GMや大手製薬会社との提携発表、「IBM World of Watson 2016」レポート
IBMロメッティ会長「Watsonは人間の仕事や創造性を奪わない」
2016年10月28日 07時00分更新
IBMが10月24日~27日の日程で開催している「IBM World of Watson 2016(IBM WoW)」。26日のキーノートセッションには、IBMの会長で社長兼CEOを務めるジニー ロメッティ(Ginni Rometty)氏が登壇。米ゼネラル・モーターズ(GM:General Motors)や、イスラエルの製薬会社であるテバ・ファーマシューティカル・インダストリーズ(Teva Pharmaceutical Industries)との提携を発表した。
すでに10億人が接しているWatsonは「人間の仕事や創造性を奪わない」
冒頭、ロメッティ氏はコグニティブ・コンピューティング市場の堅調な伸びを強調した。
「現在のコグニティブ・コンピューティングの市場規模は320億ドルだが、2025年までには(30倍強の)1兆ドルに達すると予測されている。すでに医療分野では、Watsonの病理解析支援が2億人の患者に対して利用されており、(Watsonを組み込んだ)プラットフォームと接している人口は10億人に上る」(ロメッティ氏)
キーノートの中でロメッティ氏は、Watsonを指して「拡張知識・拡張知能」という言葉を何度も口にした。その背景には「Watsonは『人間の知的活動や意志決定を支援する存在』であり、人間の労働や創造性を奪うものではない」というメッセージが込められている。
IBMでは今年9月、人工知能の普及とベストプラクティスを共有する非営利団体「Partnership on AI」を、Amazon.com、Facebook、Google、Microsoftと共同で立ち上げた。設立の目的は「AIの倫理や公平性、プライバシー、透明性などを共同で研究し、その成果を公表する」ことだ。
「新技術のインパクトは大きく、倫理やプライバシー、雇用などに対する懸念はある。(同団体の活動を通じて)こうした懸念を払拭する。AIは、懸念すべき点よりも(活用で得られる)メリットのほうが大きいはずだ」(ロメッティ氏)
「コーヒー飲みたい」の一言で、コーヒーショップにご案内――GMのOnStar Go
もう1つロメッティ氏が強調したのは、エコシステムの重要性だ。「WatsonはIBMだけのものではない」(同氏)の言葉どおり、利用用途によって、重機の故障予兆やビルメンテナンス、慢性疾患患者の健康管理、ヒトゲノム解析など、あらゆる分野で利用されている。
こうしたエコシステムの象徴として同社は、GMとの提携を発表した。GMの車載情報システムである「OnStar」にWatsonを組み込み、「OnStar Go」として提供する。キャデラック、シボレーなど27のモデルに搭載し、出荷は2017年中を予定しているという。
「OnStar Go」は、ユーザーの嗜好性やニーズに基づいて、目的地までのナビゲーションや走行付近の情報を提供する。例えば、ガソリンの量が少ないと認識するとドライバーにアラートを出し、付近のガソリンスタンドまでのルートを案内したり、カレンダーアプリと連携し、予定のリマインドをしたりするといった具合だ。
また、従来の「OnStar」と同様に、ニュースやエンターテインメント情報、ショップ案内など、パートナー企業の情報も提供する。OnStar Goではこうした情報も、ユーザーの嗜好性や過去の利用履歴など基づいて提供されるという。
ゲスト登壇した米GM CEOのマリー バーラ(Mary Barra)氏は、OnStar Goの搭載で実現するサービスの姿を語り、そのメリットを訴求した。
「OnStar Goでは、例えば『コーヒーが飲みたい』と言っただけで(Watsonが)コーヒーショップを検索し、コーヒーショップまでの道を案内してくれるだけでなく、車内から注文と決済を済ませるといった使い方もできる。OnStarのプラットフォームはGMで開発しており、Watsonを組み込むことで、ドライバーに快適な時間を提供できると確信している」(バーラ氏)
なお、OnStar Goの早期パートナーには、米エクソンモービル(ExxonMobil)、位置情報共有サービスの米Glympse、オンラインラジオの米iHeartRadio、クレジットカード大手の米Mastercard、パーキング情報サービスの英Parkopediaが名乗りを上げている。