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よなよなエールがたった1つの製品で楽天市場トップになれた理由 (2/2)

2016年04月05日 11時00分更新

文●野本纏花

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倒産寸前に見えたインターネット販売の可能性

ヤッホーブルーイングは創業とほぼ同時期の97年6月、立ち上がったばかりの楽天市場に出店している。三木谷浩史社長の売り込みにのって出店したはいいものの、当時はネットでの買い物はまだ一般的ではなく、開店休業状態で放置されていた。

しかし、店頭販売が難しくなった以上、「ネット販売しか生き残る道はない」と思った井手氏は、2004年末、自ら営業リーダーを降りて、インターネットの世界に飛び込んだ。ゼロからのチャレンジだったが、必死になってサイトの更新を続けていると、次第にお客さまがクチコミで宣伝してくれるようになった。ネットで買ったお客さまが、最寄りのスーパーにも「よなよなエールが美味しいから置いてください」と売り込んでくれたのだ。

必死に営業していたときは門前払いだったが、営業をやめたら扱ってくれるようになるという、面白い現象が起きた。

「おかげさまで、全国のスーパーや問屋さんの仕入れ担当者の方から問い合わせが入るようになり、会社が復活する兆しが見えてきました」(井手氏)

「もうネット販売しか生き残る道はない」と思いましたね、と井手社長

売れるものが1つしかない中で、どう戦うか

ヤッホーブルーイングは、2013年に自社サイト「よなよなの里/本店」を開設、同時にAmazon.co.jpへの出店も始めたが、それ以前は楽天市場に絞ってEC事業を展開してきた。マンパワーの不足もあったが、圧倒的No.1になるまでは楽天市場に集中しようと決めていた、という。

楽天市場店

売り物は『よなよなエール』1つだけ。今にも倒産という憂き目からやっと脱したときで、アイテムを増やすどころではない。メーカーなので価格を下げると、卸値も下げなければならず、自らの首を絞めかねない。どのようにすれば、お客さまが何度も通ってくれるお店になるのか。

考えあぐねた井手氏がひらめいたのが、楽天市場のコンセプト「Shopping is Entertainment!」だった。

「製品が1つしかないサイトを、お客さまが何度も訪れる意味がなければならない。どうすれば、サイトを訪れたお客さまに楽しんでもらえるか、を考えるしかなかったんです」(井手氏)

真剣な想いが伝わった瞬間

お客さまに楽しんでもらう方法に気がついたのは、地元軽井沢の浅間山にどんぐりの木を植える活動「どんぐりがえし」の模様を伝えるページを作成したときだった。

「どんぐりがえし」の模様を伝えるページ

表向きの活動報告のほかに、裏ページを作ってみたのだ。裏ページのストーリーはこうだ。

「3缶の『よなよなエール』がぼくの後を付いてきて、『あれ? きみたちも来ていたの?』なんてぼくが話しかけると、『ぼくたちも植えるよ。ぼくたちのビールは、この山から流れてくる水を使っているんだからね!』と返してくる。崖から落ちそうになった1号を2号が助けるとか、そんな『よなよなエール』を擬人化した寸劇のストーリーです」(井手氏)

お客さまが喜んでくれたらいいなという一心で、真剣に作ったページだった。

2007年の「どんぐりがえし」では、裏ページではなく、表ページに堂々と擬人化した『よなよなエール』が登場している

くだらないと思われるのだろうなと考えていたが、案に相違して、評判が非常に良かった。気をよくして、擬人化寸劇ストーリー企画を定期的に始めると、メールマガジンで新しい企画を紹介した日には、売上が著しく増える現象が起きた。

「久しぶりに飲みたくなったんで買います」「よなよなさんのページはおもしろいよね」といった好意的な返事をお客さまからもらうこともあった。結果として、セールなどはしなくても、楽天市場のページを訪れる人が増えていった

「とにかくお金も製品種類もない、ないないづくしのなかで、訪れたお客さまに楽しんでもらえたらと思って続けていたら、後から売上がついてきた、というのが、正直なところです」(井手氏)

もちろん「このビールが好きだけど、あなたのやっているおちゃらけの企画には本当に興味がないし、むしろ嫌気がさす」といったクレームもあった

こうしたクレーム対して井手氏は、「我々のビールはブームが過ぎて店頭ではほとんど扱ってくれなくなりました。唯一の販売手段といっていい楽天市場のページを訪れるお客さまには、少しでも喜んでもらいたい。そして、これが『よなよなエール』を広める唯一の手段だと思って、すごく真剣に取り組んでいるんです」と返事を出した。

すると、クレームを送ってきたほぼ全員から「そうか、あなたも大変なんだな。応援するよ」と返事が来るのだという。

「当時、担当は私しかいなかったので、私が1件1件すべてのメールに対して真摯に返信を書いていました」(井手氏)

※ ※ ※

楽天市場でファンとの絆づくりに目覚めた井手社長。この後、11年連続増収増益を続ける今に至るまで、どのような道をたどっていくのだろうか。次回は、売り上げが飛躍した施策やSNSの活用を紹介する。

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