カリフォルニア州クパティーノで開催されたAppleによるMacBook Proの新製品発表会に続いて、同じくカリフォルニア州のサンディエゴでは、11月2日からクリエイティブの祭典「Adobe MAX」が開催されました。
昨年の約7000人からさらに来場者は増え、1万人を超える人々が集まり、最新のAdobeソフトウェアと、そのユーザー同士の情報交換などが行なわれました。
1日目の基調講演では、Adobeが機械学習や人工知能について、クリエイティブ、マーケティング、ドキュメントの各クラウドサービスに導入する際のブランドとして「Adobe Sensei」が発表されました。「Sensei」は日本語の先生が語源だそうです。日本語、来てますね……。
2日目のステージでは、ファッションデザイナーZac Posen、写真家Lynsey Addario、アーティストJanet Echelman、そして映画監督Quentin Tarantinoが次々に登壇し、クリエイティビティの現場や情熱、本音を語りました。 Tarantino監督はかねてから語っている「10本引退」の意向をあらためて表明しました。
クリエイティビティについて、テクノロジーについて
Taranitino監督は、スマホでの映画視聴を「世界最悪の体験」と批評しました。そして過去の映画作品では、いかに見かけを美しく見せるかにこだわっていたとの指摘もありました。
デジタルがクリエイティビティを民主化した点は高く評価している一方で、その“品質”には疑問を呈しています。デジタルが使えなかった頃の手作りのクリエイティブに命をかける映画製作に想いを馳せる場面もありました。
この示唆はとても大切だと思いました。
確かにスマートフォンやそこで動くアプリを使うと、先人たちのクリエイティビティやテクニック、知恵をワンタップで利用できるようになります。そのことは、人々の生活を豊かにするし、研究やビジネスの面でも非常に有用なデータが作られるようになります。
だからと言ってプロのアーティストがいなくなるわけではないことも思い知らされます。
もしも過去のテクニックがインスタントに使えるようになっていたら、アーティストはその表現をさらに上回る方法にたどり着き、インスタントな人々に叩きつけてくるのです。
クリエイティブのテクノロジーによる民主化と、アーティストのクリエイティビティのせめぎ合い。これが、Adobe MAXで行なわれていることそのものだと思います。そして筆者は思うのです。「ああ、また凡庸な1年を過ごしてしまった」と。
毎年Adobe MAXを取材すると、最高に刺激的で創造力あふれる場に興奮する自分と、進歩や進化を見せるクリエイティビティとテクノロジーの陰で、「去年と変わらぬ自分」に落ち込むのです。
行かなければならない、しかし直視したくない。筆者にとって、Adobe MAXにはそんな複雑な想いの対象なのです。
Adobeが提供する未来の新機能
2日目の夕方は、ビールを飲みながら、Adobe社内で走っている新機能に関するプロジェクトを披露する「Sneak」を楽しみます。その後、後夜祭のようなBashで盛り上がりました。
Adobe MAXでは、将来リリースされたり、既存ソフトに機能として盛り込まれるアイディアをいち早く知ることができる場でもあります。初日には、「Project Felix」と「Project Nimbas」という2つの新ソフトウェアの紹介がありました。
前者はデザイナー向けの3Dグラフィックスツールで、形や素材などをライブラリから選ぶだけで、3Dと2Dの合成画像を作成することができるアプリ。もちろん、機械学習による背景画像を基にした光源の自動配置など、最も時間がかかる作業をワンタッチで実現する機能に、会場からは歓声が上がりました。
またProject Nimbasは、クラウドベースの非破壊フォトレタッチアプリで、ウェブやモバイルデバイスからでも、フル解像度の画像の非破壊編集を実現できる点がポイントとなりそうです。
またSneakでは、音声をテキスト認識させた上で、テキストを編集することで元の音声を編集することができる仕組みや、尺が足りない映像をスムーズにループさせる技術、油絵を再現してブラシのストロークを3Dデータで記録するアイディアなどが披露されました。
中でも1番驚いたのは、ポスターをデザインする際、四角の中に配置したい物の名前「人、犬」などを複数並べると、その構図の写真をAdobe Stockからみつけだしてくれる仕組みでした。写真に何が写っているかをタグ付けしてデータとして保持するところまでは理解していましたが、それがどんな配置かまで指定して見つけ出せるとは……。
こうした一連の機能は、前述のAdobe Senseiに属する機械学習を生かした機能です。ただし、Adobeは、単なる自動化を推し進めるのではなく、何かを作りたい人の支援に徹する、あるいは結果について、操作する人のアイディアや意図をもとに、変化させる幅をもたせている点が、特徴的であると思いました。
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