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週刊キツカワ 第8回

7号「紙媒体の限界」

40年前にTwitterを実現していた雑誌「ポンプ」が見た限界

2017年01月07日 12時00分更新

文● 四本淑三

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怪人サカモトと三誌共同ネコ企画

橘川 それから「カポネトライアングル」というのもやった。

西牧 カポネ? トライアングル?

橘川 これはね、坂本正治という怪人がいたわけですよ。もう亡くなっちゃったけど。

西牧 それって誰ですか?

四本 サカモトさんは説明が難しいな。実家が銀座の薬局のボンボンで、まず麻布を出て宇宙獣医を志して東京農工大学へ進むんだけど。

橘川 ソ連がスプートニクにライカ犬を乗せて飛ばしたでしょ、1950年代の終りに。それで「これからは宇宙獣医の時代だ!」と言って、獣医を目指したんだけど、すぐにガガーリンが飛んじゃった。おかげで宇宙獣医が必要なくなって挫折しちゃったんだ。

西牧 頭がいいんだかなんだかわからない人ですね。

四本 破滅型の天才です。その後はアーティストになって、銀座のソニービルや大阪万博の三井館で「時間分割テレビ」を展示したんですよ。3秒ずつタイムラグのある映像を10台のモニターで再生するっていう、当時の現代美術としては最先端の作品だった。なんであのままパイクにならなかったのかね。

西牧 相当変わった人っぽいのはわかりました。

四本 その後、コンピューターでプロジェクターを制御するイメージシンセサイザーっていうものを作ったりして。ライターとしてはブルータスの連載はファンも多かったし、二玄社のクルマ雑誌でもメチャクチャな連載をやってたよね。

橘川 イメージシンセサイザーは最初「映像を演奏するマシーン」としてニューヨークのソーホーに住みながら開発してたんだな。マガジンハウス(当時は平凡出版社)の忘年会で、取材で撮影したネガとその時代に流行った曲で、演奏していた。時代そのものが走馬灯のようなイメージで伝わってくるんだ。高校生だった四本にテレビの画面を撮影させて、四本の作った環境音楽に合わせて作品作ったこともあったな。

四本 昔の個人的なことは触れないよーに。

橘川 坂本さんがプロデューサーになって、横浜の洋光台に「こども科学館」を作ったときにも、オムニマックスシアターで四本の音楽が使われていたな。そういえば、1990年代の前半って、四本も現代アートやってたな。

四本 もうポンプの話に戻るよーーーに!

橘川 まあ、その彼がさ、突然ポンプの編集部に現れたわけだよ。「この雑誌を作ったのは誰だ!」って怖い顔でさ。仕方なく俺でーすと言ったら「君か、君はオレと同じ考えだ、一緒にやろう!」って。それでできた企画が、カポネトライアングルなんだけど、これはカメラ毎日の「カ」、ポンプの「ポ」、猫の手帖の「ネ」、三誌の共同ページで「カポネ」なんだ。ネーミングは俺ね。

1979年9月号のカポネトライアングルのページ。最初のタモリのような人物は佐伯さんと言って、カポネに扮した当時のカメラ毎日編集長で、撮影はなんと秋山庄太郎。この企画は1980年1月号まで続いた

西牧 それって画期的なことなんですか?

橘川 この三誌が共同して同じ誌面を作ったんだよ。当時としては画期的だね。カメラ毎日は読者が猫の写真を撮ってくるだろ。猫の手帖は猫のマニアが猫の話を持ってくる。で、ポンプにはわけのわからない投稿が来るわけだ。それぞれ集まった原稿をそれぞれのメディアで共同編集して載せていこうと。

四本 いまで言う投稿ネタのシェアみたいなものだね。

西牧 それは坂本さんだからできたんですか。

橘川 坂本さんはどの媒体でも仕事をしていたし、まあ人の意志は無視して強引にやる人だから、なんでもできちゃうんだ。この企画で重要なことは、雑誌が自分の雑誌だけで完結するのではなく、ほかの雑誌との連携を探ったことだ。俺は、自分の雑誌だけがおもしろければよいというのではなく、書店全体が活性化しなければ意味ないと思っていたからね。

深刻なメディアの面積不足

橘川 でもそうやって、投稿雑誌を作っているうちに、根本的な矛盾が出てきたんだ。ポンプには毎日何百通と投稿が来るわけだよ。俺は朝から晩までそれを読んで区分していたわけだけど、全部は載らないわけだ。だって紙には限界があるからね。

西牧 文字数とか写真の数とか。

橘川 うん。すると選ばなきゃならない。そのときに気を付けたのは、俺には編集者として好き嫌いがあることだよ。だけど、つまらないおもしろいで選ぶのではなく、ある意見の代表を載せていこうと決めた。

西牧 意見の代表?

橘川 右翼でも左翼でも、シンボリックなものを載せていこうと。右でも左でも関係ない。旧来の編集者なら、自分の嗜好に沿ったものを整理して見せるのが仕事だったわけだけど、それを止めたわけだ。むしろぴあ的に、情報誌的に考えた。でも、そうすると読者から「橘川さんはどういう基準で選んでいるんですか」って来るわけだ。うるせえと思うだろ? でも、ごもっともなんだよ。俺が読者でも同じ質問をするね。だからボツをなくす方法を考えなきゃならなかった。当時、俺は「メディアの面積」って言っていたんだけど、ひとつは、まずそれを広げていくしかない。

西牧 ページを増やすということですね。

橘川 そう。でも売れば売るほど投稿が来るわけだから、いくら増やしても限界がある。だから同じ面積にやれるところまで詰め込んでみようというので、本気出したのがこれだ。「ピュアポンプ」といって、100文字投稿なんだよ。ポンプは最終的にはこれになるということなんだけど、これTwitterだろ?

ひたすら縦に文字が打ってあるだけの「ピュアポンプ」。当たり前の人の視力と気力では読めません

誌面の上には読むために必要なツールの形状を示したマニュアルも。ネットメディア的雑誌にふさわしく、このような誌面の使いこなしやコンセプトを説明するマニュアルが都度掲載された

西牧 ああ、確かに!

四本 でもダンプリストみたいで読めないじゃん。

橘川 切り込みを入れた紙を当てれば読めるんだよ。俺は写植をやってたから、できるだろうと写植屋にやらせたわけだけど、ずっと嫌がられてた。

西牧 紙の限界に挑む一つの方法ではありますね。

橘川 そんで、これは「嘘八百」と言って、嘘が二百並んでるんだよ。だから嘘八百というのも嘘なんだ。つまり、みんな嘘なんだよ。

本当のことなどなにもない嘘八百コーナー

四本 おもしろいなあ、ポンプ。

橘川 お前、今頃なに言ってるんだよ!

(そしてついにポンプは転換点を迎えます。続きは次回!)

Image from Amazon.co.jp
ロッキング・オンの時代

橘川幸夫著『ロッキング・オンの時代』
11月19日発売

渋谷陽一、岩谷宏、松村雄策とともに創刊メンバーだった著者が振り返る、創刊から10年の歩み。荒ぶる1970年代カウンターカルチャーと今をつなぐメディア創世記。装丁はアジール。



著者紹介――四本 淑三(よつもと としみ)

 1963年生れ。フリーライター。武蔵野美術大学デザイン情報学科特別講師。新しい音楽は新しい技術が連れてくるという信条のもと、テクノロジーと音楽の関係をフォロー。趣味は自転車とウクレレとエスプレッソ

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