AwardとAMIが台頭
経営の立て直しを図る
さて、話をPhoenix Technologiesに戻すと、1984年以降の互換機にはほぼ採用されていたわけで、PC市場の広がりにあわせて同社の互換BIOSの売上げもどんどん増えていった形だが、同社はこれにとどまらず非x86向けのBIOSの開発や、PCエミュレーションソフトの開発なども手がけている。
エミュレーターはSoftPCという名称で販売していたが、最終的にInsignia Systemsに売却された。さらに1987年以降は企業買収も積極的に行なうようになっており、さまざまな会社を買収し、さらにはプリンタエミュレーターや出版部門(Phoenix Publishng division)など、なにかよくわからない部門まで創設されている。
こうした多角化のお陰でか、1988年に株式公開を行なったところ、一株あたり18.75ドルの株価がついたという。
ただし、この頃になると競合メーカーも出てきはじめた。1983年にはAward Software International Inc.が、1985年にはAmerican Megatrends Inc.(AMI)がそれぞれ創業され、どちらも互換BIOSの開発と販売に乗り出している。
もう少し後にはMicroid Researchも参入するが、ここは大きなシェアを獲得する前に撤退しているので、勘定に入れる必要はないだろうが、それにしてもこれまで1社で獲得していたシェアを3社で分け合うとなると、PC市場そのものが成長傾向とはいえ売上は落ちることになる。
特に1989年はAWARDのシェアが結構伸びたこともあり、805.7万ドルの利益を上げていた1988年から一転して、1989年には768.4万ドルの損失計上、株価は3.75ドルまで下落した。
創業者のColvin氏は新規株式公開のタイミングでCEOを辞めており(ただし取締役会議長には留任)、後任は1982年から同社で社長を務めていたLance Hanscheが昇格していたが、彼は僅か6週間で退任となり、後任にはイーストマンコダックの子会社であるInteractive Systems Corporationで社長を務めていたRonald D. Fisher氏が就くことになった。
ちなみにこのFisher氏、現在はSoftbank Holding Incの社長であり、ソフトバンクの取締役である。さてそのFisher氏はPhoenixの建て直しを急ぐ。
1989年に急激に業績が悪化した理由は、競合のBIOSに比べて機能あるいは性能が劣っていたことであり、まずはこれの建て直しを図った。ここでいう機能や性能とは、次々と登場する新しい技術、例えばCD-ROMドライブからのブート機能への対応が遅れたとか、新しいチップセットやCPUへの対応が遅れたという話である。
これは社内のエンジニアリングリソースがさまざまな製品群に向けて分散されてしまったのが主要因であり、そこで改めてBIOSをコア事業と位置づけて開発リソースを集中させる一方、あまり業績に貢献していないさまざまな製品を廃止あるいは売却している。
こうした方針により、1991年から業績は大分回復してきた。1995年の有価証券報告書(Form 10-K)によれば、1991~1995年の決算は以下のようになっている。
1991~1995年の売上と営業利益 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|
年号 | 売上(S/W) | 売上(出版) | 売上(合計) | 営業損益 | ||
1991年 | 2512万ドル | 2210万ドル | 4722万ドル | -132万ドル | ||
1992年 | 2713万ドル | 3324万ドル | 6036万ドル | 219万ドル | ||
1993年 | 2965万ドル | 3666万ドル | 6631万ドル | 260万ドル | ||
1994年 | 4059万ドル | 4558万ドル | 8617万ドル | 679万ドル | ||
1995年 | 4994万ドル | 4994万ドル | 882万ドル |
1994年度で出版部門を売却してしまったので、売上そのものは1995年に半分ほどになっているのだが、利益はむしろ増えていることからもわかる通り、出版部門は売上は立つもののあまり儲かっておらず、これを切り離したことで財務上はむしろ健全化している。
1992年以降は営業損益の黒字化を果たしたことで、同社は再びM&Aを手がけられるようになった。ちなみに売却先は、これまたソフトバンクで3000万ドルだったそうだ。
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