大船渡ふるさとテレワークの成果と課題
では、その成果と課題は?
まず、「働きたい仕事」の創出においては、先行例として富士ソフトがサテライトオフィスを設置し、首都圏からの移住と現地採用を実現した。3月1日には、元自衛隊で東日本大震災の災害支援にも従事した女性1名を新たに現地採用。その女性によれば「IT企業の求人自体が数社と限られる中、富士ソフトのようにプログラミング未経験でも基礎から教えてくれるというところはほぼなかった」とのことで、現地雇用の可能性を実証した。
また、地域課題を解決するワークショップでは、地元の農家・猟師・学生、ならびにギークが集まり、自動車との衝突事故などが多発している鹿対策について、アイデアソンとハッカソンを実施。地元と移住者の交流を兼ねた取り組みで、他にも移住者に地域の産業を体験してもらう地域交流も行い、相互理解を深めた。
アイデアソンでは、「モンハン村を作る」というユニークな発想も飛び出した。資料によれば「猟師が少ないので増やしたいけど、猟で得た肉を売るのも難しいので、使いみちもほしい。10人くらいで自給自足する村を作ろう。センサー付きの罠などで捕獲し、自分たちで解体・調理する。サバイバル力が向上するし、鹿の革を利用した産業化も進むかも!? 村人はインターネットで全国から募集しよう。ってこれモンハンじゃね!?」というアイデアで、その後のハッカソンでは、実際に「赤外線センサーを使った罠」などが開発された。
こうした取り組みで、企業からの移住者とギークの誘致が可能かを検証したのだが、課題として、一気に移住者が集まるわけではなく、継続的に取り組む必要があると分かった。
「地方には課題が多いので、ワークショップなどを通じて漁業ITなどを実現するような施策を続けること。そうして『何か面白そうなことをやってるな』と思ってもらえるように、地道にやっていく必要があるだろう。また、高校生に参加を呼びかけてもあまり集まらないのも課題。『そんなの自分には無理』と自分を過小評価する傾向があるようなので、おそらく小学生の頃から自分の可能性を夢見れるような啓蒙活動が必要なのだろう。大きな課題だと感じた」(福山氏)
ギークについては、「彼らはある意味自由に回遊するので、定着・定住はなかなか難しい。流れの中で、彼らのノウハウと地元のリソースを融合して新しいものを生み出すような、彼らにとっては東京と大船渡市を行き来しながら面白いことに関わるような、『二拠点居住』という考え方が最適なのだろう」という。
今後は「シビックテック」を始めたい考えだ。市民参加型のコミュニティ運営を通じて地域の課題を解決する非営利団体「Code for Japan」などとも手を組み、今回の鹿対策のような取り組みを拡大させ、楽しく地域課題を解決することで、若者の関心も高めていく。
すべてが一朝一夕にとはいかないかもしれない。それでも復興へ向かう大船渡にとっては貴重な一歩だ。大船渡市 企画政策部 企画調整課 課長補佐の山口秀樹氏は今回の取り組みについて総じて「有効」と評価する。
「企業が地方に物理的に進出するのはコスト的にハードルが高いが、サテライトオフィスを自治体側で用意できれば、テレワークによってリスクが抑えられる。結果、企業誘致が実現し、地元の若者の受け皿になってもらえるのであれば、地域にとっては大きなプラス。市としては、地元の企業も巻き込んで新しいビジネスが生まれるよう、その組み立てを支援したい」
また、「進出した企業が市内で現地採用する場合、IT企業の募集には他業界よりも若い人や女性、ちょっと遠くからも応募がくる。やはり若者にとっては魅力のある職業なのだろう」と、IT企業が地域にあることの意義を語っている。
大船渡市が描く今後
震災から5年。東北復興はいまだ途上にある。そうした中、明るい話題として「大船渡スポット」の創設も始まっている。
「今回、外部の人とたくさんの交流が生まれた。そのすべてが移住とはいかないが、せめて今後も交流が続いていくような仕組みを検討している。地元出身者が経営している首都圏の飲食店などと連携し、大船渡に縁のある人たちが集える場を作る。そこでイベントなどを開きながら、時には『大船渡でまた会いましょう』という仕組みで、すでに10店舗・36人位との協力が進んでいる。今後も官民連携で情報を発信しながら、若者を巻き込む。そうやって少しずつでも『若者の願いが叶うまち』にしていけたらと思う」(山口氏)
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