さくらから見たmstdn.jp移行の舞台裏とMastodonの可能性
自宅サーバーからさくらのクラウドへ!mstdn.jpとの2週間をさくらの2人に聞く
2017年05月02日 07時00分更新
いいの? 移行時のぬるかるさんのデータ削除に驚く
大谷:移行先のクラウドはどれくらいのスペックが必要だったんでしょうか?
鷲北:当時はMastodonの内部構造がよくわかっていませんでした。なんだかredisのサーバーが立ち上がったとか、Webサーバが複数あるねとか、外から見ているだけ。ただ、「24GBのデータベースを作る」とぬるかるさんがぼそっとつぶやかれたんです。そこで僕は一番大きいのしてくださいとお願いしました。
横田:224GBメモリですね。
鷲北:そうしたら、ぬるかるさんもわかりましたと即答が来ました。だから、データベースのインスタンスだけはハイエンドです。
大谷:なるほど。自宅サーバーからの移行だと、ネットワークの刷新も大きいですね。
鷲北:はい。ネットワークは大きめのプランを選択していただいています。加えて、将来大きくなることを見越して、IPアドレスも追加で割り当てていますね。その配下にサーバーがずらっと並んでいて、負荷に応じてサーバーを追加する感じ。15日の段階では5~6台でしたけど、現時点では30数台にまで膨らんでいます。スペックもさまざまで、ぬるかるさんがチョイスしていますが、詳細はわからないです。
大谷:実際の移行はどんな感じだったんですか?
鷲北:切り替えのときに「無停止でデータベース移行するやり方知らないから、サービス停止しなければならない。どうしよう」みたいなことをつぶやいたので、私は「メンテナンスとしてきちんと止めてしまうのも1つの手ですよ」と提案しました。事業者の目線としては普通なので。
大谷:とはいえ、ぬるかるさん過去のデータを消すという話で、驚きました。
鷲北:あれも突然だったんです。私の書き込みをどうとられたかわからないのですが、ぬるかるさんは移さないという決断をなさったらしく。
mstdn.jpもこの時点では確か4万以上のユーザーがいたはずで、それはぬるかるさんの資産だったと思います。少なくとも事業者の目線だとそう感じてしまうんです。ただ、ぬるかるさんは、なんというか、そこらへんさばけてらっしゃるというか、あまりこだわりがなかったみたいですね。
大谷:マストドン会議では、ここも詳しく聞けるといいですね。
鷲北:ただ、データ削除に迷っていたぬるかるさんに対して、周りの方々も「消してもいいんじゃないですか?」「それはやむをえないじゃないですか」という肯定メッセージが多かったんですよね。ちょっと前の無償サービスってデータ消したら非難ごうごうだったじゃないですか。それから考えると、時代変わったなあと思いました(笑)。
大谷:なんでしょうね。mstdn.jpに向けての、この生温かいネットのがんばって感って(笑)。学生さんががんばってサーバーを運営しているのを、みんなが応援して、データ消すっていっても「いいんだよ」と応援するこの空気感は、横から見ていても不思議な感じでした。
横田:昔のインターネットユーザーがけっこうお父さん目線なんじゃないですかね(笑)。
大谷:成長していくサービス見るのって楽しいじゃないですか。その意味では、こういうスタートって久しぶりかも。なんだか、WinnyやSoftEtherを思い出しました。
鷲北:ともあれ、金曜日の深夜から土曜日の朝には新しいmstdn.jpが立ち上がっていました。サーバーのスペックも向上したし、なにしろ回線が大容量化したはずなので、サクサク動くようになったみたいです。われわれもよかったなと思いました。
大谷:現状、mstdn.jpはリミットまで達する予兆はあるんですか?
