日本のスタートアップを投資対象としているだけではそれは容易ではない」と牧野氏は指摘する。そして、「そもそもこれは日本のファンドすべてが抱える課題ではないか」と疑問を投げかける。

 「シリコンバレーでベンチャーキャピタルが産業として成立しているのは、投資額を大きく上回るホームランといえるような投資を回収できる大成功案件があるからこそと言われている。ところが、日本では企業は着実に時間をかけながら成長するケースが多く、短期間に急成長するホームランといえるような大成功案件が生まれることは少ない。ベンチャーキャピタルのビジネスモデルという観点から考えた場合、投資対象を国内企業だけに限らず、海外企業も対象とすることが望ましいが、日本にあるベンチャーキャピタルが海外ベンチャー投資をしようとしてもその需要がないのが実状」(牧野氏)

 そこで牧野氏はファンド機能だけでなく、ハードウェアスタートアップを日本の製造業が支援するというプラス要素があれば、海外のスタートアップにも出資できる可能性があると考えた。テストケースとして、2016年7月、ニューヨークからスマートアパレル分野のスタートアップを呼んで、試作支援や日本の事業会社とのマッチングを実施したが、非常に反応が良かったという。

 「製造業の拠点として、最近では日本よりも中国の深センあたりが取り沙汰されることが多いが、日本ではコピー製品を作られる危険性が少ないといった評価や、ウェアラブル端末のように身につけるもの、安全性が求められる製品を作るにあたっては、製造業への信頼が高い。コストについても、アジアの製造コストが上昇していることに加え、日本では最初の段階からしっかりした物作りを行なうので、作り直しが少なく、最初は高いように見えても、最終的には決して高くないという声もある。十分に日本に勝ち目があると考えている」

 2017年3月、株式会社Darma Tech Labsとして、国内外のIoTスタートアップの試作支援と投資を行うファンドが設立された。国内の金融機関や事業会社等に対し出資の働きかけを進め、運用期間10年、最終的に20億円規模のファンドを組成する予定だ。そして8月現在、京都の製造業と海外スタートアップ企業との本格的な試作も始まっているという。

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