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週刊キツカワ 第2回

1号「深夜放送の時代」

深夜放送はイノベーション、橘川幸夫が語る1960年代のラジオ

2016年11月26日 12時00分更新

文● 四本淑三

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深夜放送は参加型メディアのスタート

四本 そういえば、戦後のNHKがGHQの命令で「街頭録音」という番組をやっているんですよ。街の人にインタビューして世情を語ってもらうみたいな。中には半レギュラーみたいな人もいたらしくて、そういう意味では参加型のはしりだったのかも。

橘川 ラジオは戦時中から空襲情報を知るために各家にあったんだ。生きるための必需品だったんだ。だからラジオは聴いていたしインフラとして整備されていた。そして戦争がなくなって、飛行機は飛んでこなくなった。それで在日米軍向けにFENが始まったりしてね。ベトナム戦争やってる兵隊に、ピースだフリーだという音楽を流してんだから、変な人たちだな、と思ったね。

四本 1960年代に入ってからは、真空管からトランジスタの時代になり、ラジオも小さく安くなって、一家に一台から一人に一台になった。

橘川 それで、当時の若い人はラジオを聴いていたわけだ。戦後の受験戦争が生んだものは、勉強しながらラジオを聴く「ながら族」だったんだな。テレビは勉強しながら観られないじゃん、尺取られちゃうから。だから、みんなラジオを聴いていたんだ。で、深夜放送が始まるわけだな。この深夜放送というのは、実は日本のメディアのイノベーションなんだ。深夜放送がなぜイノベーションできたかというと、予算がないからなんだよ。

西牧 えっ、というのは?

橘川 テレビのゴールデンだったら、予算を使ってスーパースターを連れてきて、視聴率を稼げる。深夜ラジオは予算ないから、パーソナリティーに払う分くらいしかない。するとコンテンツがないわけだ。するとリスナーからの投稿というのが商品になっちゃったわけだ。番組に投稿すると落合恵子とか野沢那智と白石冬美とか、まあ、そういう人が読んでくれるわけだよ。すると俺の投稿を読んでくれたと、学校で自慢できるわけだ。

西牧 なーるほど。

四本 一応注釈入れておくと、落合恵子は文化放送の「セイ!ヤング」、野沢那智と白石冬美はTBSラジオの「パックインミュージック」という番組のパーソナリティーで、当時絶大な人気がありました。いずれも1960年代末に始まって、全盛期を1970年代前半に迎えています。同じ時期に始まったニッポン放送の「オールナイトニッポン」は今でもやっているんで、まあ説明いらないと思うけど。

深夜放送が全盛期を迎えた70年代はトランジスタラジオの全盛期でもあった。深夜放送は電離層の影響で地元でネットしていない番組が受信できるのも楽しみの一つ。国外の短波放送を聴く「BCL」が中高生の間でブームとなり、それに対応する高性能ラジオを各社こぞって開発していた時期でもある

橘川 まあ、それが参加型メディアのスタートでもあるわけで、そういう文化が深夜放送から始まったんだ。「深夜放送は若者の解放区」なんていうメッセージをラジオ局が流していた。

西牧 じゃあ、ミニコミやラジオの深夜放送も含めて、1960年代から1970年代にかけて参加型メディアが増えていったということですか。

橘川 同じ時代の底辺に、そういう流れが出てきたということだね。参加型メディアと言っても雑誌の投稿は大正時代からあるんだよ。小学館の「女学生の友」なんかは、女の子の投稿を売りにしていたり。読者投稿コーナーというのはどの雑誌にもあった。でもだいたいオマケなんだ。読者へのサービスとして投稿ページがあった。出版は権威だから、あくまで主役は偉い先生で、偉いことをしゃべる。それを大衆は聞いていればいいと、ずっとそういう流れだったわけだ。それが近代の長い出版の歴史。

 それをひっくり返そうとしたのがロックだったわけだ。同じだと。偉い人もアホな人も同じ場を作っているんだという、一種の平等主義的なものが権威主義に対するカウンターとして生まれてきたわけだ。

四本 ぶふふふ。

橘川 なに笑ってんだよ、おまえ。

 (なに笑っているかはさておき、ここでRCサクセションの「トランジスタ・ラジオ」をお聴きください。続きはまた次回)

Image from Amazon.co.jp
ロッキング・オンの時代

橘川幸夫著『ロッキング・オンの時代』
11月19日発売

渋谷陽一、岩谷宏、松村雄策とともに創刊メンバーだった著者が振り返る、創刊から10年の歩み。荒ぶる1970年代カウンターカルチャーと今をつなぐメディア創世記。装丁はアジール。



著者紹介――四本 淑三(よつもと としみ)

 1963年生れ。フリーライター。武蔵野美術大学デザイン情報学科特別講師。新しい音楽は新しい技術が連れてくるという信条のもと、テクノロジーと音楽の関係をフォロー。趣味は自転車とウクレレとエスプレッソ

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