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麻倉怜士のハイレゾ真剣勝負 第84回

全員男性の“組員”で構成したアンサンブル、石田組ほか~麻倉怜士推薦音源

2023年07月09日 13時00分更新

文● 麻倉怜士 編集●HK

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 評論家・麻倉怜士先生による、今月もぜひ聴いておきたい“ハイレゾ音源”集。おすすめ度に応じて「特薦」「推薦」のマークもつけています。優秀録音をまとめていますので、e-onkyo musicなどハイレゾ配信サイトをチェックして、ぜひ体験してみてください!!

この連載で紹介した曲がラジオで聴けます!

 高音質衛星デジタル音楽放送、ミュージックバード(124チャンネル「The Audio」)にて、「麻倉怜士のハイレゾ真剣勝負」が放送中。毎週、日曜日の午前11時からの2時間番組だ。第一日曜日が初回で、残りの日曜日に再放送を行うというシークエンスで、毎月放送する。

収録風景

『石田組 2023・春』
石田泰尚, 石田組

特選

 石田組は、いま人気絶大な弦楽アンサンブルだ。神奈川フィルハーモニー管弦楽団ソロ・コンサートマスターの石田泰尚が呼びかけ、2014年に結成された。第一線で活躍するオーケストラメンバーを中心に全員男性の“組員”で構成されている。レパートリーはバロック音楽から映画音楽、プログレッシブ・ロックまで幅広い。本作は2022年8月19日、ミューザ川崎シンフォニーホールでのライブ録音。この時はヴァイオリン6、ヴィオラ3、チェロ3、コントラバス1、チェンバロ1---の14人編成だった。

 浮き立つような、沸き立つような音の洪水を、弦楽アンサンブルだけで巻き起こすハイテンションなパフォーマンスだ。冒頭の「1.キル・ザ・キング( レインボーの1977年のヒット曲)」はハードなロック。輪郭を尖鋭に立て、一音一音に隈取りを与える、メタリックな音調だ。ファズギターのような歪みサウンドが横溢。ロックの次は「4.ニュー・シネマ・パラダイス」「6.スマイル」で聴衆を和ませ、さらにヴィヴァルディの「7.4つのヴァイオリンのための協奏曲 ニ長調 作品3-1」で、バロックの昔に誘い、バルトークの「10.ルーマニア民俗舞曲」でエスニックなアクセントを付け、ジプシー的に盛り上がり、最後に「18.アルルの女第2組曲 - ファランドール」の大衆名曲で、本アンサンブルの合奏力を見せつける。小太鼓のパートは、ビオラのピッチカートで代用するなどの工夫も面白い。聴衆の心を捉えて放さない見事なセットリストだ。

FLAC:96kHz/24bit
Universal Music LLC、e-onkyo music

『Alone at TARO's Atelier』
Various Artists

特選

 岡本太郎記念館の館長、岡本の甥の平野暁臣(ひらのあきおみ)氏が主宰するDays of Delightレーベルは「和ジャズ」の傑作を多数ものしている。今回は日本のジャズマンのプレイをYouTubeで公開する〈Days of Delight Atelier Concert〉の中から、優れたソロパフォーマンスを集めたコンピレーション。 収録したのは東京・南青山の岡本太郎記念館。70代のマエストロから20代の若手までの9人のトッププレイヤーのソロ演奏をコンパイルした。いずれもオンマイクによる鮮烈で、鮮明な音だ。

 佐瀬悠輔のソロトランペット「1Free Improvisation」は生々しさで、平倉初音のピアノ「2.Something for Charles Mingus」は、偉容さで圧倒する。ビアノはスタインバーグ・ベルリンのアップライトだ。古木佳祐のベース「3.Free Improvisation」は、低音の雄大さと切れ味を味わう。山口真文のソプラノサックス「4.Thalia」は艶めかしく、セクシー。David Bryantのピアノ「5.Original Medley」は繊細で色彩感が豊か。土井徳浩のバスクラリネット「6.The Juniper Tree」は、なんとも人間臭い低音部の音色が魅力。高橋陸「7.Free Improvisation」はベースの多彩な表現を堪能。石田衛のピアノ「8.ピアタム」は昔の夜のニューヨークの酒場のイメージだ。池田篤のアルトサックス「9.Bread and Soup」は、息継ぎまでヴィヴット。新時代のハイレゾオーディオチェクソースとして使えそう。

FLAC:96kHz/24bit
Days of Delight、e-onkyo music

『ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲 他』
マリア・ドゥエニャス, ウィーン交響楽団, マンフレート・ホーネック

特選

 メディアを通じた音楽鑑賞のエキサイトは期待の新人との遭遇だ。本作は、2021年メニューイン国際コンクール第1位に輝いた、スペイン出身の20歳の新星ヴァイオリニスト、マリア・ドゥエニャスのドイツ・グラモフォン、デビューアルバム。マリアはその他にも、2018年「ウラディーミル・スピヴァコフ国際ヴァイオリン・コンクール」、2021年「ゲッティング・トゥ・カーネギー・コンクール」、2021年「ヴィクトル・トレチャコフ国際ヴァイオリン・コンクール」で優勝するなど、多くの世界的コンクールで成功を収めている。。2022年10月にDGと専属契約を締結。

 ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲冒頭のニ長調のオーケストラの上行音階旋律で、何と音が美しいのかに感動。ムジークフェライン・ザールでの録音らしく、実にしなやかで、綿密、伸びやかだ。響きが深いと同時に、ひじょうにディテールな部分まで、クリヤーに捉えられている。ヴァイオリンは確実にセンターに定位し、その奥にウィーンシンフォニカが、左右に広く展開している。ライブならではの響きの心地よさと細部までの目配りの確かさが、本録音の大きな魅力だ。ムジークフェライン・ザールの豊潤なソノリティを味方につけた響きのコントロールが素晴らしい。闊達で、自在に旋律を巡るマリア・ドゥエニャスのヴァイオリンも大いに聴き物だ。第3楽章「ロンド」のアクセントと躍動感も素晴らしい。カデンツァの切れ味が豊かで、複数の弦を同時に弾く和音の重層感も見事。2023年1月25日~28日、ウィーン、ムジークフェラインでライヴ録音。

FLAC:96kHz/24bit
Deutsche Grammophon (DG)、e-onkyo music

『Countdown To Ecstasy』
Steely Dan

推薦

 ウォルター・ベッカー(ベース)、ドナルド・フェイゲン(ボーカル、キーボード)のスティーリー・ダンのセカンドアルバムがハイレゾ・リマスターされた。オリジナルは1973年にABCレコードから発売され、全米で50万枚を売り上げる大ヒットを打ち、全米レコード協会(RIAA)からゴールド・セラーの認定を受けた。本ハイレゾはバーニー・グランドマンによるオリジナル・マスターテープからのDSDマスタリングだ。「1.Bodhisattva」はダブルトラックの厚いヴォーカルが特徴のポップな楽曲。まるで歪んだロックンロールのような雰囲気。長いファジーなギター・ソロが印象的だ。「6.My Old School」は強調的なコーラスのハーモニー、攻撃的なギター・リフが印象的。リマスタリングされた音は、1973年の時代の雰囲気が色濃く感じられた。

FLAC:192kHz/24bit
Geffen、e-onkyo music

『トリステ - イングリッシュ・ホルン、バス・オーボエとパイプオルガンによるテレマン&バッハ・ソナタ集』
庄司さとし(バス・オーボエ), 庄司さとし(イングリッシュ・ホルン), 和田純子(オルガン)

推薦

  299MUSICレーベルは優れた録音作品を多数擁している。本作もそのひとつだ。フリーランスのオーボエ奏者、.庄司さとしのバス・オーボエとイングリッシュ・ホルン+和田純子のオルガンのデュエットだ。「テレマン: 忠実な音楽の師」「J.S. バッハ: ヴィオラ・ダ・ガンバとチェンバロのためのソナタ BWV 1027 」「J.S. バッハ: フラウト・トラヴェルソとオブリガート・チェンバロのためのソナタ ロ短調 BWV 1030」の3曲が収録されている。使用楽器はイングリッシュ・ホルンが1994年製作のポール・ラウビンのグレナディラ材、2016年製作のフォックス社のメープル材、2015年製作のリグータ社のグレナディラ材。バス・オーボエが2015年製作のグレナディラ材。2015年ザニン・オルガン工房建造のバロック様式オルガン(1段手鍵盤)。目が覚めるような超優秀録音だ。イングリッシュ・ホルンのやさしくグロッシーな音色が会場いっぱいに分厚い響きを伴い、バロックオルガンの低音がそれを支える。たいへん響きが美しく、リスニングルーム全体が、その濃密な空気に包まれる。バス・オーボエ:の落ち着いた調べも心に染みる。2021年6月2-3日、7月29-30日 軽井沢ヴィラセシリア音楽堂で録音。

FLAC:352.8kHz/24bit
299 MUSIC、e-onkyo music

『Mirror To The Sky』
Yes

推薦

 オリジナルメンバーのスティーヴ・ハウ、後から加わったジェフ・ダウンズ、ジョン・デイヴィソン、ビリー・シャーウッド、ジェイ・シェレンからなる現存イエスの新譜。昔からのグループのものは、たいていの場合、過去のアルバムをハイレゾでリマスタリングしたという作品が多いが、これはなんと最新録音なのである。まさに新生YESの現時点の地平が分かる。先行シングルの「1.Cut from the Stars」は変拍子を多用し、プログレ的な色彩を濃く持つが、ポップ的な愉しさも忘れない。「2.All Connected」は荘重でクラシカル。何重もの音の重なり合いが、見事な復音調を生んでいる。音質も最新録音だけあり、クリヤーで見渡しがよい。

FLAC:96kHz/24bit
InsideOutMusic、e-onkyo music

『幻想を求めて - スクリャービン&ラフマニノフ[Type "Rich"]』
福間洸太朗(ピアノ)

