女性の活躍は、もはやCSRの観点で話すことではない
今回のイベントを主催した日本IBMは、女性の活用では先進的であることで知られる。
米IBMコーポレーションのジニー・ロメッティ会長兼社長兼CEOは、「日本IBMは、1960年代から大卒女性を採用。日本で男女雇用機会均等法が開始される20年前から、女性が働く場があった。現在、女性幹部の比率は、日本全国平均の7倍に達している。企業内ダイバーシティのペースセッターの役割を果たしてきた」と胸を張る。
日本IBMに先駆けて、米IBMではさらに早い段階から女性の雇用に向けて積極的な取り組みを行なってきた経緯がある。
「米IBMでは、1934年には、同じ職であれば、男女変わりなく同じ給与を支払っており、女性の市民権運動が開始される11年前には平等権利を訴えていた」とし、「IBMは、ビジネスの優先課題のひとつとして、女性の活躍を推進している。調査によれば、女性比率が高い企業は、利益、売り上げも伸び、イノベーションが推進されるという結果が出ている」と続ける。
女性の活用が、企業にとってプラスになることを、IBMは実践しつづけてきたといえるだろう。
日本IBMのポール・与那嶺社長も、「女性の活躍は、もはやCSRの観点から行なうものではない。日本の企業にとって、グローバルで戦う上で重要なものとなっている」と語る。
そうした環境を作るために、日本IBMではいくつかの取り組みを行なっている。
例えば、日本IBMでは、2011年に企業内保育所をいち早く開設。さらには、在宅勤務制度の導入にも前向きに取り組み、育児や家事をしやすい仕組みを提供したり、女性向けの幹部候補トレーニングを実施するなど、女性が働きやすい環境や成長できる環境を実現してきた。
同イベントに参加した経済同友会の副代表幹事などの歴任経験があるG&S Global Advisorsの橘・フクシマ・咲江社長は、「いまの男性主流の長時間労働の企業環境では、女性が働きにくい。もっと生産性の高い働き方をすべき。さらに、育児や介護などを行なう社員が、時間と場所に縛られない働き方ができるようになることが大切。ここに日本の企業における女性活用の問題がある」と指摘する。
日本IBMでは、こうした課題解決にもいち早く取り組むことで、女性が働きやすい環境を維持してきたというわけだ。
米IBMのロメッティCEOは、「女性をやめさせてしまうことは損失である。女性が働き続ける環境を維持することで、価値をもたらすことができる」とし、「女性が子供を産むと6割が退職してしまうというが、日本IBMでは、若い女性の6割が子供を持っている社員」と驚くべきデータも提示してみせた。
そして、女性が働きやすい環境を作るもうひとつのポイントが、ロールモデルとなる存在がいることだ。
「日本IBMでは、内永ゆか子さんが初の女性研究所長に就任したり、役員を歴任後に日本IBMを退社したものの、企業経営者として活躍している。また、浅川智恵子さんは、IBMフェローとなり、有名な科学者のひとりとなっている。こうした方々が、ロールモデルとなっていることが、IBMの強みである」とする。
女性にとって目指すべき姿や活躍できる場が、先達によって、具体的な形で示されるということは、働く上で大きな励みになるのは確かだ。
だが、ロメッティCEO自らも悩んだことがあったという。
「私自身、大きな昇格を打診された時に即答できずに、自宅に戻って考えたことがあった」と振り返る。
「いまの家庭のことを考えると、1、2年後であれば自信をもって仕事を受けられるという考えを夫に話すと、君が男性ならばそう思うのかという答えが返ってきた。これは母親からもらったアドバイスと同じ。自分のことは自分で決める。ほかの人に決めさせてはいけない。意思を固めて、翌日、昇格を受けることにした」と語る。
女性として、家庭を優先しなくてはならないという決断が求められることもあるだろう。だが、女性が働く上で、パートナーの理解を得られれば、家庭は決して昇格の障害にはならないということを示しみせた。
この話を聞いた安倍昭恵氏は、「女性が社会のなかで活躍するためにはいいパートナーに巡り会うことが大切。ジニー(=IBMのロメッティ会長)の場合も、すばらしい主人が支えてくれている」と語る。
ロメッティCEOは、「昇格することに対しては、課題は多いが、チャンスもある。素晴らしいチャンスは生かすべきである」と語り、「自らが成長する際には、快適感はなじまない。進歩したいのであれば、リスクを取るべきであり、リスクに晒された時にこそ進歩する。ナーバスになったり、緊張したりすることはいいこと。そういうことから逃げずに、果敢に挑戦してほしい」と、会場の女性に、厳しさと優しさがまじった言葉を投げかけた。
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