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春のヘッドフォン祭 2016第2回

ETHER Electrostatic:知る人ぞ知る、新進ヘッドフォンブランドの次の一手

まだ秘密だけど、すごい静電型ヘッドフォン作ってます──MrSpeakers

2016年04月29日 14時30分更新

文● 小林 編集●ASCII

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MrSpeakersのダン・クラーク氏とETHER Electrostaticsを装着したモデルさん

 エミライは4月29日、“春のヘッドフォン祭 2016”の会場で、米国のMrSpeakers社が開発中の新製品「ETHER Electrostatic」(仮称)を公開した。静電型ヘッドフォンでありながら、リーズナブルな価格帯(といってもそれなりの金額にはなりそうだが……)を目指しており、「ETHERで静電型ヘッドフォンの裾野を広げるのが狙い」なのだそうだ。正式発表は年内を目指している。

離婚の危機を乗り越えたエンジニア・ダン・クラーク氏の挑戦

 さてMrSpeakersのダン・クラーク氏というと、過去の記事でも紹介したようにヘッドフォンの音漏れによる“離婚の危機”がヘッドフォン開発のきっかけになったという、大変個性的なエピソードを持つ人物。

ETHER Electrostatic

 結果、フォステクスの密閉型機「T50RP」を趣味でカスタマイズしたところ、オーディオ愛好者が集うインターネット上のフォーラム“Head-fi”(ちなみに日本でも10月にHead-Fi JAPANが始まる計画)で話題になり、マニアたちに後押しされる形でオリジナルヘッドフォンの開発と起業まで進んでしまったというサイドストーリーがある。

 もっともクラーク氏自身、大学では工学を学んでおり、その後、アップルコンピュータでQuickTimeのプロジェクトを担当。その後、Open GL、MPEG Audio Layerに対応したコーデック開発に携わった。さらに1990年代に、コンサルタントという形でオーディオ業界に足を踏み入れ、スピーカーで有名なPLATINUM AUDIOで活躍するといったバックグラウンドを持っており、十分な知識と経験がある技術者でもある。

 そんなMrSpeakersの製品がETHERだ。約3年前に最初の製品「ETHER」をリリース。その6ヵ月後に「ETHER C」を発表。国内では昨年から販売代理店のエミライが取り扱いを始めたばかりでそれほど知名度がないが、Head-fiの創始者であるジュード氏(Jude Mansilla氏)の言葉を借りれば、すでに世界のオーディオ愛好家の間では非常に有名なブランドに成長しており、Astell&KernやHIFIMANに匹敵するブランドに成長しているとのこと。

Head-fiの創始者であるジュード氏

 ETHERとETHER Cは、V-Planar振動板と呼ぶ特殊な平面磁界型(Planar magnetic型)ドライバーを採用している。ローレット加工のように微細なシワを付けた振動板は、アコーディオンのようにひだが伸縮しながら駆動し、一般的な平面ドライバーに多い、駆動させた際に上下がたわんで音の歪みにつながる問題点に対処している。

他社と比較はしない、でも自分の理想的なサウンドが得られた

 そんな平面磁界型振動板の開発で名を馳せたMrSpeakersだが、同じ平面駆動型でも今回は静電型。日本で言うとSTAXのイヤースピーカーなどが採用したコンデンサー型などとも呼ばれるヘッドフォンだ。

 静電型ヘッドフォンは、左右の電極に一定の高い電圧をかけておき、電気の力でその間に置いた非常に薄い膜を動かす方式。面全体に均等に力が働くため、原理的にダイナミック型ドライバーのような分割振動が発生しない。ひずみが少なく、解像感の高いサウンドが得られるのだ。

 反面電極と電極の間の距離は非常に短く、振動板自体の振幅も小さくなる。結果として低域のエネルギー感を出しにくいという弱点もある。また電極に高い電圧をかけるために、専用のアンプが必要でどうしてもシステムが大げさになるという点もデメリットだ。

 技術には必ずトレードオフが生じるため、万能とは言えない。

ケーブル接続部分の端子はプロトタイプではSTAXのものと同じになっている。ここをどうするかが課題だ。

 ダン・クラーク氏自身、「静電型の音は好き」だったが、「低域が出ない、透明感が不足している」と感じるなど不満もあったという。自分の不満を解決し、ETHER/ETHER Cの特徴を持ち、解像感の高いサウンドを実現できたら面白いのではないかと考えているという。

 クラーク氏は、ETHER Electrostaticを他社製品と比較しないポリシーとのことだが、低域の再現性には自信があるとする。低域が50Hz(-3dB)まで伸びること。そうできた理由の一つは振動板の膜の薄さだ。細かい話は企業秘密とのことだが、試作と試聴を重ね10μm以下の薄さの物を使用。振動板そのものの収縮性の高さについても重視しているようだ。

 一方、静電型ヘッドフォン特有の敷居の高さについても一石を投じたい考えだ。高音質という評価を受ける一方で、複雑、高価、特別なものという印象を持たれることが多いが、コストを抑え、その魅力を体験できるようにしたいという。

イヤーパッドはかなりふかふかで肉厚。ETHERと同じように四角くくりぬかれている。

 プロトタイプは開放型で、外観的はETHERと基本的に同じだ。そうする理由のひとつはコストの抑制にある。 また本体は300g程度の軽さを実現しており、装着もしやすい。継続販売することで、低い故障率を得られる点もメリットになる。

 仮に音が良くても、ETHERの2倍も3倍もする価格で販売してもユーザーはハッピーにはならない。特に静電型のヘッドフォンはアンプも一緒に購入する必要があるためさらに負担は大きくなる。さらに静電型ヘッドフォンでは、ヘッドフォン単体ではなく、システムとして提供するためにアンプ開発ができる他社と協業していく。課題としてはケーブルやコネクター形状もある。5ピン端子やバイアス電流などSTAXのコンデンサー型ヘッドフォンと互換性を持たせ、アンプやケーブルなどの流用ができるようにするそうだが、より小型でコスト面でも優れる、専用端子の開発も検討しているという。

一味違った、静電型ヘッドフォンが登場するかも

 今回プロトタイプを短時間試聴できた。まだ改良の余地があるとのことで参考程度だが、軽く感想を書く。

 静電型ヘッドフォン特有の繊細さや癖のなさだけではなく、特有のパワー感があるのが印象的だった。特に電子楽器を多用するような曲で、ズーンと沈む低域が入ってきた場合でも、うす味だとかインパクト不足だなと感じることはない。

 一方で微細な音を的確に拾う点、音色に雑味がなく整ったサウンドを利かせる点なども魅力的。価格的には仕組み上、ETHERよりは高価になるとのことだが、高級ヘッドフォンの分野でまたひとつ面白い選択肢が出る予感を感じさせる製品になりそうだ。

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