鷲北:とりあえずは収まってますが、プログラムの問題で、CPUの負荷はかなり重いんです。ピクシブさんのパッチでだいぶ改良されたとは聞いていますが、いまもかなり重いようです。ただ、吐いているトラフィックはそれほど大きくないです。
ぬるかるさんも、この2~3日はデータベースで苦労しているようですが、データベースのサイズは6GBくらいしかないとか書いていましたね。最初は「本当かな?」と思ったのですが、画像はたぶん別のところだし、コアのDBとテキストだけだったら、確かにそれくらいで収まっているんでしょう。だから、ディスクI/Oもそんなにヘビーじゃないはずです。
WordPressくらいの手軽さを求めるとMastodonはやけどする
大谷:Mastodonに関しては、さくら側からもいろいろな情報提供をしていますよね。
鷲北:16日の日曜日にうちの田中(さくらインターネット代表取締役社長 田中邦裕氏)が書いたブログが読まれましたね。まあ、外からは「テポドンとマストドンの区別が付いてないのでは?」とか言われてましたが、田中もときにはいいこと言います(笑)。
横田:いえいえ、いつもいいこと言ってます(笑)。
鷲北:同時期に、うちの社内でもMastodonの関心が高まってきて、SlackでMastodonチャネルもできたり、技術フォローが始まりました。たとえば、VPS技術担当のプロデューサーは最速でMastodonサーバーを作るという手順書を挙げてます。
横田:Docker使わないやつです。前佛さんはDocker使ったやつを書いてますね。
鷲北:あとはWebアクセラレーターのメンバーもAnsibleのプレイブック書きました。ちょうどぬるかるさんが「やってみたいけど、メンテで手に負えない」と話していたときだったので、それをカバーする内容です。非常に参考になったと喜んでいただけました。
18日にはさくらのクラウドでMastodon用のスタートアップスクリプトが公開されました。新規ドメインを取得し、NSだけ書き換えてもらえば、あとは全自動です。サーバー作成や、DNSとメールの設定、Let's EncryptによるSSL化までやって、Mastodonのインストールも15分くらいで完了します。Mastodonは手動だとインストールがとにかく大変なので。
大谷:そんなに大変なんですか。
横田:私は自分でインストールチャレンジしたのですが、半日かかって、結局疲れてやめました(笑)。それとは別に「自宅サーバーでMastodonサーバーを立てる」という企画があって、エンジニアと2人でやったのですが、朝10時からはじめて、動くようになったのは20時です。
大谷:うわっ。どこらへんが大変なんですか?
横田:Dockerを使うとしても、けっこうコマンドが必要。しかも通常のLAMP構成ではないので、なじみのない技術で、いろんな設定が必要になります。まあ、慣れている人であればそれほど手間かからないと思うのですが……。
鷲北:いやいや、慣れている人でも大変だと思いますよ。Mastodonそのものは正直まだ完成度が低いと言わざるを得ないんです。プログラムもかなりむき出しの状態で、たとえばメンテナンスもRuby on Reilsのコマンドをそのまま手動で打たなければならない。ドキュメントも現時点では英語だし、コンポーネントに相当詳しくないと、手が出せません。僕も怖くて、メンテができない状態です。
大谷:鷲北さんがメンテできないって(笑)。
鷲北:そう考えると、ぬるかるさんのチャレンジって本当にすごいなと思います。ボタン1つでアップデートみたいなWordPressの手軽さを期待して手を出すと、Mastodonは本当にやけどします。そういえばメールも大変でしたね。
横田:昨日の企画でもそれははまりまして、Mailgunというクラウド系のメールサービスを使おうと思ったんですけど、一瞬でリミットが来ました。全然メールが配信できなくなってしまったんです。仕方ないので、自分でpostfixでメールサーバー立ててメール送れるようにしました。
鷲北:Mastodonってユーザーアカウントの登録のところで、確認メールを送るんですけど、一通一通きまじめに返してしまうんです。だから、有名人の方がサーバー立てると、当然リクエストが集中するので、数分間で大量にメールを送ってしまう。当然、サービス側からは「おまえはスパム送ってるだろう」という話になり、リミットがかかってしまうんですよね。
横田:もちろん、事前にきちんと設定すればいいんでしょうが、サービス事業者も1~2日くらい暖気運転させるので、昨日の時点ではその方法しかなかったです。
鷲北:うーん。だからスタートアップスクリプトは出してから、失敗したかもと思っています。すぐにインストールできるのはもちろん素晴らしいのですが、メンテナンスどうしようと思っています。簡単にインストールできたとしても、アップデートのためにコマンド打ってくださいとはすごく言いづらい(笑)。実際、カスタマーサポートにお問い合わせが来たのですが、なんてお答えしようかと。
大谷:なるほど。インストールまでは容易にできるようになったけど、メンテが大変なんですね。
横田:とはいえ、立てたいという方はいっぱいいるので、きちんとスタートアップスクリプトの価値は出せていると思いますよ。
鷲北:さすがエバンジェリストは前向きですね(笑)。実際、スタートアップスクリプトはうちのDNSサービス使うので、これを数えればエントリ数がわかります。昨日までの1週間で200くらい増えていました。