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Microsoft Tech Summit 2016基調講演(後編)

マイクロソフト、DevOpsやAI、FPGAクラウドなどを怒濤のアピール

2016年11月04日 07時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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Office 365やチャットボットでAIを積極的に導入

 澤氏の次に「AIの民主化」というテーマで講演したのは日本マイクロソフト 執行役員 最高技術責任者の榊原 彰氏だ。ここで言うAIの民主化とは、「AIのパワーをどんな人でも、安価に使いやすく」という環境を指す。榊原氏は、マイクロソフトのAIへの取り組みを「エージェント」「アプリケーション」「サービス」「インフラ」の4つの切り口で紹介する。

AIの民主化について語る日本マイクロソフト 執行役員 最高技術責任者 榊原 彰氏

 まず、エージェントにあたるCortanaだが、これまでに1億3300万人のユーザーが利用しており、120億の質問に回答してきた。「Cortanaは会話を通じて、みなさんの状況や生活、仕事の予定、内容などを理解してきた。だから、みなさんの予定を、みなさんよりも知っている」とのことで、ユーザーがなにを求めているのかコンテキストを学習し続けているという。

 アプリケーションであるOffice 365やDyanamics 365もユーザーとのインタラクションを通じて学習を続けている。Officeではユーザーが仕事でなにを必要としているかを先回りして予想してくれる。また、顧客管理を実現するDynamics 365ではSNSの情報まで含めて、顧客情報を取り込んでくれる。「Office 365には分析の機能があり、日々の仕事の内容をトラッキングし、どんなことに時間を費やしているのか、どんな人とコラボレーションしているのかを理解し、Microsoft Graphで分析している」(榊原氏)。プライバシーに配慮しつつも、Officeがユーザーの仕事をアシストしてくれる世界はすでに整っているという。

 さらにサービスに関しては、画像や音声、動画の解析・認識に対して長年投資を続け、その成果がCortanaやXbox、Skype Transrator、Cognitive Servicesなどに利用されている。特に重視しているのが、会話のインターフェイスとしての「ボット」だ。実際、SMBC(三井住友銀行)では顧客の問い合わせに自動的に応答するボットをマイクロソフトの技術を使って開発しており、ベテランの知見を顧客管理に活かすだけではなく、行内での問い合わせに対しても対応していくという。「あいまいな質問をされた場合でも、質問を繰り返すことで、利用者が本当になにを求めているのかの意図を読み解くことができる」(榊原氏)。そして、榊原氏の紹介でチャットボットについて紹介したのは、エバンジェリストの大森彩子氏だ。

チャットボットのデモを披露する日本マイクロソフト エバンジェリスト 大森彩子氏

 大森氏は、ネクストリーマンとブイキューブが開発した銀行店頭の受け付けボットを紹介。登場人物である頭取君と秘書子ちゃんに対して、「ATMの場所を教えてください」と尋ねると、フロア地図で地図を案内してくれる。頭取君と秘書子ちゃんが会話でやりとりしたり、間を持たせるためにヨサコイを踊るという芸当まで披露する。

 こうしたボットを実現するためにマイクロソフトが用意しているのが、「Bot Framework」。Visual Studioのテンプレートとして利用できるクラスライブラリで提供されており、気軽にチャットボットを開発できるという。大森氏は、Cognitive ServiceのEmotion APIで写真の表情を反映するチャットボットを開発する手順を紹介し、大森氏や榊原氏の写真の表情を判定するデモを披露した。

スーパーコンピューター化したAIを民主化する

 最後に榊原氏が説明したのがAIとインフラについての説明だ。榊原氏は、「CPUはクロックの向上やマルチコア・マルチスレッド化を推し進めてきたが、深層学習の膨大な計算処理を行なうにはCPUでは足りない。そこで、最近ではGPUで動かすフレームワークも増えている」と語る。AzureでもGPUの搭載は進めており、「スーパーコンピューターの民主化」を掲げるスタートアップのエクストリームデザインが採用しているという。「GPUをRDMA経由で使え、なおかつ従量課金で利用できるのはAzureだけ」(榊原氏)とのことで、大量データの全量解析などをサービスとして提供しているという。

 とはいえ、今後の計算量のニーズを考えると、GPUよりも柔軟性が高く、消費電力の低い選択肢も必要になる。そこで、マイクロソフトが9月のIgniteで発表したのが、FPGAのAzureへの導入だ。FPGA(Field Programmable Gate Array)はソフトウェアでロジックの組み込みが可能な半導体。ハードウェアでありながら、必要に応じて作り直すことができ、消費電力が抑えられるのもメリット。マイクロソフトは独自にFPGAをデザインし、Bing SearchにAzureのデータセンターに組み込み始めているという。

Azureの標準サーバーとFPGAサーバーで翻訳のスピードを調べた結果

 榊原氏は、Igniteのデモビデオを披露。ビデオでは、Cognitive Serviceで4000ページの本をロシア語から英語に2.5秒で翻訳するというデモに引き続き、500万の記事が30言語で展開されているWikipediaを翻訳。50のFPGAノードにより、50億にのぼる言葉を1/10秒で翻訳して見せ、未曾有のスケーラビリティと処理性能をアピールした。福祉に反しないという条件を課しつつ、「スーパーコンピューター化したAIを民主化する」(榊原氏)というのがマイクロソフトのAIインフラの方向性だ。

 そして、2時間におよぶ基調講演のトリを締めたのは、日本マイクロソフト代表取締役社長の平野拓也氏だ。平野氏は、これまで一部の国とユーザーのみに展開されていたマイクロソフトのMR(Mixed Reality)デバイス「HoloLens」が、年内にも日本で提供されることを壇上で発表。「待ちに待ったHoloLensの提供が日本でも始まります。MRの世界をみなさまとともに拡げていきたい」と述べた平野氏は、Tech Summitで新しいテクノロジーの使い方を考えて欲しいと聴衆にアピール。最後、「Tech Summitへようこそ!」という一言で講演を締めた。

国内投入が決まったHoloLensを聴衆に対して掲げる日本マイクロソフト 代表取締役社長の平野拓也氏

 「セキュリティ」「管理」「イノベーション」の3つのキーワードを掲げたTech Summit 2016の基調講演で見えたのは、エンタープライズでの安心感、洗練された可視化、長らく培ってきた研究開発など、マイクロソフトが再発見した自らの強みだ。未来のテクノロジーを次々と具現化していく先進性と、長らく日本のIT業界を支えてきた安心感が、聴衆に浸透するのが見えた2時間だった。

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