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脊髄反射で足が動く!奇跡の車いすCOGY

無力感を打破する「あきらめない」社会を目指す仙台発ベンチャー

連載
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 2020年、日本で歩行困難になる人は、約300万人になると予測されている。

 実際に一度歩行が困難になってしまうと、自分の足はどうせ動かないと諦めてしまうが、その流れに抗して社会課題を解決しようと取り組む”車いすベンチャー”がある。

 仙台のベンチャー企業、株式会社TESSが製造販売しているのは、「COGY(コギー)」というベダル付きの車いすだ。「歩行困難だから車いすに乗るのに、足でこぐというのは矛盾しているのでは?」とツッコミたくなるが、ただ足でこげる点がスゴイわけではない。このCOGYを使ってリハビリをした人の中には、寝たきり状態だったのが自分の足で立って歩けるようにまで回復した人もいるという、スゴイ車いすだ。

 いったい、どんな秘密でそんな魔法のようなことが起きているのだろうか。TESS代表取締役の鈴木堅之氏に聞いてみた。

株式会社TESSの鈴木堅之代表取締役

カラクリは、人の本能を利用した脊髄反射

 COGYは、障害のために自分の意思で自由に車いすを動かせないユーザーであっても、自分の足でこいで自由に移動ができるという画期的なアイテムだ。

●COGY仕様
利き手:左手推奨
重量:14.8kg(M)、17.3kg(L)
全体サイズ:全長1155mm×全幅627mm×全高881mm(M)、全長1346mm×全幅635mm×全高940mm(L)
タイヤサイズ:前輪16インチ 後輪8インチ(M)、前輪20インチ 後輪10インチ(L)
ブレーキ: 前輪:パーキングブレーキ 後輪:ドラムブレーキ
耐荷重:100kgまで(M)、136kgまで(L)
参考対応身長:145cm~180cm(M)、180cm以上(L)

 人は歩行を無意識に行っているが、じつは歩くことができない生後間もない赤ん坊も、上半身と股を支えて立ち上がらせると左右交互に足を動かす。これは人間が生まれつきに備えている"原始反射"のひとつで"原始歩行"という本能だ。COGYの仕組みはここにある。

 「人間は本能的に、右足が床に付くと左足、左足が床に付くと右足という反射的な指令が、脳を介さずに直接脊髄の『原始的歩行中枢』から出ていると考えられている。片方の足がわずかでも動けば、反射的な指令によって、もう片方の麻痺した足でも動く。COGYに乗るとわかるが、じつはものすごく狭くて窮屈。これが脊髄反射を出すために一番いい姿勢で、たまたま車いすの形を取っているが、実際は脊髄反射を出すための装置」だと鈴木氏は説明をする。

 片足がなくとも義足を付けて練習すれば動かせるし、頚椎の上から3番目以下の損傷であれば、この原始反射が出てCOGYを動かせる可能性が高いという。

 しかもそれだけではとどまらない。

 「脳を介さずに脊髄反射で足を動かしているが、その動かしている感覚が脳にフィードバックされ、やがて脳で筋肉をコントロールできるようになる。感覚神経の情報が、脳や脊髄の中枢神経回路をうまく調整している。これは『ニューロモジュレーション』と呼ばれている。COGYの場合、研究より先にこの現象が先に起きて原因が突き止められていなかったが、やっと最近、大学の研究で理論が追いついてきた」(鈴木氏)

 要介護度5で寝たきりの80代の女性のケースでは、自分では食事もトイレもできなかったが、毎日15分間COGYに乗って旦那さんと一緒に近所に買い物に行っていたら、1年半で自ら立ち上がって、マンションの5階まで杖もなく歩けるようになったと鈴木氏は例をあげた。

