国境を超えるような活用例
NTTデータの3D地図は「標準製品」と「利用用途向け製品」という2種類のラインアップで提供される。前者は、数値標高モデルおよびオルソ画像によるリアルな3D地図だ。一方、利用用途向けには、地図上から植生・建物を除去した「地面高さデータ(DTM)」や、都市計画にも利用できる「高精細版」を用意する。
「高精細版」は、米Digital Globe社の高分解衛星群を利用し、5m解像度をさらに凌ぐ「50cm解像度」を実現したもの。もはや住宅に設置されたパラボラアンテナさえ判別できるほどの解像度である。
2014年の提供開始からすでに、新興国を中心に60カ国以上で利用されている(2016年4月現在)。アジア・オセアニア、南米、アフリカの順に需要が高く、防災、地図、資源、電力、水資源、インフラ整備などの用途が多いという。
特に、国境を超えるような広範囲の利用に効果を発揮する。国をまたがるような広域災害などでは、航空機を飛ばしたくても、領空問題が立ちふさがり、そもそも飛ばせないことがあるからだ。
いくつか具体例を挙げると、ベトナムでは山岳域の国道沿いにおける土砂崩れの危険性を評価。地形から1000以上の危険箇所が特定された。また、地震多発国のミャンマーでは広域活断層調査に利用し、今まで見つかっていなかった新しい活断層を発見。インドネシアのスメル火山では、地形から火砕流シミュレーションにより、その流下範囲・時刻の予測が可能となった。いずれも従来の調査方法ではとてもコストが見合わず実現できなかった事例だ。
意外なところでは、疫病対策にも活用された。ナイジェリア、パキスタン、アフガニスタンが常在国とされるポリオウイルスの感染ルートを明らかにするため、下水流路の調査が行なわれた。その結果、今まで考えられていたよりも面積にして5倍の範囲に下水が流れ込むことが分かり、感染リスクはより高いことが判明。この解析結果を基に、WHOが現地の下水採取地点を選定するのにも役立ったという。
新興国では3D地図の整備は進んでおらず、「今まで自国の地形を詳しく知らなかった国も多い」(同氏)。さまざまな問題に直面しながらも為す術のなかった国で、宇宙からの目によって解決の糸口が掴める。そのインパクトは計り知れない。
「地形は多くを語る」
資源分野での活用も面白い。
資源鉱山を開発する豪Geoimage社は、世界各地で資源候補地を見つけるために、この3D地図を活用。アンデス山脈のような急峻な高地では調査が困難を極めるが、初期段階のプランニング(有望地域の選定)などで大幅に時間を節約できたという。
タンザニアでは、地下水の調査が行なわれた。アフリカ諸国で喫緊の課題といえば、安定・安全な水供給。しかしながら、広大な大地から井戸掘削ポイントを決定するのは非常に困難だ。そこで高精細な3D地図を使うと、微細な地下水地形特徴(線状地形:リニアメント)が抽出できるらしい。
従来の3D地図の解像度では抽出できなかった、数十メートルのスケールで特徴が抽出できたため、ピンポイントな調査が可能となり、村落の給水優先性から地上探査側線を設定し、最も効率的な試掘計画を策定することも可能になったという。
面白いのは、地形から想像以上に多くのことが分かるということだ。「そうですね。地形は実にさまざまなことを我々に語りかけているのです」(同氏)
NTTデータとRESTECは、3D地図および関連サービスの提供を通じて、世界規模の地理空間情報の利用拡大、市場創出ならびに関連産業の振興に取り組んでいく。そのために、地図の利用用途向け製品のサービスラインアップを拡充させるとともに、ハザードマップや洪水の浸水シミュレーションなどの地図コンテンツとも連携し、世界中のさまざまな需要に対応していく方針だ。