品川女子学院 漆校長×人工知能プログラマー 清水亮
「先生、人工知能で未来の仕事はどう変わるんでしょう? 」人工知能と教育をめぐる5つの質問
2016年11月24日 09時00分更新
質問その4 人工知能の学び方に個性はあるのでしょうか?
男性 お話のなかで、(同じ人工知能だとしてもランダムに学習するので)学習のパターンというのが機械によっても異なるというのがありました。僕が読んだ本で、「達人のサイエンス」というのがあって、その中で、1つのことにのめり込んで、学習が停滞する「プラトー」というものがある、ここを乗り越えられる人が達人としてうまくいく、と。そうじゃない人、あきらめちゃう人は習熟できないというのがあるんですけど、コンピューターでもそういうことはあるんでしょうか。
清水 コンピューターが何を感じているのか、というのは僕らにはわからないんですけど、どちらかというと、今の場合は教育してる我々が我慢できなくなって電源を切りますね(笑)。
漆 親子と似てますね。
清水 「あんた、バレエコンテスト出られないんだから、バレエやめちゃいなさい」みたいな感じで、こっちが電源切っちゃうということはあるかもしれません。ただ、人工知能の学習におけるブレークスルー(一見、エラー率がこれ以上向上しないかのようにみえて、さらにずっと学習させ続けるとあるときに一気にエラー率が改善されること)というのは、確実に確認されてる現象ですから、ひたすら学習を続けているととんでもないところにいく、というのはわかっています。面白いですよ。機械に勉強させ続けただけで、継続は力なりということが証明されるということなんです。
僕は決して達人の技を否定してるわけじゃなくて、むしろサイボーグということを僕は常に考えていて、自分がやりたいことの知的能力を拡大してくれるような存在にAIがなっていってほしい。そのためには、AIと相対するのではなくて、AIを自分の体に取り込んでいくんだ、というような考え方でやってほしいなと思ってますね。漆先生からも何かありますか。
漆 そうだな、と思って聞いてました。
質問その5 ディープラーニングで進んでいる企業とはどこでしょうか?
清水 僕、企業の話でいくと、今、明らかに頭1つ2つ抜けてるのは、DeepMindとGoogle。あとFacebook。Facebookリサーチのルカン先生というのは、そもそもディープラーニングの大家なので、そこは頭二つぐらい抜けていて、残りはまだちょっと五十歩百歩と言ったら失礼ですけど、そこまでじゃないですが、やっぱり中国企業のBaiduとかはすごいですね。あとはマイクロソフトリサーチとか。普通の回答ですね。
彼らもお互いをライバルとは考えていないんじゃないかな、と思うんです。ある程度競ってる部分はあるんだけど、別にお金を奪い合ってないですから、今はまだ。同じ現場にいないので、それこそ違うレイヤーで戦ってるから、「俺たち、こんなこと考えたけど、お前ら、どうよ」みたいな、その段階。
トヨタもそうで、人の奪い合いというのは、まだそこまで激しく起きてない。なんでかというと、実際、まだAIでどうやって稼ぐかという具体的なイメージをみんな持ってないんですよね。むしろそこでかぶりそうなのは、テスラやUberの自動運転がどうなるとか。そこはそろそろ小競り合いが始まりつつある。会社も同じような場所にあるし。
残念ながら我が国って、こうした企業からライバルとは思われてないんですよね、こっちの世界だと。我々はよくあちこちで「このままだと日本は三等国になる」って言ってるんですけど、三等国どころか五等国ぐらいになっちゃうかもしれない、という危機感はあります。中国がすごく進んでいるのと、LINEはまだ前面に出てきてないですけど、LINEももしかしたらお金があるから何かやってる可能性はある。そうすると韓国にも負けるってことになりますよね。LINEを韓国の会社って言っていいかどうか、わからないですけど、実情として韓国の会社ですから。
そうすると日本で対抗できるのはヤフーさんぐらいしかなくて、頑張っていただきたいなと思いつつ、すでに儲かってる会社ってあんまり頑張らないんですよ(笑)。ヤフーさんは実際、「よくわかる人工知能」のインタビューに出てきますけど、ディープラーニングを導入して数%の改善があって、すごい儲かってるわけです。
儲かってる会社って、競争に勝っちゃってるから、そこで頑張ってもな、みたいになりがちです。実際今、国内でヤフーさんを超えるPVのサイトって存在しませんから、超える以前に匹敵するPVがもはやないので、(ライバル不在という意味で)なかなか厳しいなとはちょっと思いますね。
司会 ありがとうございます。そろそろお時間なんですが、最後にご来場いただいた皆さんに何か一言メッセージをいただければ。
漆 今日は私、ニコ生って初めてなんですよね。今まで怖くてご辞退申し上げてたんですけど、ちょっとでもお役に立てたらうれしいなと思います。何しろ私こういう話は、苦手分野だったので、興味があって苦手なので、よく知らない人代表で質問させてもらいました。皆さん、お付き合いいただいてありがとうございました。
清水 皆さん、遅くまで付き合ってくれてありがとうございました。本書執筆にあたって、松尾先生にほぼ最初にインタビューしたときに、「農耕革命に匹敵する」とまでおっしゃっていたので大変驚いたんですけど、その後、いろんな人にインタビューしていくと、どうも本当かもしれないというように考え方が変わりました。本書のあとがきが、ああいう書き方になったのはそのためなんです。
農耕革命に匹敵する知能革命が、いま急に起きていると考えるよりは、2300年前に起き始めた知能革命が、今加速されていって、最終的に大きな変化に到達するところに、今僕らがたまたまラッキーなことにいるんだな、というふうに考えたほうが楽しいかなと。
ですから、皆さんも今日はとても明るい話を聞いた、という感じで帰っていただきたいんです。AIの話をすると、すぐに人類が滅亡するとか、仕事が無くなるとか、そういう話になっちゃうんですけど、そうじゃなくて楽しい未来が待ち受けてるし、仮に自分がその楽しさに享受できなかったとしても、皆さんのお子さんとかその下のお子さんの世代になったら、100%確実にAIが大流行する時代がやってくる。これはほぼ間違いないので、これからの人類の発展をどうぞお楽しみに。ということで、今日はありがとうございました。
編集部より:読者からの指摘をうけ、一部誤字を改めました(2016年11月28日)
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よくわかる人工知能 最先端の人だけが知っているディープラーニングのひみつ |
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