このページの本文へ

人工知能は教育をどう変える? 徹底対談 第3回

品川女子学院 漆校長×人工知能プログラマー 清水亮

「先生、人工知能で未来の仕事はどう変わるんでしょう? 」人工知能と教育をめぐる5つの質問

2016年11月24日 09時00分更新

文● イトー / Tamotsu Ito

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

質問その2 AIが人間並みの表現力や知性を獲得したとして、一方の人間にもそれを見抜く能力が発達するということはあり得ますか?

男性 AIが人間の感動するツボとかをおさえて、すごく面白いというか売れる映画を作れるようになりそうだ、という話がありました。たとえば、食べ物に例えると、人工アミノ酸が入ったものを食べると、口がピリピリする人と、おいしいねっていう人がいます。同じような感じで、「この映画、AIの匂いがするよね」と嗅ぎ分けるような能力が、人間のほうが発達してくるのかどうなのか。AIは等しく人間を騙せるのか、そこらへんの感覚をお感じになってるところがあれば、教えていただきたいなと。

清水 たぶんさっき例に出したAIの「敵対学習」と同じなので、AIに文句をいう人間というのを、AIのシステムに組み込んでしまえばいいですね。まだちょっとAIくさいよと言う、監督みたいなプロデューサーみたいなやつを作る。人間が作った映画と、AIが作った映画を交互に見せて、そうすると必ず、映画を作る人間たちというのは、完全にAIのための肥やしみたいなものになり、無駄死にみたいな映画が量産されるわけですけ、原理的にはできてもおかしくないと思いますね。ただ同時にそういう(人工的な)映画が嫌いな人もいるとは思います。

質問その3 AIでさまざまなことができるようになるとしても、頭の訓練のために昔ながらの「勉強をする」ということの意義はなくならないのではないでしょうか?

男性 僕個人で振り返ると、仕事で微分積分使ったことはないんですけど、頭をよくする訓練として勉強してよかったなと思っています。だとすると、AIでなんでもできるようになるからといって、昔ながらの方法で勉強するのは、そんなに悪いことじゃないんじゃないでしょうか。

漆 私も悪いことじゃないと思います。見えない価値みたいなのって、いろんな勉強の中にあると思うんですよね。その場で、今役に立つか、立たないか、ということ以外の意味というか。私は古文の教員なので、よく生徒に何の役に立つのとか言われますけど、私自身一番今、役に立ってるのが、古典で学んだことでそれが心の支えになっています。数学も論理的な思考が身につくとかよく言われますよね。

 ただ、英数国理社など10教科の学力がすべてではなくなる社会がくるいうのも事実です。そういう前提を知りつつも、学校のいろんな教科もまんべんなくやってることは無駄にはならないと思いますね。

清水 僕も実は言い忘れてましたけど、今の5教科はまったく無駄じゃないと思うんですよ。ただ、時間配分が間違ってると思う。

 教養として知る、ということは素晴らしいことなんですけど、結局大学受験という1つのベンチマークがあって、大学受験をクリアするためにはこれだけ勉強させなきゃいけない、というのがあるじゃないですか。そのときに、ほとんど役に立たないことも勉強しなくちゃいけなくて、それを僕は我慢大会と呼んでるわけですけど。

 僕がよく言うのは、「才能というのは、それをやることがまったく苦にならないことだ」ということなんです。サッカーやることが苦にならない。プログラム勉強するのが苦にならない。数学やるのが苦にならない。それが才能だと思うので、別にそれは人それぞれ、何かしら、ゲームだろうが自分が夢中になれるものがあると思っていて。それを広げるときに、実は微積を知ってるといいよ、とかぐらいだと思う。

 たとえば僕、AIをやるまでテンソルという代数幾何の概念から逃げ続けていたんです。大学時代の仲間から、「清水、テンソル面白いからやったほうがいいよ」と言われて、テンソルの教科書見ても、何を書いてるか全然わからなかったし、わかりたくもない、って。これが何の役に立つんだと思って、全然やらなかったんですけど、人工知能を触り始めたらテンソルという言葉がいっぱい出てきます。

 それで、「これは一体何だ」と思って勉強したら、バカみたいに簡単な概念で、「こんな簡単なことを難しく説明しやがって! もっとわかりやすく説明することはいくらでもできるだろう」って思ったんですね。あとで役に立つことって結構あるんです。

漆 時間配分が大事というのは、確かにそうですね。今、本当に非認知能力、コンピテンシーのほうが大事なんだけど、まだ認知能力、リテラシーに時間かけている現実があります。それは9対1ぐらいに逆転させたほうがいいんじゃないか、という話も出ています。

 国の教育改革のほうでは大学入試も1点きざみのペーパーテストのみで選択するのはやめようという方向で動いてます。時間配分というのは確かにそうだと思います。

清水 ペーパーテストやめると、入試の採点がめちゃめちゃ大変になっちゃいますけどね。

漆 それが今、移行をどうするかと大問題になってるんですよ。

清水 今の受験システムは、20世紀にはとてもうまく働いたんだけど、21世紀にあの仕組みのままいくと、子どもたちが不幸になる可能性はあるなとはちょっと思ってますね。今から変わっても10年以内にそんな変わるほど早くはいかないでしょうけど、ぜひそこは頑張っていただきたい、漆先生に。品川女子学院は素晴らしい学校ですから。

漆 ありがとうございます。

カテゴリートップへ

この連載の記事

アスキー・ビジネスセレクション

ASCII.jp ビジネスヘッドライン

ピックアップ