推薦

 後で紹介するトロンボーンの玉木優の『Bridges』と同じ録音エンジニア、会場で録音された高音質ハイレゾだ。『Bridges』は相模湖交流センター・ラックスマンホールにて、2022年年11月1-2日に録音。ハイレゾパラメーターはDXD 32bit/352.8kHzだ。録音担当はMClassicsの小野啓二氏だ。本作の福間洸太朗のピアノの『幻想を求めて - スクリャービン&ラフマニノフ[Type "Rich"]』もエンジニア、場所、スペックはまったく同じで、録音日は2022年10月だ。相模湖交流センターの優れたソノリティと音場解像度の高さを味方につけた録音だ。ピアノ録音では、ピアノの音が会場に広がる間接音の容積と、ピアノ自体から発する直接音の情報量とのバランスがいつも問題になるが、本録音は、そのふたつがとても好適。ピアノ自体の音が繊細にクリヤーに聴け、そこに会場の透明で、ヌケのよい響きが加わり、明瞭にして、豊かなソノリティを感じさせる。

FLAC:352.8kHz/24bit
Naxos Japan、e-onkyo music

『Pieces of Treasure』
Rickie Lee Jones

推薦

 キュートなアメリカの至宝、リッキー・リー・ジョーンズの、アメリカン・スタンダード・ジャズ集だ。ジュール・スタインの「Just in Time」、ハロルド・アーレン&ジョニー・マーサーの「One for My Baby」、ジョージ・ガーシュウィンの「They Can't Take That Away From Me」、クルト・ワイルの「September Song」……などをカヴァー。リッキー・リー・ジョーンズが唄うジャズと聞いただけで、期待に胸が膨らむが、まさに彼女にしか歌えない独特の斜に構えた、粘っこいスタイルが、たいへん個性的だ。最新録音ならではの音の伸びの良さ、クリヤーさも本アルバムの価値を高めている。バックの楽器もギター、ベース、ピアノと少なく、音場ではリッキー・リー・ジョーンズのほとんど一人舞台。ヴォーカル音像がひじょうに大きい。

FLAC:96kHz/24bit
Modern Recordings、e-onkyo music

『Bridges』
玉木優(トロンボーン), 秋元孝介(ピアノ)

推薦

 さきほど、7位の『幻想を求めて - スクリャービン&ラフマニノフ[Type "Rich"]』で述べた録音環境と同じだ、というより、当のMClassics作品だから、よりそのキャラクターは強い。2022年11月1-2日 神奈川県、相模湖交流センター ラックスマンホールでの録音だ。同ホールのソノリティの良さは、業界に広く喧伝され、リーズナブルな使用料とあいまって、録音申し込みが殺到しているという。本作でも響きの透明度が高く、クリヤーなアンビエントを与えている。玉木優は世界各地を舞台に活動を続けるソロトロンボーン奏者。ソロ活動を軸に、室内楽、オーケストラ、教育、執筆、プロデュースなど多岐に展開している。

 「1.挾間美帆: トロンボーン・ソナタ」は、グラミー賞を受賞した挾間美帆:が玉木優のために書き下ろした楽曲。世界初録音だ。 トロンボーンの楽器としての魅力、その音楽性の魅力が、見事に表現されている。「8.挾間美帆: パガニーニの主題による変奏曲」は無伴奏ヴァイオリンの奇想曲のテーマをジャズにしたもの。太く、細く、早く、遅く、不協和音、ブルーノート……とトロンボーンならではの音の魅力が散りばめている。ピアノとのコラボも見事だ。ここまでは、これでもかという具合に、名人芸が堪能できたが、最後はしっとりと、「10.菅野よう子: 花は咲く」。暖かな感情が美しい。透明に広がる音場において、トロンボーンはセンターに大きな音像で定位、その背後にピアノが存在。音色の多彩さ、音域の広さが、卓越した録音で捉えられている。

FLAC:352.8kHz/24bit
MClassics、e-onkyo music

『I Am, Because You Are』
海野雅威

推薦

  2020年9月に、新型コロナウイルス蔓延によるアジア人ヘイトクライムによりニューヨークの地下鉄で暴行され、負傷を追った日本人ピアニストがニュースになった。それが海野雅威氏だ。右肩骨折などの重傷に見舞われたが、懸命のリハビリで奇跡の復活を果たしたことも話題だ。ダントン・ボーラー(b)とジェローム・ジェニングス(ds)とのレギュラー・トリオによる本作は復帰第2弾。全曲、海野雅威のオリジナル曲で構成されている。録音は、ジャズの歴史的名盤が生まれたニュージャージーのヴァン・ゲルダー・スタジオ。ブースに入らず同じ部屋で、互いを聴きながらの録音だ。主役のピアノはセンターに的確に位置し、音もクリヤーでヌケがよく、レンジも広い。ベースは中央の奥にいるが、あまり明瞭ではなく、キレが甘い。ドラムスは右に位置するが、かなり奥まったところがら響きを伴う。つまり、もっともピアノが実在感、解像感、輪郭感……からして、的確にフューチャーされている。2023年3月3日、4日、ニュージャージー、ルディ・ヴァン・ゲルダ―・スタジオで録音。

FLAC:96kHz/24bit
Universal Music LLC、e-onkyo music

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