社員が仕事に戻れない
筆者のバークレーに住む友人に、大手テクノロジー企業に勤める検索に関連するエンジニアがいます。彼はイラン人で、米国では日本企業が開設していた人工知能の研究所に所属していたこともあった人物です。
そんな日本びいきの彼は、2016年11月に日本旅行を楽しんできたばかりでした。もしも今の時点でその旅行に出ていたら……考えるとゾッとすると言います。今回の大統領令で米国に入国できない、あるいは米国行きの飛行機に乗れない対象になってしまうからです。
グーグルは、共同創業者のセルゲイ・ブリン氏がサンフランシスコ国際空港のデモに参加するなど、この問題に敏感に反応しています。大統領が出る直前、出張中、あるいは米国外にいた100人以上の社員を米国に呼び戻しました。
Appleも、多様性に対して積極的に取り組んできた企業です。ティム・クックCEOは「我々が支持しない政策だ」と指摘した上で、「移民なしにはAppleは成り立たなかった」と社員に対する支援の表明しました。
共同創業者のスティーブ・ジョブズ氏の生い立ちを辿ると、米国人とシリア人からの移民との間に生まれたことからも、その言葉の重みは計りしれません。
そのほかにも、Twitter、Uber、Lyft、Netflix、AirBnBなどが声明を出したり、寄付や支援を提供したりしています。
ここで気にしておかなければならない構造
ニューヨークやサンフランシスコの空港の国際ターミナルのデモやボストンでの大規模な集会と、トランプ大統領の政策に対する反対の声が上がっています。その点は大きく報道される一方で、トランプ大統領がこれを撤回しない可能性も高いのです。
Fox Newsによると、今回の大統領令が出される2週間前の1月5日から9日に行われた世論調査で、移民の受け入れを停止する政策に対して、支持48%、反対42%という結果が出ていました。つまり、米国の世論では、今回の政策を支持する人の方が多そうだ、ということです(https://twitter.com/foxnews/status/825779177232162816)。
サンフランシスコやシリコンバレーのテクノロジー企業の反応とはまったく異なる結果ですが、トランプ大統領への得票が集まった大統領選挙の結果を見れば、その結果を受け入れるべきかもしれません。
米国でも移民政策によってメリットを得ている人々、これに理解している人の方が少数派になりつつあるということです。米国においても、多様性は面倒だと感じている人が多いのかもしれません。
もちろん日々の生活だけではなく、テロや安全保障上の問題を考えて答えている人もいるかもしれませんが。
筆者紹介――松村太郎
1980年生まれ。ジャーナリスト・著者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。またビジネス・ブレークスルー大学で教鞭を執る。米国カリフォルニア州バークレーに拠点を移し、モバイル・ソーシャルのテクノロジーとライフスタイルについて取材活動をする傍ら、キャスタリア株式会社で、「ソーシャルラーニング」のプラットフォーム開発を行なっている。
公式ブログ TAROSITE.NET
Twitterアカウント @taromatsumura
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