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日本のITを変える「AWS侍」に聞く 第23回

高いポテンシャルを持つ日本の情シスを再生させたい

クラウド時代のあるべき情シスを訴える友岡さんが武闘派CIOになるまで

2017年07月27日 09時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp 写真●曽根田元

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初日でデータセンター計画を破棄し、クラウドに邁進するフジテック

 プロジェクトを終えた友岡さんは、長年勤めたパナソニックからファーストリテイリングに転職し、業務情報システム部の部長として、M&Aで傘下に入った企業のシステム統合を推進する。ご存じの通り、同社では積極的にAWSを活用しており、クラウドが現実に使えることを身をもって体感した。その後、2014年に家族の暮らす関西に戻り、現職であるフジテックのCIOに就任する。

 「セカエレ」をキーワードに、グローバルでエレベーターやエスカレーターを展開するフジテックだったが、当時情報システム部は経営陣からなにをやっているかよくわからない存在だったという。また、グローバルの売り上げが6割に達する同社で、海外でのオペレーション強化も必須だった。「情シスの部長はいたんですけど、経営レベルでITをリードするCIOという役職がなかったんです。でも、社長の強い思いでCIOを作ることになり、情シス全体を任せてもらうことになりました。まるごとというのはなかなかできないので、魅力的でしたね」(友岡さん)。

 もう1つ、友岡さんがフジテックのCIO職に魅力を感じたのは、同社のシステムがすべて手組みだったという点がある。「会計系はパッケージでしたが、業務系はすべて自分たちで作っていた。エンジニアどころか、課長や部長レベルが自らコードを書いているので、外部への依存がゼロ。ERPのブームもまったく受けず、1980年代からフル内製化している。でも、僕からすれば原石ですよ」と友岡さん。レガシーだったテクノロジーをクラウドとモバイルでてこ入れすることで、周回遅れだった企業が一気に業界トップにのし上がれると感じたという。

 フジテックでの友岡さんの武勇談は、契約直前だったデータセンター計画の破棄からスタートした。「外部のデータセンターと契約する予定で、あとは契約書にサインをするところまで済んでいた。でも、社長が僕が入社するまでサインに待ったをかけてくれたので、契約を無効にできた。そしてその日のうちにAWSにサインアップし、自由にサーバーを作れるようにした」(友岡さん)。

 いきなりAWSが降ってきた形のフジテックの情シスだったが、もともと自らシステムを構築・運用していたこともあり、現場もそのメリットを瞬時に理解したという。導入した2014年以降インスタンスは増え続け、ファイルサーバー、Webサイト、ネットワーク系サービス、ワークスアプリケーションズの「Company」など、現在は190以上ものインスタンスがAWS上で稼働している。

 グローバル展開している企業にとって、AWSは大きなメリットがあるという。「グローバルの現地拠点には潤沢に人がいないので、サーバーの管理も大変。でも、AWSがあれば、現地のリージョンにサーバーを立て、シェアードサービスとして展開できる」(友岡さん)とのことで、25の国・地域で販売・生産拠点を展開しているフジテックもその恩恵を受けているとのことだ。現状、ガバナンスという点はまだまだというレベルなので、今後はローカルで異なったシステムや運用を日本に巻き取って行く方針だ。

日本のクラウド利用はこれでいいのか? 武闘派CIO誕生の背景

 そして、友岡さんがフジテックにジョインする2014年春、その後の自身の立ち位置に大きな影響を与える出来事があった。東急ハンズの長谷川秀樹さんとの出会いだ。「JAWS DAYSで長谷川さんが(ガートナーの)マジッククワドラントを出して、『なにごちょごちょ言うとんねん。クラウドの比較なんてせんで、一番右上でええやんけ』とか言ってたんです。『おっ仲間がいる!』と思った」と友岡さんは振り返る。実際に直接話すのはかなり後になるのだが、すぐに意気投合したという。「長谷川さんの登場は僕にとってインパクトでかかった。ある意味、相思相愛で二人は出会ったんです(笑)」(友岡さん)。

 長谷川さんや日清食品ホールディングスの喜多羅滋夫さんなど、志を同じくする「武闘派CIO」として情報発信し始めたのも、日本のクラウドの利用状況に大きな違和感があったからだ。マネージドやら、ホステッドやらが頭に付くような「なんちゃってクラウド」が媒体を賑わせ、Oracle Exadataをホスティングしているだけで、フルクラウドと言い切るCIOがイベントに登壇する。こんな状況に友岡さんは我慢ならなかった。「ベンダーべったりのいけてない情シス部長が、過去の資産を背負ったまま、まがい物のクラウドを使っている。新しい時代に乗っているポーズをしながら、旧態依然としたシステムを温存しているのが、見ていて一番いやだった」と友岡さんの舌鋒は鋭い。

 友岡さんが自ら情報発信を開始したのは、単に感情としていやだっただけではない。「米国はITを使うことで、この20年すごく生産性が上がっているけど、日本はそうじゃない。ITはどんどんカジュアルになっているのに、今までの重たい資産を持ち続けているのはもったいないと思いますよね」(友岡さん)。昨年はAWS Summitで厚切りジェイソンさんと日本の働き方について登壇し、講演を聞いた人から多くの賛同者を得たという。

 こうした情報発信の増幅装置、そしてイノベーションのゆりかごとしてもJAWS-UGのようなコミュニティの存在は大きい。「従来、イノベーションを先導していたのは国家だったけど、これが企業に移り、今は個人に移っている。これからは個人が連帯し、世界を変えていく。これはJAWSに限らず、どこの業界にも起こりうる社会構造の変化だと思う」と友岡さんは語る。

JAWS DAYS 2017の武闘派CIOセッションで吠える友岡さん(撮影:中井勘介)

 昔はベンダーの営業を呼びつけて、いろいろ聞いていたが、今はコミュニティで学び、コミュニティで教えるというのが大きな流れ。特にプラットフォームであるAWSの場合、うまく使っている人のノウハウや知識はきわめて価値が高い。「JAWS-UGはエンジニアの熱い想い、会社を超えてエンジニアが学び合うという文化がすごい好きですね。嗅覚の鋭い人たちと出会って、いろんなことがディスカッションできるのはJAWS-UGのイベントのよさです」とコメントする。

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