日本のITを変える「AWS侍」に聞く 第23回
高いポテンシャルを持つ日本の情シスを再生させたい
クラウド時代のあるべき情シスを訴える友岡さんが武闘派CIOになるまで
2017年07月27日 09時00分更新
とことん現場主義!全天球カメラとVRを現場に持ち込んだら?
AWSとGoogle Cloudを中心にクラウド化を推進してきた友岡さんだが、最近ご執心なのがVRだ。
VR導入のきっかけは、現場写真をリコーの全天球カメラ「THETA」で撮るようになったことだという。もともとフジテックではエレベータの現場写真をコンパクトデジカメで撮っていたが、構造から考えて、6面の写真を抑える必要があった。しかし、写真だけ見ても右か、左かわからない。しかも、継ぎ目もわかりにくいので、結局何枚も撮影する必要で、面倒な作業だったという。
そんな現場に赴いた友岡さんはTHETAを提案した。「『全天球で撮れるカメラがあるんですけど、そんなのあったらうれしいですか?』って現場の人に聞いたら、『うれしいに決まってるだろう!早く持ってこい』という声が返ってきた(笑)。で、現場にTHETA持って行ったら、えっ!!と喜んでくれた」とのことですぐに導入した。今はエスカレーターの内部を撮るExilim(カシオ)とともに、フジテックでは標準的に用いられているという。「カメラは情シスが試して標準カメラを決めている。僕はIoTデバイスだと思っているので、それは絶対押さえたいなと」(友岡さん)。当然、THETAで撮影した写真をクラウドに格納するスマホアプリも作っているので、作業も圧倒的に楽になった。
とはいえ、せっかくの全天球画像なので、当然これはVRで見たいという話になった。しかし、「CADでアニメーション作るのはできなくはないけど、PoCだけで300万円くらいかかる(笑)。でも、現場としてはお客様にもっとカジュアルに見せたいし、どうしたもんかなと」(友岡さん)といった障壁があった。
ここにうまくはまったのが元AWSの小島英揮さんがアピールしていたInstaVRだ。Webベースで簡単にVRを作れるInstaVRを友岡さんはともかく買ってしまったという。「感覚的によさそうと思ったら、僕はとりあえず買ってしまう。そもそも製品も安いし、買ってしまえば、ベンダーも客として接してくれるので(笑)」というのが友岡流。InstaVRでコンテンツを作ったら、お客様にスマホで見せたり、研修のマテリアルとして活用していくという。
僕は基幹システムという言い方が好きじゃない
「武闘派CIO」としてJAWS-UGはじめ、さまざまなイベントに登壇する友岡さんだが、その背景には本来ポテンシャルを持っている日本の情シスをなんとかしたいという強い思いがある。
「僕は基幹システムという言い方が好きじゃない。基幹システムでやっている受発注って単なる伝票処理で、なんら付加価値を生んでないでしょ。どの社長も受発注が基幹業務ですなんて言わないですよ。基幹システムは情シスが勝手に作ったお名前で、それだけやっていればいいと考えているところが残念なところ」と友岡さんは指摘する。落としてはいけない「基幹システム」というワードで自らのフィールドを狭めているところに、今言われている「情シス不要論」の原因もありそうだ。「基幹システムって、大切なんですけど、重要ではないんです。大切なので動かなければいけないんですけど、本当は重要なものにもフォーカスすべき」(友岡さん)。
友岡さんが所属している製造業における生産管理システムも、実際に利用しているのは管理部門の数名が使っているだけで、工場で働いている何百名の工員にとっては、まったくもって縁遠い存在。「現場で価値を生んでいる工員やフィールドワーカーが喜ぶようなシステムを、情シスが意外とほったらかしにしているんです。守りと攻めという区分けではなく、価値を生んでいる人たちをちゃんと支えるシステムを作っていきたい」と友岡さんは語る。
CIOの肩書きにこだわるのも、現在の不幸な情シスの現場を変えていきたいというのが大きい。「経営がわからない」と揶揄されることも多い情シスだが、そもそも経営にタッチできないのが現状。当然ながら、経営会議でもITの話がまったく議題に上がらず、「ITはわからない」という経営者が増えることになる。これが日本のITの現場で起こっている不幸の連鎖構造だという。「今の最大の問題点は、経営戦略とITの施策が分離していること。米国でCIOがいない会社はないですが、日本では専任のCIOを置いている企業は10%くらいで、兼任でも5割。だから、経営としてITに関与するCIOを日本に根付かせたいと切に思っています。情シスの人たちはポテンシャル持っている人多いので、下駄履かせてでもいいから、執行役員にしてしまえと」(友岡さん)。
長らく日本企業の代表ともいえる製造業に身を置き、グローバルの空気を吸い込み、ITの現場の酸いも甘いも体感してきた友岡さん。取材を通して一番印象に残ったのは「現場が喜ぶこと、驚くようなことをやりたい」というサービス精神だ。クラウドが台頭し、テクノロジーを部品として使えるようになった今、友岡さんは今も武闘派CIOとして日本企業とITとのあるべき姿を訴え続けている。
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