被災地復興支援から日本全国のビジネスマッチングプラットフォームに
人と人をつなぐ復興、グーグルの「イノベーション東北」
2016年03月16日 09時00分更新
本社をアメリカに置く外資企業グーグルは2011年、東日本大震災の発生直後から災害情報を取りまとめるなど、日本にとって非常に重要な役割を果たした(関連記事)。
「世の中の情報を整理して、使いやすくすること」を使命にしているグーグルが、震災当時どのように考え、動き、今にいたるのかを取材した本連載、第3回は「イノベーション東北」を担当する松岡朝美氏。
避難所名簿やNHK、朝日新聞、各通信キャリアに寄せられた、人々の安否情報をパーソンファインダーに集約し、検索することで人と人をつないだグーグル。その後、被災地からの依頼で各地にストリートビュー・カーを走らせるなど、現地で行動するなかで、復興を目指す人とサポートするスキルを持った人をつなぐプラットフォーム、イノベーション東北が生まれた。(以下本文、敬称略)
東北で「事業再生」を
「震災から1年以上の間、私は東北には関わっていなかったんです」
松岡はそう切り出した。震災の日、彼女は沖縄にいた。ストリートビュー撮影の交渉担当として、美ら海水族館の撮影をしていたためだ。地震が起きた瞬間は車で移動中だったが、メールやSNSで状況を察知した。テレビで現地の映像を見た時には「大変なことが起きている」と感じたという。当時彼女の担当エリアは西日本だった。東北の苦難を感じつつも、西日本での仕事をしなければならない。まずそれを優先するうち、2011年は過ぎていった。
2012年9月、当時の上司から電話があった。「一緒に東北でやらないか」との誘いだ。「正直、『私ですか?』という戸惑いはあった」と松岡は言う。だが、なにかできることはないか、という思いもあり、松岡はチームに合流した。
彼らは釜石から陸前高田まで、被災地を回った。なにが求められているかを知るためだ。そのなかで見えてきたことがある。それが「事業再生」だ。グーグルのほかの社員たちはすでに2011年4月に仙台エリアで営業再開している事業者を検索できる「ビジネスファインダー」を始めるなど、被災地のビジネスを情報で支援する取り組みを進めるなど、実績はあった。
被災前、現地はもちろんそれぞれの企業が根を張り、それぞれの商圏でビジネスを展開してきた。だが、震災と津波はそのバランスを崩した。施設が破壊され、人々の生活も変わった結果、商圏が変わったからだ。個人向け商店も厳しかったが、B2Bでビジネスをしてきた企業にとっても課題が大きいことに変わりはない。そこで、商圏を広げてB2Cに転換するために、Eコマースサイトを作る支援をするのはどうだろう、ということになった。
「でも、それだけではだめだったんです」と松岡は言う。
ネットに店舗を構えても、そこに人が来てくれるとは限らない。短期的に人が来るだけでなく、継続的にビジネスが回る仕組みを整えなくては、本質的な解決にはならない。「そのEコマースサイトにどんなメッセージを書くのか。商品はなにを置くのか。人によって、課題も夢も千差万別です。もう少し、彼らのやりたいこと・課題解決の本質に迫りたかった」(松岡)
その道が見えず、松岡たちスタッフは悶々と考える日々を送っていた。
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