一方、高台エリアには飲食店や小売店、娯楽施設、診療所など生活に必要な施設が一通り揃っていた。中でも象徴的なのが、店舗が被災した飲食店が集まった「大船渡屋台村」だ。プレハブの臨時屋台村として2011年12月にオープンし、被災地に提灯の明かりを灯し続けてきた。
また、水産業のまちということで、漁業関連の復旧は比較的早く、大船渡漁港も新たな魚市場が開業。津波で一度は流された養殖設備も戻り、海上には無数のブイが浮いていた。この地域で盛んなのは、わかめ・かき・ほたての養殖だ。特にわかめは「末崎・碁石わかめ」のブランドで全国に出荷されている。
若者流出も、本音は「残りたい」
そんな同市で実施されたのは、テレワークを軸とした「地域人材育成拠点」の整備事業。
根本的な問題となっていたのは、市外への若者流出だ。元々市内に高等教育機関(大学・専門学校)がないため、高校卒業後に9割の学生が市外へ流出。出生数も低下し、2010年から人口が約4割も減少するなど、地域の存立が危ぶまれていた。「働く場所がない」ことも原因と思われていたが、震災後に有効求人倍率が過去最高となっても若者の流出は止まず、単純に「雇用があれば問題解決」ではないことも分かった。
地域活性化総合研究所の福山宏氏によれば「地域に若者を惹きつける魅力がない。さびれて当然」という諦めムードすら漂っていたという。ところが、2014年に気仙地区の全高校生にアンケートを行ったところ、大学・専門学校などの「学べる場」と、自分が希望する「働きたい仕事」があれば、約8割が「地元に残る」という結果に。むしろ「残りたい」という意識は、震災後に高まっていたくらいだった。
必要なのは「働きたい仕事」だ。福山氏によれば「大船渡市は水産業が中心であることから、若者がさまざまなキャリアに触れることができず、将来どんな職業に就けばいいか分からないから、とりあえず都市部へ――というケースも多く、中高生の将来について一緒に向き合う機会も作れてなかった」と、そんな反省もあった。
そこで、数年前より取り組んでいたのが、ICT技術により都市部と同じように学べる場の整備だ。「キャリア事始め事業」として大船渡市が実施したもので、「以前は学生が企業へ就業体験に行ってもボーっと見ているだけのような状況だったので、まず市内の働き手のインタビュー記事を作成し、中学校でその記事の内容をどう感じたかを議論する場を作って、心構えを持たせた上で就業体験なども行なうようにした」(福山氏)
とはいえ「学べる場」だけあっても「働きたい仕事」がなければ結局は意味がない。そんな時に立ち上がったのが「ふるさとテレワーク」だった。「若者を地域に定着させるためには、最新の技術や仕事に触れる機会を作ること。その仕事を市内で生活しながらも実現できるということを、目の前で示してあげることが重要。ふるさとテレワークで都市部の企業を誘致することでそうした機会を作り、さらに地域人材育成拠点へと発展させる。そんな狙いでプロジェクトに参画した」と福山氏は語る。
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