7月17日、鹿児島の桜島で開催されたさくらじまハウスの2つ目のセッションは、「IoTがやって来る!ヤァ!ヤァ!ヤァ!」というオールドスタイルなタイトルを冠したIoTの座談会。IoT業界をリードするソラコム、さくらインターネット、AWSの3者がIoTの定義やエンジニアに必要なマインドセットなどを語り尽くした。
IoT分野での3人のリーダーが語る「IoTってなに?」
プロレスラーの入場よろしく、甲高いアナウンスで登壇したセッション。前回に引き続き、さくらインターネットの法林浩之さんがモデレータを務め、話の長めな3人を仕切る。
冒頭は自己紹介とそもそもIoTってなに?というお題。ソラコム プリンシパルソフトウェアエンジニアの片山 暁雄さんは、さくらじまハウスに先立って行なわれた「SORACOM Conference 2016 “Discovery”」では1000人を超える来場があり、関心が高まっているとアピール。こうしたIoTの文脈で、ソラコムはおもに通信の領域をになっており、IoTの新しいビジネスの実現に寄与できると説明した。そして、IoTについては「今までとれなかったデータがどこでも簡単に採れるようになり、新しい価値を生み出す、テクニカルな面とビジネスの面を総称したもの。単純にモノがインターネットにつながるだけではなく、その先に生み出される価値が重要」と定義する。
さくらインターネット フェローの小笠原治さんは、DMM.makeやABBALabでのハードウェア開発の経験を踏まえ、「いかにハードウェアの人がインターネットを嫌いかわかった(笑)。だから、さくらインターネットに戻って、ハードウェアに寄っていくことをチャレンジしている」と自己紹介。そして、「僕は『モノのインターネット』という言い方が大嫌い。モノがつながるだけでなにか起こるなんてありえない」と語り、インターネット、デバイス、モノゴトのレイヤーで構成された独自のIoT観を披露。「手段や処理方法はなんでもいいと思っている。さくらとしては通信モジュールまでばらまきながら、データをわれわれに預けてもらっている。ソラコムも使えるし、AWS IoTも使えるという得意の全方位外交をやっている」(小笠原さん)とアピールする。
アマゾン ウェブ サービス ジャパン マーケティング本部 本部長の小島英揮さんは、Amazon Data Services Japanの最初の社員として入った頃のエピソードを披露しつつ、IoTの定義について「クラウドの新しいユースケースだと思っている」と説明。ボタンを押すだけで日常品が購入できるAmazon Dashボタンを会場に見せつつ、「奥様が洗剤がないと気がつくのは、PCの前じゃなく洗濯機の前。だから、洗濯機の前にこのボタンを貼っておき、ボタンを押せば自動的にカートに入るという便利な世界を作れる」とユースケースを披露した。
今は役割分担しているけど、5年後は垂直統合でバチバチ?
同じIoTの関わり方でも、ソラコム、さくらインターネット、AWSの3者はそれぞれカバー範囲が異なる。AWSはインターネットの部分はほぼカバー。「昔はEC2で全部やらなければならなかったけど、最近はLambdaやAWS IoTがでてきたので、IoTの受け側を作るのはだいぶ簡単になってきた。ただ、デバイスはまだ弱い」と小島さんは説明する。
一方、「SORACOM Air」という従量課金型のSIMサービスを持つソラコムは、デバイスとインターネットをつなぐ入り口部分を提供する。そして、さくらインターネットはデバイスの中に組み込める通信モジュールや閉域網を提供し、ソラコムと同じつなぐ役割を持っている。小島さんは「パーツとしては揃っているけど、1社で垂直統合的にやっているところはあまりない印象がある」と語ると、小笠原さんは「5年後くらいには、3社とも垂直統合になってバチバチやってそうな気がする」と火に油を注ぐ。そして、「5年前は牧歌的な時代だったと、Facebookでこのイベントが出るかも知れない(笑)」とはモデレーター法林さんがかぶせる。
続いて「IoTはなにが新しいのか?」という質問を振ると、小笠原さんは「新しくないですよね」と一刀両断。「M2Mのような言葉はあったし、そもそも人が使うインターネットは有限だって誰しもわかっていたはず。だったら、次につなぐのはモノに決まっているし、10年前からわかっていたこと。ただ、サイクルはあって、SNSやクラウドもそうだけど、IoTも今が当たり時なんだと思う」(小笠原さん)。
これに対して、片山さんは「IoT自体は以前からあったけど、やれるスピードが圧倒的に速くなった。センサーで温度を収集するなんて、昔はサーバー買ってきたり、通信やデバイスをどうするか考えなければならなかった。でも、ラズパイにSORACOMでつなげばクラウドはすぐに使える」と語る。
小島さんは環境が整ってきたことで、多くのユーザーの関心に登るようになり、手軽に失敗しやすくなった点も大きいと指摘。「概念はあったし、できていたんだろうけど、見える人がぐっと拡がったのかなと。当たり時という点では、クラウドが出た時のインパクトとすごい似てるなと思う」と語る。これを受けて小笠原さんは、「失敗コストが低いことはすごい重要。量からしか質は生まれないので、絶対いっぱい失敗すべき」と指摘する。
IoTに向いている人は「ロボット出身の人」?
