話題のWindows Updateも完全制御
手書き入力やWindows用3DゲームをサポートしたParallels Desktop 12 for Mac
2016年08月23日 18時00分更新
パラレルズは8月23日、ホスト型仮想化アプリの新バージョン「Parallels Desktop 12 for Mac」をリリースした。発表会には、パラレルズ(株)で代表取締役を務める下村慶一氏と米パラレルズ社でシニアプロダクトマネージャーを務めるカート・シュマッカー氏が登壇した。
発売10周年の節目となるバージョン
新バージョンの主な新機能は、macOS SierraやWindows 10 Anniversary Updateへの対応、Windows用ゲームへの最適化、Xbox用ゲームのリモートプレイ、「Parallels Toolbox for Mac」の搭載――など。
製品には、通常版とプロ版(Pro Edition)、ビジネス版(Business Edition)が用意されており、プロ版はアプリ開発者向け、ビジネス版は数十台以上のParallels Desktopの一元管理を必要とする企業向けとなる。
対応するOSは、OS X Yosemite 10.10.5以降で、今秋にリリース予定のmacOS 10.12 Sierraもサポートする。macOS Sierra対応については、同OSの新機能である「Optimized Storage」 に対応しており、仮想マシンが使用するストレージ領域を直接コントロール可能になっている。
価格は通常版は8500円だが、他社製の仮想化アプリやBoot Campからの乗り換え版は4000本限定で6480円。そのほか3年間のサブスクリプション版は2万400円。プロ版とビジネス版もサブスクリプションとなっており、いずれも年額1万800円。サブスクリプション版は、その期間内であれば常に最新のParallels Desktopを利用する権利を有する。
下村氏は、Parallels DesktopはアップルがインテルCPUを搭載したMacをリリースした2006年に最初のバージョンが登場し、今回のバージョン12はちょうど10年目の節目であることを紹介した。
パラレルズは最近、企業ユーザーの獲得にも力を入れており、iPadからMac上のParallelsを操作可能にする「Parallels Remote」、アプリケーションサーバーの「Parallels Remote Application Server」、Parallelsが稼働するMacをSCCM(System Center Configuration Manager)で管理可能にする「Parallels Mac Management for Microsoft SCCM」などのアプリやサービスを提供していることにも触れた。
Windows 10 Anniversary Updateに早くも対応
Windows 10 Anniversary Update対応の目玉は、Surfaceなどの2 in 1やタブレットなどのタッチパネル搭載端末で利用可能なWindows Inkを利用できる点。iPadとの併用で実現する機能で、PowerPointなどInk対応のアプリのファイルに手書きの文字などを書き込める。具体的には、iPadをペンタブレットとしてMacで扱えるようになる「Astropad」(価格3600円)を併用することで実現している。
Windows版の最新のPowerPointには、Windows Inkモードが用意されており、このモードに切り替えてiPad上でペンを動かすと、PowerPoint書類に赤入れなどができる。
Windows版Wordでは、iPad上で書いた数式がそのままテキストデータとして認識され、文書に挿入される。
Windows関連としてはそのほか、Windows UpdateのスケジュールをParallels上で設定する機能もある。「Windowsで作業したいからParallelsを起動したのに、アップデートが自動で始まってイライラする」という、仮想化アプリあるあるを回避できる機能だ。Parallels上で事前に設定を済ませておけば、深夜や週末の午前2時などと時間を決めてWindows Updateを実行できる。なお、Parallels上で設定した内容はWindows側のWindows Update設定に書き込まれる(上書きされる)。
Windows用アプリの振る舞いを素早く変更することもできる。具体的には、MacのFinder上でWindowsアプリを直接使えるコヒーレンスモード時に、ほかのアプリを自動的に隠す設定などが可能だ。Mac側のDockにWindowsアプリのアイコンを表示する設定にしておけば、そこから「アプリケーション設定」→「常に他を非表示」を選べばいい。
