グローバルモジュールを展開した先には「データのサービス」
伊藤:海外展開も含め、2017年のさくらのIoT Platformの計画を教えてください。
小笠原:3人とも違うことをやろうとしている可能性もありますけどね(笑)。
田中:会社としては、グローバルでシームレスに使えるモジュールを供給することですかね。通信網として考えると、みなさんの興味はSIMに行くんでしょうけど、そういったSIMの心配なしに全世界で使える安価なLTEモジュールを世界で供給するというのは、今年中にやっておきたいです。
山口:僕の方はテクノロジーとビジネスを両面で見る必要があるので、グローバルで通信できるようにするための仕組みや、販売するための手法、サプライチェーンまで考えなければなりません。とにかく1000個とか、そういうレベルではなく、大量にばらまきたい。そうするためにはどうすればいいかをちゃんと考えて、今年中に回すところまでやってみたいです。
小笠原:まずはデータを集める通信の仕組みを作り、それをグローバルに広げています。その次の段階として僕がやろうとしているのは、データを持続的に利活用する仕組み作りですね。僕は最近「情報銀行」と「情報信託銀行」ということをよく話しています。つまり、データをセキュアに預かる仕組みと、データを信託してもらって、匿名化したデータを外部の業者に安全に利活用できる仕組みが必要ということです。でないと、なんのためにデータを集めるのか、目的がはっきりしなくなるので。もちろん、さくらだけでできないことも多いので、外部の業者とアライアンスを組んで取り組んでいきたいです。
田中:IT企業と金融機関が組んだ情報銀行みたいなものは、今後日本でも出てくると思うんですよ。
小笠原:銀行や信託銀行、取引所みたいに、お金になぞらえたほうがデータの扱いがわかりやすいので、こういう説明をしています。そこでのデータの非改ざん性を担保するために、昨年はブロックチェーンの実証実験も進めてきました。テックビューロとの実証実験で、一般的な銀行の勘定系に匹敵する処理速度が実現できることも先日発表してますね。
伊藤:情報を秘匿する部分と使ってもらう部分を両面でやるということですね。
小笠原:このまま行くと、データを餌としているAIまでダメになってしまうんですよ。今までデータがなさすぎて、AIは何度も失望されていたので。その意味、さくらはシンプルで、データを集めてくるさくらのIoT Platformがあって、CPUリソースとしてのさくらのクラウドやレンタルサーバーがあって、GPUリソースとしての高火力コンピューティングが用意されています。で、それらをどうやってビジネスにつなげていくのというところで、先ほど話したデータ部分のサービスがあります。
物々交換に回帰する世界では情報も同じ道をたどる
伊藤:サービスもこうしたコンセプトにあわせて開発が進んでいるんですよね。
山口:なんだか、自分の活動情報とかが受動的に得られるという、田中さんや小笠原さんが最初に作っていたようなモックアップに今になって戻りつつありますね。お金じゃないかもしれないですけど、データを提供することによって、自分にとって得なフィードバックが得られる世界が見えてきています。
小笠原:フィードバックを得る代わりに、自分のデータを使ってもらっていいという人って、けっこういると思うんですよ。僕だって、別に自分の体内情報を差し出してもいいです。それ以上のフィードバックをいただけるなら(笑)。
伊藤:たとえば、分析の結果として病気の予兆とか教えてくれるなら、お金以上の見返りですよね。
小笠原:そこまで行って、人類はようやく物々交換の世界に戻るんですよ(笑)。物々交換から貨幣経済に移行する話ってよく出てきますけど、なんのルールもないところで物々交換が成立していたわけではなく、昔は単に強い者が弱い者から搾取していただけですよね。僕は強い者になんとかモノを渡すのを猶予してもらうためにできた約束手形みたいなものが貨幣の原型だと思っているので、人間が理知的になっていけば行くほど、物の価値が明示的になります。だから、物々交換が成立しやすくなるはずなんです。
田中:今ではモノの価値が瞬時にリコメンデーションできるので、お金とは違った価値基準で、等価交換が成立します。だから、このまま行けば、メルカリとか絶対に物々交換になりますよね。今ですら換金するのに手数料がかかるわけで、だったらモノを買うためにお金にするのではなく、モノを直接交換した方が早いです。
小笠原:データもそうなるはずなんです。自分のデータを提供して、自分に有益な情報を返してもらう。とてもシンプルです。とにかく、そういう世界の糸口になることまでは今年中にやっておきたいですね。