では、IoTで必要とされるスキルセットはなにか? 片山さんは「テクニカルなところでは、クラウド、通信、デバイスの知識があったにこしたことはない。ただ、1人でやるには限界があるので、自分の強みを活かしながら、話ができる程度の知識は必要」と指摘する。
小笠原さんはスキルというより、むしろマインド面が重要と指摘。「ほかの領域のスキルを持っている人に対する敬意や巻き込み力が重要。自分だけで無理なことをわかっているのに、自分の技術だけを前にしていくと、まあうまくいかないチーム構成になる」(小笠原さん)。
小島さんもスキルより、好奇心が大事と指摘する。「昨日、さくらの田中社長に『かます理論』を教えてもらった。水槽の中でガラスの仕切を設け、かますがそこに当たるという経験をしてしまうと、仕切を抜いても渡って来ないらしい。人間もけっこう自分で壁を作ってしまう」という話を披露した。この壁をブレイクするには予見のない新しいかますを入れることだが、新しい技術を学びたいという好奇心があれば、壁は打破できる。その点、勉強会が多いことは大きなメリットで、失敗談を共有する点が大きいという。
壁を打破できる人、好奇心が高い人、総合的な知識を持っているIoT向けのエンジニアとして、小笠原さんは「その点、もともとロボットやっている人」を挙げる。さくらインターネット社長の田中邦裕さんも、新しい執行役員になった江草陽太さんもロボット出身で、IoTにはすぐなじめたという。
本格的なIoT時代はおもいのほか早く到来する
IoTは5年後どうなるのか? クラウドの勃興期とIoTの現状が似ていると指摘する小島さんは、「当時、クラウドに対して耳をふさいでいた人は、今もふさいでいる。そう考えると、今見るか、見ないかの差が5年後にすごく出ている気がする。だから、まずは触ったほうがいい」と語る。一方、「もう少しおじいちゃんなんで」と語る小笠原さんは、20年前のインターネット業界と似ていると指摘。「DMMとかって18年前に動画配信始めたけど、当時はあほだと思われていた。でも、とにかくチャレンジする時期だったんです。やっていくか、やっていかないの差が、大きな差を生むと思いますよ」と小笠原さんは語る。
しかも、インターネットで20年かかったことがクラウドでは5年になり、そのペースは加速している。つまり、IoTの世界観はもっと身近に来るという肌感覚だ。「ソラコムさんなんてそれわかっているから、あんなに急いで世界展開していますよね」と小笠原さんが振ると、片山さんは「われわれが考える世界観って、すごい早い段階で来ると思っている。デバイスがどんどん小さくなり、低コストになれば、クラウド、通信、デバイスがすべて揃う。大きなビジネスが見えてくると思います」と応じる。
さくらインターネットとしても、ソラコムのスピード感には大きな期待があるようだ。「プラットフォームの分野でこのスピードで世界展開を進めた日本企業は、この20年間でソラコム以外なかったと思います」と小笠原さんが語ると、小島さんは「ソラコムは技術的にも素晴らしいけど、時間という経営資源の使い方がうまい」とエールを送る。
もちろん、IoT時代のスピードを実現するためには結局「組織論」に行き着く。その点、ソラコムは「かます理論と近いが、失敗してもいやみを言わない」、さくらは「7月からチーム制になった」、AWSは「2枚のピザでまかなえるくらいの少人数で動かす(Two Pizza Rule)」などの体制や制度があるとのこと。少人数でスピーディに回すというのは、今後必要なIoT組織の鉄板なのかもしれない。
後半は質問タイムを経て、セッションは終了。最後に小島さんが「IoTやってみたくなった人!」と問いかけると、会場からは多くの手が挙がった。