 COGYはこれまで6000台近く販売されているが、利用者からの反響では、「間違いなく元気になった」(鈴木氏)という声がほとんどだという。

問題は、長くなっている健康寿命と平均寿命の差

 元気になれる車いすであるCOGYは、何の解決を目指すのか。

 現在、世界中で自立できず歩けないという人は増え続けている。先進国では生活習慣病、なかでも糖尿病では膝や腰の痛みがあり、悪化して足が壊死して歩けなくなってしまう。この場合、家に引きこもり、世間から隔離されてしまうケースも多い。

 病気などで倒れた当初は、本人もがんばるし家族もサポートするが、そのあと両者とも諦めてしまう場合もある。そして亡くなる寸前に「もっとがんばればよかった」、家族も「もっとサポートしてあげればよかった」と後悔するケースもあるという。

 これは、とてももったいないことだと鈴木氏は語る。

 「今の日本では、”平均寿命”と、元気でいられる”健康寿命”の間の期間が平均で10年から13年間ある。この間隔は、すなわち病気や障害を負っている期間。もしCOGYが一般的になれば、最後まで楽しく過ごすサポートをできるのではないか」(鈴木氏)

 鈴木氏がTESSを設立したのは2008年11月。創業から年数も経過しているが、認知度を高めるため、2年ほど前からCOGYを持っていろいろなベンチャー関連のコンテストやピッチ、イベントに出るようになった。各種の賞を受賞して近年では知っている人も増えてきたが、「それでも足りない」と感じるという。

 「最近の世の中はがんばっている人たちに対して冷たい。『そんなになるまで、何をがんばっているの?』という風潮。もっと、諦めない人というのはカッコいいという流れを作りたい」

 COGYは技術も確立され、医学的な根拠もできたが、社会の変化が足りない。そこに、COGYが普及するブレークスルーがあると鈴木氏は感じている。

 「健康寿命と平均寿命の差が長くなっている以上、歩行困難になることについては、健常者と障害者の差はない。これからの高齢者はもっとアクティブにいろいろな可能性にチャレンジしたいはずだが、高齢になると危険だからと自動車免許も取り上げて、電動車いすも追突したり充電が切れたら危ないという理由で取り上げられ、仕方なく家に引きこもってしまうケースを見てきた。人とコミュニケーションを取る機会がなくなり刺激が減ると、次には認知症へと進んでしまう。だからこそ、今のうちにがんばったり諦めないのはカッコいいというプロモーションをしたいと思っている」

カラーバリエーションは黄と赤の2パターン。価格違いでMとLサイズがある

 普及を進めるCOGYは、介護保険も適用されており、利用料はレンタルで月1500円の自己負担、購入の場合はMサイズで32万9000円(税抜き)からとなっている。一般的な車いすと比べると、購入は高いが介護保険レンタルではそう変わらない費用感だ。現在、月産100台の生産を行い、普及をはかっている段階だが、広がりという点では、海外の方が普及に向けた動きは早い。

 アメリカでは、FDAという医療機器認証があり3クラスに分けられているが、COGYもまもなく全米で保険が使えるところまできている。退役軍人や傷病兵が多いため、COGYを使いたい声は高いが、保険が使えないと厳しく、FDA認可が下りてからが本格化となる。

 また、ドイツでは介護用品や福祉用具は個人で買うのではなく給付されるものだが、先日COGYがその給付品目の中に入ることになり、展示会へ出展予定だ。デンマークの首都コペンハーゲンでも給付品目に採用されて、デンマーク全域に広がりそうだ。ベトナムでは世界で初めて足でこぐ車椅子療法という医療行為になった。

 日本でも認知度を上げるために、プロモーションにお金を掛けて派手なやり方を取ればもっと注目を浴びることはできるだろう。だが、望むところが違うという。

 「出資者には申し訳ないが、『COGY』はビジネスとしてだけでなく、目指すところとして子供に乗ってほしいと考えている。どの国も少子化傾向なので、子供向けはビジネスにならないが、会社設立メンバーの目指すところはそもそも子供がターゲット」

 ここには、現場に携わっていた鈴木氏自身が変えたかった問題があった。

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