VR業界の動向に日本一詳しいと自負するエヴァンジェリスト「VRおじさん」が、今週のVR界の出来事をお知らせします!
どもども。VRおじさんことPANORAの広田です。今週のVR業界で注目の動きは、ソニー・インタラクティブエンターテインメントが2、3日に米国カリフォルニア州アナハイムにて開催している大規模イベント「PlayStation Experience」ですね。「グランツーリスモSPORT」や「エースコンバット7」のVR版がプレイアブル出展されるなど、PlayStation VRも新作の投入が続きそうです。
同じく今週には、グーグルが報道関係者向けに記者発表会を開催して、「Google DayDream View」や「Google Tango」をといったVR/AR関連製品を解説していたました。その発表会を起点に、今回はVRの普及で起こる「体験」時代の到来を予測してみましょう。
知りたいことを検索して「体験」
発表会では、米グーグルよりAR/VR部門のHead of Content Partnershipsを担当するAaron Luber氏が招かれて登壇していました。そのLuber氏が語った中で一番印象に残っているのは、グーグルがVR/ARで世界中の「経験」を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすることことを目指しているという話です。グーグルの創設者であるラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンが掲げたのが「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすること」で、その「情報」を「経験」に置き換えて、同じミッションでやってるとのこと。
この情報から経験へという話は、VRの秘めたるパワーを端的に表しています。
そもそも、われわれはなぜインターネットで検索するのでしょうか? 人から聞いた言葉の意味を知りたい。行きたいお店が何時までやってるのか調べたい。飛行機や電車の時刻表を確認したい。指定された住所が地図ではどこにあるのかを見たい。興味のある映画やゲームが面白いのかどうかチェックしたい。ほしい家具や家電の競合製品を比較して、一番安いところを探したい──。
グーグルでは、そうした検索結果を文字だけでなく、「写真」「動画」「地図」「ニュース」「ショッピング」……といったカテゴリーに分けて、わかりやすい状態で提示してくれます。今回の発表会ではその先の未来は語られませんでしたが、Luber氏の話を拡大解釈すると、将来的にはここに「VR」が加わるかもしれません。というのも世の中にはVRで「経験」したほうが、確実にわかりやすいものが存在するからです。
例えば、グーグルがHTC VIVE向けにリリースした「Google Earth」が顕著でしょう。PANORAでもレビュー記事を掲載しましたが、世界の上空を飛んで街並みを体験できるというのは、PCやスマートフォンのディスプレーで見るのとは大違いで、直感的に空間を把握できます。
同じ地図であるGoogle ストリートビューも、自分の視点で見た方が直感的ですね。ちなみにLuber氏によれば、Google CardboardももともとGoogle ストリートビューを1人称で見られるようにする目的で始まったプロジェクトとのこと。ほかにもイベント風景や旅行先、不動産やお店の様子などは、検索した時にVRで経験した方がわかりやすそうです。
今のところVRヘッドマウントディスプレーの普及もまだまだですし、ネットにVRコンテンツもそこまで多くないですが、2016年の「VR元年」を起点にして、これからどんどん増えていくはずです。そんな将来を見据えていれば、GoogleがVRに注力して、自分たち経由でさまざまな経験を検索してもらうように準備しているというのは容易に想像できます。
「経験」の記録も始まっている
もう少し時代が先になって、VRヘッドマウントディスプレーを持つ人が増えて、「VRでその場にいるように経験できる」という概念が広まってくれば、物事を経験で記録するという流れも目立っていくでしょう。
すでにジャーナリズムではVRの活用が始まっています。目の前で起こっている出来事を360度撮影で記録しておけば、あとでVRヘッドマウントディスプレーで見て追体験できます。国内ではNHKが「NHK VR NEWS」を開設していますし、先のアメリカ大統領選でも、360度ライブ配信をABC Newsが実施していました。EMBLEMATICが提供している「Project Syria」や「Hunger」などのように、現場の様子をCGで再現して当事者として体験する手法も出てきています。
家族や友人との記録にも役立ちそうです。旅行や記念日を360度カメラで撮影して、VRヘッドマウントディスプレーで見てあの日に戻る、というのは今すぐにでもできます。子供やペットを3Dスキャン&モーションキャプチャーして、VRで「あの頃」の姿に会うというのもできそうです。「目の前にいる」という感覚は、写真や動画ではなかなか実現できないものです。
教育でも活躍の場がでてくるでしょう。例えば、ダンスや演舞など身体の記録にも向いていて、達人の動きをモーションキャプチャーしておき、VRでさまざまな方向から何度も見られるというのは、これから学びたい人にとってはかなり貴重です。
現在においても、文字やビジュアル、音といったメディアを通じては理解しにくいため、わざわざお金と時間を割いてその場にいって何かを体験するということも多いです。解説サイトを見ただけでは、ディズニーランドに行った気分にはなれないですよね。そのリアルの空間から何かを削ぎ落として圧縮して伝えていた状況を変えて、空間ごと残して体験できるようにしてくれるのがVRならではの強さでしょう。
少し先の未来では、「芸能人 気分」と検索してフラッシュを浴びるスター気分を体験したり、「恐竜 大きさ」で恐竜のスケール感を実感したりという時代が来るのかもしれません。今のVR技術の進歩を考えると意外とアリだと思ってますが、みなさんはどう考えますか?
広田 稔(VRおじさん)
フリーライター、VRエヴァンジェリスト。パーソナルVRのほか、アップル、niconico、初音ミクなどが専門分野。VRにハマりすぎて360度カメラを使ったVRジャーナリズムを志し、2013年に日本にVRを広めるために専門ウェブメディア「PANORA」を設立。「VRまつり」や「Tokyo VR Meetup」(Tokyo VR Startupsとの共催)などのVR系イベントも手がけている。
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