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ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第386回

業界に痕跡を残して消えたメーカー BIOSで功績を残したPhoenix

2016年12月12日 11時00分更新

文● 大原雄介(http://www.yusuke-ohara.com/) 編集●北村/ASCII.jp

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PCの起動に必要不可欠な
BIOS

 ちなみに最近の読者は、そもそもBIOSをご存じない方もおられるかと思うので、説明しておこう。BIOSには大別して2つの役割がある。1つはPCが立ち上がるときに、システムの初期化をする作業である。

 いわゆるBIOSセットアップにあたるものがこれで、これはチップセットやボード上の周辺回路などに初期化パラメーターを与えたり、初期化ルーチンを実行したりして、最終的にFDDやHDDからブートローダーを読み込んで、そこに制御を移すまでの一連の作業を担う。これだけであればBIOSという名称にはならない。ただの初期化ルーチンである。

 もう1つの役割がBIOS(Basic Input/Output System)の名称として知られている部分だ。こちらはPC上の基本的な入出力を担う。例えばMS-DOSで画面になにか文字を出したいと思った場合、以下の動作になる。

  • (1) プログラムの中で、出したい文字のコードをDLレジスターに格納し、AHレジスターに02Hという値を格納する
  • (2) INT 21H(割り込みの21番)を発生させる
  • (3) 制御はBIOSに移り、そのDLレジスターの値に相当するキャラクターを画面の現在のカーソル位置に表示させる
  • (4) 表示後、制御はプログラムに戻る

 こうした、割り込みを使って基本的なサービスを提供する仕組みをファンクションコールと呼んでいるが、IBM-PCではこのファンクションコールの形で画面表示、キーボード入力、ディスク(FDD/HDD)入出力、AUX(RS-232C)入出力、プリンター出力などのサービスが提供されていた。

 ちなみにINT 21HだけでなくINT 20H~2FHまで16種類の割り込みがファンクションコール用に予約されており、それぞれの割り込みごとに最大256種類のサービスが提供可能であるが、さすがにこれを全部使い切っているわけではなく、その一部だけが提供される形だ。

 MS-DOSはこのIBM-PCのファンクションコールを利用する形で実装されていた。つまりIBM-PCとソフトウェア互換を保つためには、このファンクションコールも同等に実装しないといけない。

 1980年代、国内でも多くの企業が独自のMS-DOSマシンを出し、それぞれがまったく互換性がなかったのは、このファンクションコールに互換性がないためというのが最初の問題である。他にも、機種ごとに独自の拡張をしている部分の互換性の問題もあった。ただ逆に言えばファンクションコールの部分だけ手直しすれば、IBM-PC用のソフトが動いたりもした。

 MS-DOSの初期のアプリケーションに、Micropro InternationalのWordStartというワープロソフトと、その前身にあたるスクリーンエディターのWordMasterというソフトがあったのだが、確かWordMasterの方はIBM-PC版のソースコードの中で、ファンクションコールを行なっている3ヵ所ほどを書き換えるだけでPC-9801上で動いたなんて話があったように記憶している。

Phoenix BIOS「D686」

IBM以外で唯一のBIOSメーカーとして
成功を収める

 話を戻すと、BIOSそのものを記述することはそう難しくないのだが、それをIBM-PCと互換にしないとIBM-PC用のソフトが使えず、かといってBIOSを流用すると訴えられるわけで各社困っていたわけだが、Phoenixは完全に法的にクリーンな方法で互換のBIOSを実装することに成功し、1984年5月から出荷している。

 もっとも当初は、互換機メーカーからの売上が29万ドルあったそうだが、IBMと法的に争うことになった場合に備えて200万ドルの保険を掛けていたそうである。互換機メーカーは、この保険額を見て安心して発注するということだったそうで、なかなか大変な時代だったわけだ。

 互換BIOSにはもう1つメリットがあった。もともとのIBM-PCのBIOSは、当然ながら回路的にIBM-PCと同じものでなければ動かないので、いろいろ改良したり変更したりできない(もちろん高額なライセンスを受ければ書き換えることも可能になるが)。

 ところが互換BIOSならこれをもっと手軽に行なえることになる。実際Phoenix Technologiesの売上は、単に互換BIOSの販売だけでなく、BIOSのカスタマイズも結構大きなものになったらしい。

 これにC&TOPTiといった互換チップセットメーカーとの組み合わせで、いきなり低価格・高性能なPC互換機やPC/AT互換機が出現することになった。この時期まだ同社は株式公開をしていないので正確な業績はわからないのだが、“Rapidly growth”(急激に伸びた)という表現をしているから、かなり大きくなったものと思われる。

 ちなみにこの時期同社は、IBMのBlue Bookに似たマニュアルを、やはり書籍の形で出している。今は米amazonで探してもさすがに見つからないのだが、だいぶ後に出た“ABIOS for IBM PS/2 Computers and Compatibles”や“CBIOS for IBM PS/2 Computers and Compatiblese”は、当時日本では丸善や書泉グランデなどで取り扱いがあった。

 なにしろインターネットがない時代なので、AT互換機上でのハードウェアやソフトウェアを開発するにあたって必要な情報は、こうした書籍の形で配布の必要があったわけだ。ちなみにABIOSはAdvanced BIOS、CBIOSはCompatible BIOSの略で、CBIOSがIBM-PCと同じ機能を持ったもの、ABIOSはこれにPhoenix独自の拡張機能を加えたものである。

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