そのほか、Microsoft EdgeやInternet Explorerなどで入力したパスワードやIDを、Macの「キーチェーンアクセス」アプリで一元管理することも可能だ。
バージョン11からサポートしている、Windows 10の音声アシスタントの「コルタナ」をもちろん利用可能だ。一方、macOS Sierraに搭載される音声アシスタントの「Siri」については、アップルがmacOS向けの「SiriKit」を公開していないため、現状ではSIriからParallelsにコマンドを送ることはできないとのこと。
Window/Xbox用ゲームの最適化も実現
Windowsゲームの最適化については、ブリザード・エンターテインメント社のFPSである「Overwatch」をサポートした。このゲームの最小システム構成(30fpsプレイ可能)は、Core i3以上、メモリー4GB以上、ビデオメモリー768MB以上、GPUはGeForce GTX 460/Radeon HD 4850/Intel HD Graphics 4400以上となっているが、これを仮想マシン上で同様のパフォーマンスが出せるようにチューニングしている。シュマッカー氏によると、「ユーザーから『Overwatch』をParallelsをプレーしようとすると、キャラクターの頭髪などが描画されないという指摘があり、両社の開発スタッフをお互いの会社に派遣してアプリの設定変更やプログラムの修正を施した」そうだ。発表会中のデモでも仮想マシン上とは思えない高画質でキャラクターがキビキビ動いていた。
ちなみに、Parallels上でゲームなどを動かす場合、仮想マシン用にビデオメモリーを多めに確保したほうがパフォーマンスが向上すると思われがちだが、容量を増やすと逆に遅くなるケースもあるとのこと。CPUコア数に関しても同様で、基本的にはデフォルト設定の状態が最もパフォーマンスを出せるそうだ。
ゲーム関連としてはそのほかに、マイクロソフト社のゲームコンソールである「Xbox」のリモートプレイを可能にする「Xboxアプリ」をサポート。Xbox本体が必要だが、Parallels上のWindowsでXboxのゲームタイトルを楽しめる。Xboxアプリでは、Xboxからゲーム画面をストリーミング配信してWindows上でプレイ可能にしているが、Parallels上でも快適に動くように主にネットワーク回りのチューニングを施したという。
かゆいところに手が届くツール群が充実
Parallels Toolbox for Macは、使用頻度が高いと考えられる操作を素早く実行できるツール群。Parallels Desktopとは別のアプリとして提供され、Parallels Desktopの設定画面から別途インストールすることで利用可能になる。具体的には、ファイルのアーカイブ、画面の動画撮影、スクリーンショット撮影、タイマーなどの時計機能、映像形式のコンバート、動画共有サイトからの動画のダウンロードなどが可能だ。Parallels Desktop上のWindowsなどからはもちろん、Mac側のアプリとも連携して使える。
そのほか、仮想マシン用のファイルは数GBの容量がありバックアップに時間がかかりすぎるため、macOS(OS X)標準のバックアップ機能「Time Machine」では使いづらかったが、本製品にはアクロニス社のバックアップツール「Acronis Ture Image」と500GBのクラウドストレージの1年間の使用権が付属しており、仮想マシン用ファイルの差分バックアップが可能になる。
古くからのMacユーザーなら、発表会に合わせて来日していたシュマッカー氏は懐かしい顔だろう。同氏は元はコネクティクス社でVirtual PCの開発を担当していた人物。Virtual PCは、PowerPCを搭載するMac上でインテルプロセッサー搭載マシンのエミュレーションを実現する製品だった。PowerPCとインテルプロセッサー(x86)はバイトオーダーが異なるなどエミュレーションには高い技術力が必要で、今となってはかなりトリッキーな製品だったといえる。同氏はその後、コネクティクスを吸収したマイクロソフトに移り、仮想化関連のプロダクトやサービスに従事。そして現在は、パラレルズのシニアプロダクトマネージャーの職に就いている。
Mac用の仮想化アプリとしては、ヴイエムウェア社の「VMware Fusion」やオープンソースの「VirtualBox」などがあるが、コンシューマー向けの機能の充実さや、macOSやWinidowsの新機能の導入の速さなどは、Paralllelsが頭ひとつ抜けている感がある。