実績と未来を見せた「AWS Summit 2016」 第1回
AWS Summit 2016 Enterprise Dayの基調講演レポート
ようこそ洞察の時代へ!GEのCTOが語るデジタル時代の挑戦
2016年06月02日 11時30分更新
「洞察」こそが市場で勝ち残るコツ
大量のデータを分析し、過去を振り返りながら、未来を予測する。この「洞察」はGEにとって、デジタルトランスフォーメションの大きな鍵となるポイントだ。タッカー氏は情報へのアクセスと市場という観点で、人類の歴史を振り返る。
生活に必要な衣食住を確保するための第一の市場は、価値の等価交換が行なわれる。たとえば、狩りをする部族が肉を、海岸沿いの部族が貝をといった具合に、それぞれの資源を交換することで市場が形成されている段階だ。しかし、部族が大きくなり、希少な資源を奪い合うようになると、情報の重要性に気がつくことになる。不平等な価値交換を自身に有利にするためには情報が必要になる。そして、多くの帝国主義は、こうした情報をコントロールすることで、他国に比べて優位に立つことができた。
この状況を変えたのが、インターネットだ。すべての情報は民主化され、手元のデバイスからアクセスできる。つまり、単に情報を得られるだけでは、市場においてアドバンテージを取ることが難しいわけだ。ここで生まれるのが、洞察というキーワードだ。「膨大なデータを集めるだけではなく、分析を行なって、次のマーケットを見ること。これこそが勝者を決めることになる」とタッカー氏は語る。
タッカー氏は、洞察という観点でアップルを分析する。「アップルはクローズなエコシステムで知られていたが、これを変えて、ソフトウェアのマーケットを開放した。アップルストアに参加すれば、誰が使っているのかもわかるようになっている」(タッカー氏)。これにより、ソフトウェアが売れているのか、どのように評価されているのか、広告効果は得られているのか、洞察によって得られるようになった。
500億ドルの規模に成長したUberも単にタクシーのピックアップに新しいエキスペリエンスをもたらしただけではない。ユーザーの評価でドライバーを格付けするだけではなく、街中のトラフィックを分析したり、需要に応じて価格を変えられるのが、大きな価値。ここにはデータに対する深い洞察がある。
クラウドはデータ分析でビジネスプロセスを変遷させる
こうした洞察の時代にGEも積極的に対応していく。GEでは2020年、10億の住宅がエネルギー需要をリアルタイムに提供できるスマートハウスになり、100億以上の電球や1億5200万の車がインターネットにつながると見ている。また、1日にあたりで10PBのデータが生成されるという。こうしたIoTとデータ分析の世界では単にデジタルに移行するだけではなく、新しいビジネスを生み出すことが重要になる。
「GEと言えば電球だが、市場やビジネスモデルは大きく変わる。われわれも白熱電球を売るというモデルから、電力システムを売るというモデルにシフトしている」と語るタッカー氏。スーパーで売っている商品にあわせて、電球の色を変えたり、街灯にWiFiやセンサーを付け、大気汚染の調査や交通渋滞の予測が可能になる新しい電力システムがあれば、ビジネスモデルは大きく変わる。
こうしたビジネスを迅速に立ち上げるためのGEのクラウド導入だったが、当初は学術機関や政府機関などとコラボレーションするための実験的なプロジェクトでスタートした。しかし、クラウドを導入したことで、単に技術が大きく変遷するだけではなく、文化が変えるものなのだと気がついたという。今ではデータアナリストがボタンを押すだけで、自身の頭の回転にあわせたデータ分析をできるようになり、経営に対するプロジェクトの提案フローも迅速になった。「コードを共有するOSSで世界が変わったように、クラウドはデータを共有することでビジネスプロセスを変遷させる大きな力になる」とタッカー氏は指摘する。
同社は2014年から約2年をかけて9000近いアプリケーションをクラウドに移行しつつ、4つの主要なデータセンターを閉鎖したという。しかも、単なる載せ替えだけではなく、自動化を意識したクラウドに最適なアプリケーションを構築してきた。たとえば、オイルとガスの部隊では顧客と共同でアプリケーションを構築し、高い評価とコスト削減効果を得られたという。「お客様と共に迅速に未来を共創できるところに価値がある。インフラが足かせになっていないからだ」とタッカー氏は語る。
「デジタル時代で自身のマーケットを破壊できなければ、必ず他社があなたのマーケットを破壊しに来る」と語ったタッカー氏。タッカー氏は、高度なアナリスティック機能を持つ最新の飛行機エンジンを紹介し、講演を終えた。
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