今回からは「業界に(なんらかの)痕跡を残して消えたメーカー編」をお届けしたい。そういえばいろいろとおもしろい企業がたくさん生まれては消えていったのがこの業界。スーパーコンピュータ連載の時にも、BBNやKendorなどおもしろい企業があった。ビデオカード黒歴史でもいくつかの企業を紹介した。
そこで今回からは、PC業界だけでなく、もう少し幅広く捉えたいろいろな企業の話を取り上げてていきたい。
原則的に、「既にない企業or部門」を取り上げる予定である。例えばインテルやMotorolaを避けて通るわけにはいかないのだが、前者はまだ業界に君臨している。後者も社名をFreescaleと変え、その後NXPに買収されたもののまだラインナップは維持しているため、これらの企業は連載の対象外である。
ということで第1回は、MITS(Micro Instrumentation and Telemetry Systems)を紹介したい。
モデルロケット関連機器の販売からスタートした
MITS
MITSという名前に聞き覚えはなくても、「Altair 8800」の名前を聞いたことがある人はいるはずだ。世界最初の“パーソナルコンピューター”である。
MITSは1971年、米ニューメキシコ州アルバカーキで設立された。創立者はEd Roberts氏(2010年没)とForrest Mims氏の2人。
Roberts氏はマイアミ大学で電気工学を学んでいたが、所謂「出来ちゃった婚」で生活費を稼ぐ必要があり、大学を中退して米空軍に入る。一方のMims氏はテキサスA&M大学でやはり電気工学を履修し、卒業後米空軍に入る。
結果、2人は米空軍の武器研究室でともに働くことになった。この武器研究室はニューメキシコ州のアルバカーキ国際空港に隣接するカートランド空軍基地内に置かれており、その後物理学研究室や宇宙飛行士実験室と合併してフィリップス研究室と再編されたが、場所そのものはカートランド空軍基地内である。
さて、この武器研究室時代にMims氏は、アルバカーキ・モデルロケット・クラブのアドバイザーとなる。モデルロケットというのは超小型のロケットである。
これはアルバカーキ・モデルロケット・ソサエティー(アルバカーキ・モデルロケット・クラブと直接の関係はない。どうもクラブは一度解散した模様)の写真を見ていただくとわかりやすいが、要するに「手作りロケット」の類だ。
日本ではペットボトルロケットが評判であるが、アメリカのほうが本格的である。そしてロケットを打ち上げるとなると、そのロケットを追尾するシステムがほしくなる。
かくして、2人に加えてStan Cagle氏とBob Zaller氏(どちらも武器研究室の同僚)が合同でMITSを立ち上げる。最初の製品はモデルロケットに組み込むフラッシュライト(このフラッシュを利用してロケットを追尾する)や、ロール率のセンサー/トランスミッターなどのキットであった。
社名のMicro Instrumentation and Telemetry Systemsは、まさしくこうしたモデルロケット向けの小型装置(Micro Instrumentation)やテレメトリーシステムを扱うという想定だったかららしい。
ちなみにRoberts氏はReliance Engineeringという社名にしたかったそうだが、マサチューセッツ工科大(MIT)に名前が似ているということでMITSになったという、本当か嘘かよくわからない話もある。
とはいえ、このモデルロケット向けのビジネスは予想通り売り上げは芳しくなかったらしい。下の画像はModel Rocketry誌の1970年3月号に掲載された同社の広告である。
当時はまだ米空軍で勤めながら、片手間の副業でMITSという社名でビジネスを模索していた状態であった。
ただこのテレメトリーに絡んで、Roberts氏がPopular Electronics magazineに掲載した記事がいろいろ好評だったようで、これを機にRoberts氏は米空軍を退職し、フルタイムのテクニカルライターになる道を模索しはじめる。
それはともかくMITSはこの当時、LEDを利用して100フィートの距離で通信ができるキットを200セット仕入れ、読者に100セット以上が売れたらしい(ちなみに1セット15ドル)。
実はこの当時、Roberts氏はPopular Electronics誌を通してビジネスを成功させたDaniel Meyer氏(故人)と会う機会があったらしい。
Meyer氏はPopular Electrocnics誌とRadio-Electronicsという2つの雑誌にラジオやステレオ、測定装置などさまざまな機器の回路を載せるとともに、これを製作するのに必要な部品をまとめたキットを販売する、というビジネスを大成功させている。
Meyer氏の会社であるSWTPCがこれを販売していたため、このビジネスモデルを踏襲することをRoberts氏も目論んだ。といっても、同じようにラジオとかを作っても仕方ないわけで、そこでRoberts氏が参入した分野が電卓であった。

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