「学歴見なくなってる」タブーだらけの新卒採用サービス『Offer Box』人気の背景
就活の問題は学生と企業が会い過ぎていることにある
徹底的なヒアリングで常識破りのサービスが生まれた
事業モデルを変える際に中野氏が注目したのは、起業家と学生だった。勉強会でつながっていた学生はすでに200名以上を超えており、一方で顧客となる企業も、グロービスにいた田中氏の人脈があった。この学生200人と企業100社にインタビューを行なったことがサービスの成り立ちに強い影響を与えた。
「驚いたのは、企業からは大学のことだけでなく、小学校や中学校のことも知りたいというニーズが寄せられた点。私は反対だったが、『自分たちのエゴは入れない』と決め、それで行くことにした」(中野氏)
企業はどうせ学歴しか見ないだろうと中野氏は思っていたのだが、現在では逆で、学歴のほうを見なくなっている傾向にある。『Offer Box』を利用する大手企業とベンチャー、中小企業別で、どんな学歴分布でオファーを送っているのか統計を取ったところ、それぞれでほとんど有意な差がなかった。またウェブページでの行動を分析しても、学校や顔を重視するかと思いきや、各社が見ていたのはあくまでプロフィールとして入力されたぼう大なテキストデータだった。
料金も同様にヒアリングを行なう。当時の成功報酬型求人サービスは相場が75万円で、リクルートは88万円。しかし、100社に聞いたところ、98社は30万円以上との回答だったため、30万円に決定。あまりにも市場とかけ離れた安すぎる設定に「そもそも成り立つのか」という声もあったが、徹底的に受け入れて中野氏はサービスをスタートさせる。
結果は明白だった。200人の学生にヒアリングしたので、リリース初日に208人が登録してくれた。そのまま口コミも発生して、2ヵ月で1500人を突破。初年度の目標は1500人の登録だったが、2ヵ月で達成した。結局初年度は4500人がユーザーになった。企業にも100社ヒアリングしていたため、すぐに15社が利用してくれた。しかも、15社すべてが上場企業。スタートアップとは思えない滑り出しだった。
就職活動での、学生と企業が会いすぎている問題とは
順調にスタートした『Offer Box』だが、中野氏が決定し、現在でも採用され続けている機能がある。それは、企業から学生へのオファーの送信を制限している点だ。
新卒採用サービスの多くは、複数の学生への一斉送信が可能だが、『Offer Box』にはその機能がない。採用担当者は、ひとりひとりに個別送信する必要がある。さらに、企業から学生に送信できるのは1社100名まで。ここで超過時の有料オプションを販売するようなことはしておらず、100名が限界になっている。一方で学生が受け取れるオファーはもっと少なく、15社まで。これも、意志決定をしないとそれ以上のオファーを受け取れない。
「現在の就職活動の問題は、学生と企業が会いすぎていること。転職時と比べると、4~5倍の人数に会っている。結果何が起こるかというと、ひとつの企業に真剣に向き合って話す時間がどんどん短くなっていく。ここを濃くすることで、今のミスマッチの根幹の部分が減るのではないかと思っている」(中野氏)
『Offer Box』では、システムからの自動送信や代行するエージェントを設けず、学生へアプローチする作業を人事担当者にやってもらう。学生のプロフィールを読み込み、限られた枠の中からオファーするのだ。その際も単純な申請ではなく、企業担当者も自らの写真とともに、「プロフィールを読んで、あなたのここが気に入りました」といったメッセージを書く。
「手間はかかるが、そこをきちんとしないと、結局その後の効率が上がらない。『自分が選んだこの学生にオファーしたい』という意志があるからこそ、価値のある情報がお互いに飛ぶ。学生は自分のどこに魅力を感じてもらったのかがわかるなど、近い距離からコミュニケーションをスタートできる。『Offer Box』の就活は無機質ではなく、暖かみがあると感じてもらっている」
3年間で3割が離職するという新卒採用自体の現状改善が『Offer Box』の目標だ。だがそのためには、スケールしてもっとユーザー数を増やさなければならない。2年目に5500人、3年目に時流もありブレイクして2万人になったが、まだまだ足りない。
「2015年から就職活動の時期の変更があり、企業サイドから速く動けるサービスがないのか、という声がその前年に一気に出た。学生サイドも3年生の6月くらいから登録させてほしい、といった問い合わせが急増した。だが、ベンチャーで入金まで1年6ヵ月かかるサービスではキャッシュがもたない。再び企業に聞いてみると、先払いのプランの希望が来た。今回も私は反対だったが、顧客の声を聞くということで出したら、とても売れた」(中野氏)
3期目には黒字を達成して、同社の従業員も倍々ゲームで増えている。初年度は創業者3人だが、2年目で6人、3年目で12人、4年目で25人、今は60人とのこと。資金調達は政策金融公庫などからの借り入れが中心だ。今後は企業の信用を得るために上場を目指すという。