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高橋幸治のデジタルカルチャー斜め読み 第20回

人工知能が多くの職業を奪う中で重要になっていく考え方

2016年04月19日 09時00分更新

文● 高橋幸治、編集●ASCII.jp

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来たるべき新たな時代へのソフトランディングは可能か?

高橋 おっしゃっていること、本当に同感です。“物欲なき世界”の新しい価値観や幸福感になるべく早くシフトしておかないと、来るべき時代へのソフトランディングは難しくなる一方で、このままではかなり痛手の大きいハードランディングになってしまうと思います。

 僕は“誇示的な消費”終焉後の世界にいたるプロセスは実は2つあると思っていて、1つは時代感に鋭敏な人たちが自らの意思で積極的に選び取るという道、もう1つは拡大する経済格差などのために不可避的にそうならざるを得ないという道です。特に後者はもう待ったなしというか、それほど悠長なことを言っていられないレベルまで来ているように思うのですが……。

菅付 そうですね、残念ながらいまの状況ではハードランディングになってしまう可能性が高いような気がしますね。

高橋 編集もかつては“欲望の増幅装置”のひとつでしたし、“娯楽の製造装置”という側面がありましたけれども、今後は“社会の変革装置”として機能していかなければいけませんね。

 僕から見ると菅付さんはもうそこに着手していらして、前著である『中身化する社会』(星海社新書刊)でも、モノ主体の資本主義の疲弊が主要なテーマになっていたのだと思います。そういう意味では、『中身化する社会』と今回の『物欲なき世界』は現代に生きるわれわれの感覚や感性、そしてコミュニケーションの様態の変化を主題にしたシリーズものという趣がありますね?

Image from Amazon.co.jp
菅付 雅信氏の著作『中身化する社会』(星海社新書刊)。ソーシャルメディアによって見栄や虚飾が丸裸にされてしまう現代の情報環境において、新たに立ち現れつつある世界像を描き出す。『物欲なき世界』の序章ともいえる論考

菅付 そうですね、どちらも世界レベルで顕在化している時代感のシフトと、その背後にあるテクノロジーの影響をテーマにしていますからね。あわせて読んでもらえるとわかりやすいと思います。

人工知能が進化したとき、いかに賢く生きていくかが重要

高橋 人間と技術との関係について考えると、いま、また、テクノロジーの進化は新たな段階に到達しつつあるような気がしています。具体的には人工知能やロボット、ナノテクノロジー、バイオテクノロジーといったものですね。おそらく、こうした技術は“物欲なき世界”がもたらす価値観と幸福感のシフトをさらに推し進めていきますよね?

菅付 人工知能の話題になるとよく言われることですが、確実にかなりの職業は機械に代替されていくと思います。すると労働時間も短くなって、収入も次第に減っていくでしょう。そうなったときに、自分を幸せだと思えるかどうか、自分の幸せをいかにモノに仮託せずに実現できるかが問われてきますよね。

 収入が減っても労働時間が少なくて済むことを自由と考えるのか、労働時間が少なくなった結果として収入が減ってしまったことを不幸としかとらえられないか……。5年後10年後には財産がどれだけあるかとか、どれだけ服を持っているとか、どれだけいい車に乗っているかはさほどその人のステイタスを表現するものではなくなり、いかに自由であるかとか、いかに賢く生きているかとかいうことが重要になっているように思いますね。

昨年12月、野村総合研究所が英オックスフォード大学との共同研究の成果として発表した人工知能/ロボットと人間の仕事にまつわるレポート。10年~20年後には、日本の労働人口の約49%が就いている職業が人工知能/ロボットによって代替可能になるとの推計結果となっている

高橋 ヨーロッパなどではすでにベーシックインカム導入の是非に関する国民投票などが行なわれていますが、僕は人工知能の急激な世界への浸透とベーシックインカムという構想は案外セットになるのではないかと考えています。

菅付 そうですね、十分あり得る話だと思います。最低限の食料と最低限の収入が保証されていて、金銭的な富をさらに追求したい人はその方向で努力をすればいい。別種の価値や幸福に重きを置く人はその人なりの人生の充実させ方を考えるでしょうね。

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著者紹介――高橋 幸治(たかはし こうじ)

 編集者。日本大学芸術学部文芸学科卒業後、1992年、電通入社。CMプランナー/コピーライターとして活動したのち、1995年、アスキー入社。2001年から2007年まで「MacPower」編集長。2008年、独立。以降、「編集=情報デザイン」をコンセプトに編集長/クリエイティブディレクター/メディアプロデューサーとして企業のメディア戦略などを数多く手がける。「エディターシップの可能性」を探求するミーティングメディア「Editors’ Lounge」主宰。本業のかたわら日本大学芸術学部文芸学科、横浜美術大学美術学部にて非常勤講師もつとめる。

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