利用者の本音が飛び出した「SORACOM LoRaWAN Conference 2017」
低速・長距離・省電力なLoRaWANが実現する、ちょっと先の未来
2017年02月09日 11時30分更新
2017年2月7日、都内にてソラコム主催の「SORACOM LoRaWAN Conference 2017」が開催された。同日にはSORACOM AirのLoRaWAN対応ゲートウェイの発売やArduino用通信シールドなども発売され、新サービスのお披露目も兼ねられた。400名の会場は満員、参加応募者は1000名にのぼったという本イベントでは、事前にPoCキットを使ってトライアルを行なっていた企業の事例紹介も豊富に用意されていた。これらを通じて、LoRaWANでできることを具体的に見てみよう。
SORACOM Air for LoRaWANをカンファレンス当日に発表
カンファレンスは、ソラコム 代表取締役社長 玉川 憲氏の挨拶からスタート。来場者に感謝を述べたのち、「昨年、1回目のSORACOM Conferenceもこの会場で開催した。同じ会場で第2回を開催でき、これほど多くの方に来ていただけたのはとても感慨深い」と語った。
IoTに興味を持つ読者は、すでにソラコムが提供するサービスについて知っている読者も多いだろう。閉域網を使ってデバイスとクラウドを結ぶSIMをはじめ、IoT向けのサービスをいくつも提供しており、十勝バスやJapanTaxiなどすでに5000ユーザー以上が利用している。従量課金なので低コストで運用できることや、閉域網を使っているのでセキュリティ面で安心できることなどが特長だ。2016年12月には米国でも提供を開始し、AT&T、T-Mobileの通信網で利用可能になった。
また、同社はカンファレンス開催当日に新サービスであるSORACOM Air for LoRaWANをスタート。LoRaWANの技術的な紹介は別記事にゆずることとして、ここではソラコムが提供するサービスの内容について確認しておこう。
SORACOM Air for LoRaWANはLoRaデバイスとLTEネットワークを中継するゲートウェイと、それに付随するサービスから成り立っている。興味深いのは料金プランで、ゲートウェイを占有する「所有モデル」のほかに、誰でも接続可能なゲートウェイとして設置する「共有サービスモデル」が用意されていること。
共有サービスモデルの場合、同じく共有サービスモデルを利用している他のユーザーのLoRaデバイスも接続可能になる。ユーザーが増えてカバーエリアが増えていけば、自社で1台のゲートウェイを設置するだけで広範囲で利用できるようになる可能性がある。自営ネットワークであるLoRaWANが公衆網のように整備される可能性があるというのは、なかなか面白い将来像だ。
費用は所有モデルの場合で初期費用6万9800円、月額利用料金3万9800円。共有サービスモデルの場合は初期費用2万4800円、月額利用料金9980円となっている。これらの料金にはゲートウェイのセルラー通信料金や、月額利用料金と同額までのアプリケーションサービス利用料が含まれている。
サービススタートと同時に、デバイスの販売も始まった。第1弾デバイスは、ArduinoにアドオンしてLoRa通信を可能にする基板とアンテナをセットにした、LoRaデバイスArduino開発シールド。定価は7980円のところ、期間限定先着順で4980円で提供される。
マンホールに閉じ込めても雪崩に埋まっても通信可能
「SORACOMプラットフォームのLoRaWAN対応 ~データ環境が取得とクラウド連携~」というセッションで、ソラコム 最高技術責任者の安川健太氏は、APIが豊富に用意されていることや、CUIからの管理も可能であることを紹介。デバイスのデータを収集するだけではなく、デバイスに向けたプッシュ通信が可能になったと語った。これにより、デバイスのバラメーター変更などをOTAでできるようになった。また、SORACOM Beamでアプリケーション連携できるので、IoTに特化した機能部分を作り込む必要なはなく、LoRaデバイスの設定画面から宛先のURLやポート番号を指定するだけでWebアプリケーションと連携できることもアピール。
その後、2社の事例が紹介された。ひとつは、日立システムズの上川 恭平氏が紹介した、マンホール内の状況をオンラインで監視するシステムだ。マンホールの状況を監視するにはいくつかの理由があるが、その中でも大きなものが、テロ対策だという。東京オリンピックなど大規模イベント時に爆発物を仕掛けられるなどの恐れがないよう、監視する必要があるという。
日立システムズでは、1台のゲートウェイでどれくらいの範囲のマンホールを監視できるのか、電波が届く範囲を実際に調査した。デバイスを設置したマンホールを移動させる訳にはいかないので、逆にゲートウェイの設置場所をあちこちに変えて計測する手法を取っている。場所は、新宿のど真ん中。ビルが立ち並び、いろいろな電波が飛び交い、無線通信の環境としてはとてもよいとは言えない。それでも、マンホールの蓋を閉めた状態で最大580メートルの通信を確認したという。
博報堂アイ・スタジオ Future Creative Lab Creative Technologistの川崎 順平氏は、近くサービスインする「TREK TRACK」の開発について明かしてくれた。TREK TRACKは登山者を支援するサービスで、GPS内蔵のLoRaデバイスを持って登山してもらい、現在位置の把握や遭難の早期発見、家族への居場所のシェアなどに使えるというもの。山の中では携帯電話の電波が届かない場所があること、そもそもスマートフォンは何日もバッテリーが持たないなどの課題を、超省電力のLoRaデバイスを使うことで克服する。
山の中にはビルのように遮るものがなく、高く登れば登るほど邪魔な電波もないため、数キロの通信は余裕。さらに、3メートルほど雪に埋もれた状態でも通信できることが確認されたため、雪崩被害にあった遭難者の発見にも役立つと期待される。博報堂アイ・スタジオでは10キロの安定通信を目指して実証実験を重ねているという。「SORACOM Air for LoRaWANはLoRaデバイスを使うために必要な基盤がパッケージになっているので、デバイスの機能やサービスUIなど、作り込みたい部分に注力できる」と川崎氏は評価した。
これらの事例発表ののち、ソラコム 安川氏によるデモンストレーションも行なわれた。会場に持ち込んだLoRaデバイスから収集したデータを、グラフ化して画面に映し出すというもの。JSON形式で送られる生データも表示され、電波強度などのデータが同時に送られていることが確認できた。